日本救急医学会雑誌
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21 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 前崎 繁文
    2010 年 21 巻 2 号 p. 51-62
    発行日: 2010/02/15
    公開日: 2010/04/16
    ジャーナル フリー
    感染制御の目的は感染症の発症を未然に防ぐための平時の感染制御と,何らかの感染症のアウトブレイクが発生した際にその拡大を防ぐための有事の感染制御がある。とくに有事の感染制御では極めて短時間に幾多の感染制御のための手法を行う必要があり,多忙を極めることになる。院内(施設内)感染にはウイルスから寄生虫まで種々の微生物が関与するが,一般的には薬剤耐性菌,なかでも多剤耐性菌感染症がその対象となることが多い。多剤耐性菌のなかでもMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌; methicillin resistant Staphylococcus aureus)はその代表的な菌である。MRSAは1950年代から院内感染症の主な原因菌とされてきたが,現在では院内ばかりでなく,日常の社会生活にも浸透し,いわゆる市中感染型MRSAとして問題になりつつある。また,治療薬として新規の作用機序を持つリネゾリドが臨床使用可能となり,その有効性が確立されつつある。多剤耐性緑膿菌(MDRP; multiple-drug resistant Pseudomonas aeruginosa)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE; vancomycin resistant Enterococci)は発生報告が未だに少ないため,発生初期の段階で感染の拡がりを防ぐことが重要となる。我々の施設では2006年と2007年にMDRPとVREのアウトブレイクを経験し,有事の感染制御を実施してきた。その結果,MDRPおよびVREともに現在では制御可能なレベルとなり,平時の感染制御が実施されている。
原著論文
  • 山野上 敬夫, 松永 真雄, 森川 真吾, 世良 昭彦, 内藤 博司, 竹崎 亨, 多田 恵一
    2010 年 21 巻 2 号 p. 63-71
    発行日: 2010/02/15
    公開日: 2010/04/16
    ジャーナル フリー
    外傷現場で救急隊員が評価した重症度と,実際の転帰との関係を明らかにする目的で,地域網羅的研究を行った。2006年4月~2007年3月の1年間の広島圏域MC協議会(人口約134万人)に属する救急隊が搬送した全外傷症例(14,148例)を対象とし,現場での救急隊員の判断に基づいた重症度と受傷後14日後までの転帰を調査した。CPA群(救急隊現場到着時心肺停止状態)が57例(0.4%),ロードアンドゴー(以下L&G)が初期評価にて該当する症例(A群)が360例(2.5%),初期評価では該当しないが全身観察に該当項目が認められた症例(B群)が217例(1.5%),状況評価のみのL&G症例(C群)が361例(2.6%)であり,CPAを除くL&G症例は938例(6.6%)であった。L&G適応なし(D群)が13,153例(93.0%)であった。転帰調査票はA群355例,B群216例,C群357例,D群11,724例が回収され(回収率89.8%),転帰に関する分析は,これらの症例を対象として行った。CPAを除く14日以内の外傷による死亡例は43例であり,40例(93%)がA群の症例であった。多発外傷症例(転記調査票において2部位以上でAIS3以上と推定される傷病名が記載されたもの)は94例であり,CPAを除くL&G症例の10.1%を占めた。14日以内の死亡,または多発外傷,またはその両者を満たす症例はA群90例(25.4%),B群14例(6.0%),C群5例(1.4%),D群は2例(0.02%)であった。救急隊員が現場で観察するL&G適応項目のなかで,初期評価,全身観察の順に実際に重症の転帰をとる割合が高いことが示された。
症例報告
  • Joji Inamasu, Takumi Kuramae, Satoru Miyatake, Hideto Tomioka, Masashi ...
    2010 年 21 巻 2 号 p. 72-76
    発行日: 2010/02/15
    公開日: 2010/04/16
    ジャーナル フリー
    A rare case of delayed hypoglossal nerve palsy associated with occipital condyle fracture is reported. A 24-year-old man accidentally fell from his bicycle and sustained a blow to the left temple. He was alert and oriented in the emergency department. On neurological examination, he was able to stick out his tongue. Because of his complaint of headache and neck pain, brain computed tomography (CT) scan and cervical spine radiographs were obtained. Both imaging studies were considered normal, and he was discharged. A week later, however, he returned to our clinic complaining of tongue deviation and persistent neck pain. A CT scan of the craniocervical junction revealed occipital condyle fracture of the right side involving the hypoglossal canal, and the fracture was apparently responsible for the hypoglossal nerve palsy. Since the fracture was considered stable biomechanically, he was treated conservatively with the use of a rigid cervical collar. His neck pain subsided gradually and tongue deviation resolved within 4 months of injury. Occipital condyle fractures are not as rare as had been believed earlier, and may occur even after low-energy trauma. The possibility of occipital condyle fractures should be considered when treating patients with mild head injuries who complain of persistent neck pain, even if their cervical spine series appear normal.
