日本救急医学会雑誌
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24 巻, 12 号
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原著論文
  • 村井 映, 西田 武司, 仲村 佳彦, 市来 玲子, 弓削 理絵, 梅村 武寛, 石倉 宏恭
    2013 年 24 巻 12 号 p. 977-983
    発行日: 2013/12/15
    公開日: 2014/02/04
    ジャーナル フリー
    【はじめに】III度熱中症患者の核温冷却を目的に血液濾過透析回路を用いた体外循環を施行した。hemofilterの代わりにウォーマーコイルを用いた改良を加え,冷却効率の改善を試みた。【対象と方法】2000年7月から2011年10月の期間において福岡大学病院救命救急センターに入院したIII度熱中症患者を対象に患者背景,入院時状態,体外循環使用の有無,転帰を調査した。2004年から回路に改良を加えたが,その時期の前後で前期冷却法群と後期冷却法群の2群に分け,入室から体外循環開始までの時間,体外循環施行時間,冷却効率,人工呼吸期間,入院期間を後方視的に比較した。【結果】III度熱中症症例は28例で,このうち体外循環を実施した症例は14例で,前期冷却法群6例,後期冷却法群が8例であった。年齢,性別,BMI(body mass index),入院時APACHE II score,急性期DIC score,核温において前期冷却法群と後期冷却法群の2群間に有意差を認めなかった。体外循環施行時間は前期冷却法群で32.5分,後期冷却法群で27.5分と後期冷却法群で短縮されたが有意差は認めなかった。冷却効率は前期冷却法群で0.040℃/分,後期冷却法群で0.112℃/分と後期冷却法群で有意に高値であった(p<0.01)。人工呼吸期間は前期冷却法群6.0日,後期冷却法群3.5日,入院期間は前期冷却法群10.0日,後期冷却法群13.5日であったが,2群間に有意差を認めなかった。【結論】今回,III度熱中症に対して血液濾過透析回路を用いた体外循環による血液冷却法を考案した。本法は簡便性,体温冷却効率,侵襲度からみて臨床上有用な熱中症時の冷却装置であると考えられる。
  • 賀来 典之, 六車 崇, 井手 健太郎
    2013 年 24 巻 12 号 p. 984-990
    発行日: 2013/12/15
    公開日: 2014/02/04
    ジャーナル フリー
    【背景・目的】近年シミュレーションを用いた蘇生教育が広く行われるようになったが,その効果についての検証は乏しい。このため,シミュレーションのシナリオでの診療の各要素の施行率と施行までの所要時間を測定し,教育効果の検討を行った。【対象】国立成育医療センター2009年度新規採用レジデント24 名(初期研修医11 名,小児科医11名,その他2名)。卒後年数は中央値3.5 年(最小2-最大9 年)。23 名がpediatric advanced life support(PALS)プロバイダーで,受講後期間は中央値7 か月(最小1-最大52か月)。【方法】対象をシナリオシミュレーションを用いた実習群(S群)・コントロール群(C群)の2群に分け,S群は約3ヶ月間,週1日30分間・2シナリオ,計12回実習を施行した。シナリオは心室細動,無脈性電気活動,心静止のいずれかとした。実習終了前後で,乳児心室細動のシナリオシミュレーションを用いたテスト(7分間)を行い,心肺蘇生の各要素施行までの時間およびCPR継続時間を計測した。【結果】① 実習後のテストでは,S群はC群より胸骨圧迫までの所用時間は短縮し(p=0.04),CPR継続時間も増加していた(p=0.002)。② S群の実習前後の比較では,人工呼吸開始(p=0.03),胸骨圧迫開始(p=0.002),除細動(p=0.005)までの所要時間が早くなり,またCPR継続時間も延長していた(p=0.002)。【考察】心停止症例への対応を主目的に,同一のシナリオを反復し,実習の回数を増加させることで教育効果が得られた。しかし,院内蘇生教育の時間確保や,不充分な結果の者への教育は今後の課題である。またシミュレーションを用いた教育では,時間経過に伴う知識・技術の低下が指摘されており,今後,実習の継続期間や頻度について検討が必要である。
