變壓器油,開閉器油の如き絶縁鑛油は本邦に於ては日本標準規格第93號に依つて其の品質が規格され,鑛油製造業者側は該規格を製造の規準として精製し,又使用者側は該規格に依つて其の性質を確めて使用に供して居る。標準規格の各項目は電氣物理的な性質の規格と化學的な性質の規格とに大別される。即ち絶縁耐力,比重,粘度,引火點,凝固點,蒸發量等の規格項目は前者に屬し,無機酸,有機酸,アルカリ,硫黄,析出物等の規格項目は後者に屬して居る。併し標準規格には化學組成を調査する項目が全く存在して居ない。
如上の事情により,絶縁油としては規格に合格しながら,其の化學組成を異にするものが多種存在して居る。然しながら絶縁油の良否は化學組成に依つて決定されるから,使用者側より見れば化學組成を豫知する簡便法が存在すれば好都合である。著者は新便法として,本邦産及び外邦産の鑛油類を凡そ10-5mmHg程度の高度眞空を利用して分別蒸溜を試みた結果に依れば,各試料とも智蒸溜温度範圍を異にし,其の結果に依つて各絶縁油の大略の化學組成を豫知し得ることを確め得た。其の結果によれば,60~140°Cの温度範圍に溜出し化學組成が異つた分子が多數に存在すると思考せられるもの,80~120°C附近に溜出して前者よりも分子の種類が尠しと認められるもの,100~120°C範圍に溜出して,分子の種類が更に尠しと認められるものの三者に大別することが出來る。之より見れば,高度眞空分別蒸溜法に依つて絶縁油の種類並に大略の化學組成を豫知し,使用に供することは當業者に取つて必要なことであると思考する。
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