  • 阪本 奈美子, 金 史英, 妹尾 聡美, 上村 吉生, 鈴木 亮, 森 朋有, 菊野 隆明
    2010 年 21 巻 2 号 p. 77-83
    発行日: 2010/02/15
    公開日: 2010/04/16
    ジャーナル フリー
    症例は20歳の男性。早朝,マンション前に倒れているところを警察官に発見され,状況などからマンション4階からの墜落外傷と判断され,当院救命救急センターに搬送された。来院時意識レベルはGCS E3V4M5で不穏状態であり,代謝性アシドーシスと著明な高血糖(1,520 mg/dl)を呈していた。全身検索の結果,腹腔内出血と仙骨骨折,第12胸椎破裂骨折があり,凝血塊を含んだ血尿を認めたため膀胱破裂を疑い緊急開腹手術となった。腹腔内検索で膀胱頂部に約7cmにわたり破裂しており,動脈性出血を認めたため止血と膀胱壁修復を行い膀胱瘻を造設した。その他腹腔内臓器に損傷はなかったが後腹膜血腫が増大し,術後血管造影で左右外仙骨動脈,左閉鎖動脈等に対して経カテーテル的動脈塞栓術を行った。HbA1cは5.9%で糖尿病関連自己抗体は陰性であったことから,劇症1型糖尿病と診断された。本症例は糖尿病性ケトアシドーシスによる意識障害のために墜落し受傷したと考えられた。両者が合併した本症例においては,外傷による侵襲は高血糖を助長した可能性がある。しかし,劇症1型糖尿病を合併していてもインスリンによる血糖コントロールと早期の循環血液量補正を行うことで外傷の経過に大きな影響を及ぼさないと考えられた。
  • 竹田 啓, 土井 智章, 加藤 久晶, 長屋 聡一郎, 白井 邦博, 豊田 泉, 小倉 真治
    2010 年 21 巻 2 号 p. 84-90
    発行日: 2010/02/15
    公開日: 2010/04/16
    ジャーナル フリー
    von Recklinghausen病(神経線維腫症type 1)の合併症としては脳神経腫瘍や骨格異常,血管奇形など様々なものがある。我々は頸部多発仮性動脈瘤破裂により気道閉塞を合併したvon Recklinghausen病の1症例を経験したので報告する。症例は48歳の男性。呼吸困難,左頸部腫脹にて当院救急外来を受診した。来院時は会話可能であったが,数十秒の経過にて呼吸停止を来し,気管挿管を試みたが口腔内は占拠性病変が充満しており,外科的気道確保を施行した。頸部CTにより,気道閉塞の原因は仮性動脈瘤破裂による血腫の圧迫と診断した。入院後,外頸動脈からの出血が持続したため,transcatheter arterial embolization(TAE)を施行し救命した。頸部仮性動脈瘤破裂に伴う血腫により,急激な気道閉塞を来し致命的になることもあるため,von Recklinghausen病を有し,頸部腫脹を認める症例に対しては,外科的気道確保などの早期気道確保ならびにTAEを考慮する必要がある。
  • 松本 松圭, 守屋 志保, 清水 正幸, 林田 敬, 船曳 知弘, 山崎 元靖, 北野 光秀
    2010 年 21 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2010/02/15
    公開日: 2010/04/16
    ジャーナル フリー
    大量の高濃度塩酸を内服し,ショック・凝固障害が強いためダメージコントロール手術を施行した症例を報告する。症例は70歳の男性で,35%塩酸250mlを経口摂取した。摂取後7時間でショック状態となり,消化管壊死と診断し,緊急手術を施行した。術中著しい凝固障害のため,胃全摘・膵温存十二指腸切除のみとし,vacuum pack closureにて閉腹とした。術後,ICUにて循環動態・凝固障害を改善させ,食道摘出・膵胆管空腸吻合を予定としていた。しかし,家族の同意が得られず,ガーゼ抜去のみの姑息的手術となったが,再手術時には全身状態良好であった。術後,壊死食道を残しており,第28病日,縦隔炎のため死亡した。外傷患者でなくても,ダメージコントロール手術は全身状態不良な患者における手術にも十分応用できる。
編集後記
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