  • 鈴木 卓, 松浦 晃正, 河村 直, 峰原 宏昌, 北原 孝雄, 相馬 一亥
    2013 年 24 巻 12 号 p. 991-999
    発行日: 2013/12/15
    公開日: 2014/02/04
    ジャーナル フリー
    本邦の救命救急センターは高エネルギー外傷による骨折患者の初期治療を行う役割をもつが,内固定術後の長期予後はこれまで報告されていなかった。本研究の目的は救命救急センターで内固定手術を受けた骨折の骨癒合率や再手術率,再手術の危険因子を検討することにある。2010年6月までの5年間に当センターで内固定手術を受けた高エネルギー外傷による四肢骨折患者272名,363骨折を対象とした。患者年齢,受傷機転,ISS,骨折部位,開放骨折の有無や,その後の治療経過を当院の電子カルテシステムを用いて調査した。転医した患者についてはその施設へ書面による調査を行った。患者年齢の中央値は37歳,受傷原因はバイク事故が最も多く,次いで高所からの墜落,自動車事故の順であった。骨折部位は大腿骨骨幹部骨折が最も多く,次いで脛骨骨幹部骨折が続いた。開放骨折は全体の39.4%に認められた。363骨折のうち,最終的に治療終了まで経過観察できたと判断された骨折は324骨折(89.3%)あり,その観察期間の中央値は19か月であった。このうち90骨折(27.8%)が内固定後に予期せぬ再手術を受けていた。その理由は,術後感染,偽関節,遷延癒合の順に多く,再手術の時期は中央値で内固定後112日であった。最終転帰は良好な骨癒合を達成できたのが313骨折で経過観察できた患者の96.6%を占めたが,関節固定術(4骨折),切断(3骨折),偽関節のまま終了(2骨折),人工関節置換(1骨折),慢性骨髄炎のまま終了(1骨折)と,必ずしも機能予後は良好でないものも含まれていた。ロジスティック回帰分析により,下肢骨折であること,開放骨折であること,多発外傷であることの3つの変数が有意に再手術の危険因子であることが明らかとなった。高エネルギー外傷後に内固定を受けた四肢骨折は予期せぬ再手術を受ける可能性が少なくなく,とくに下肢骨折や開放骨折例,多発外傷例では術後長期の経過観察が極めて重要であると考えられた。
症例報告
  • 湯本 哲也, 若井 聡智, 定光 大海, 加藤 丈人, 寺島 徹, 小泉 雅典, 植木 浜一
    2013 年 24 巻 12 号 p. 1000-1006
    発行日: 2013/12/15
    公開日: 2014/02/04
    ジャーナル フリー
    1例目は47歳の女性。糖尿病の既往あり。8か月前より左背部痛が出現し歩行困難となったため前医に救急搬送され,左後腹膜腔から股関節周囲にかけて多量のガス像を認め同日当院に転院となった。来院時は脈拍数120/分,血圧102/64mmHg,体温36.0℃であった。下行結腸の穿孔による後腹膜膿瘍と直接進展による化膿性股関節炎のため開放ドレナージ術と人工肛門造設術を行った。後腹膜腔の感染がコントロールされた第78病日に左臼蓋と大腿骨頭の骨髄炎に対して臼蓋掻爬および大腿骨頭離断術を施行し,最終的に装具・杖歩行下に転院となった。2例目は52歳の男性。特記すべき既往歴なし。1か月前より右腰痛あり前医より紹介となった。来院時は脈拍数124/分,血圧124/74mmHg,体温36.7℃であった。上行結腸の憩室穿孔によると思われる続発性腸腰筋膿瘍に対して適宜開放ドレナージ術を施行したが,右化膿性股関節炎・骨髄炎を合併し,第108病日に臼蓋掻爬および大腿骨頭離断術を施行し軽快,最終的に装具・杖歩行下に退院となった。大腸穿孔による後腹膜膿瘍に化膿性股関節炎・骨髄炎を合併し,治療に難渋した2例を経験した。消化管穿孔に伴う後腹膜膿瘍で腸腰筋を主な進展経路とする場合には,化膿性股関節炎・骨髄炎の合併に留意する必要があると思われた。
  • 小寺 厚志, 岩下 晋輔, 池田 武士, 藤末 昴一郎, 小島 淳, 小川 久雄, 笠岡 俊志
    2013 年 24 巻 12 号 p. 1007-1012
    発行日: 2013/12/15
    公開日: 2014/02/04
    ジャーナル フリー
    84歳の女性。3年前に夫が他界した後,精神的ストレスを感じることが多くなった。今回,入浴後に鼻出血を認め,約30分の安静でも止血せず救急搬送となった。到着時,鼻出血は少量であった。鼻出血処置前のバイタルサインは,血圧151/75mmHgに上昇し,モニター心電図でST上昇を認めた。胸部症状がなかったため,5,000倍希釈アドレナリン浸透ガーゼでパッキングを行い止血を得た。モニター心電図でST上昇が持続していたため,12誘導心電図を施行したところ,II,III,aVf,V3-V6誘導でST上昇を認めた。心臓超音波検査で左室心尖部における壁運動低下を認めた。さらに救急車内で一時的に胸痛を自覚していたことが確認されたため,急性冠症候群を疑い心臓カテーテル検査を施行した。冠動脈造影では有意狭窄病変はなく,左室造影で心尖部を中心とした左室のバルーニングを認めたことから,たこつぼ型心筋症(Takotsubo cardiomyopathy: TCM)と診断した。経過良好で第14病日には心機能も改善し,第27病日に退院した。TCMは急性心筋梗塞に類似した胸部症状を呈する病態で,高齢女性に好発し,精神的ストレスが誘発因子と考えられている。我々の調べ得た限りでは,鼻出血にTCMを合併した報告は,本症例が初めてであった。本症例では,救急外来で心電図を含む標準的モニタリングを施行したことが,TCMの合併を診断することにつながった。標準的モニタリングによる初期評価の重要性を再認識した。しかしながら,早期にST上昇に気付きながら,到着時に胸部症状を認めなかったことから,アドレナリンによる止血処置を優先したことは合併していたTCMを増悪させる可能性もあり反省すべき点であった。
  • 鈴木 圭, 川本 英嗣, 横山 和人, 仲田 智之, 藤岡 正紀, 片山 直之, 今井 寛
    2013 年 24 巻 12 号 p. 1013-1019
    発行日: 2013/12/15
    公開日: 2014/02/04
    ジャーナル フリー
    【背景】門脈ガス血症(hepatic portal venous gas: HPVG)は全層性腸壊死(以下,腸壊死)の存在を示唆する予後不良な徴候とされるが,近年,高分解能CTの普及により非腸壊死例においてもHPVGの検出感度が高まり,保存的治療が奏功したとする症例も報告されている。従ってHPVGを診断した場合,症例毎に原因に応じた適切な治療を行う必要があるが,腸壊死の有無を正確に診断することは時に困難である。【目的・方法】HPVG例の適切な治療方針を探るため,当施設で2009年4月より2013年3月までにCTでHPVGが認められた症例を対象とし,転帰に加え,臨床・検査所見などの臨床的特徴と腸壊死との関連について後方視的に検討した。【結果】HPVG例は12例あり,心肺停止例を除外した結果8例が抽出された(年齢中央値62.5歳,男女比5:3)。腸壊死は4例で,反跳痛(p=0.029),動脈血base excess値(p=0.039),CRP値(p=0.025)が腸壊死と有意に関連した。HPVG量と腸壊死に有意な関連はなく,非腸壊死例の中には保存的治療のみでHPVGは速やかに消退した症例もみられた。死亡は腸壊死例1例のみであった。【結語】本検討におけるHPVGに占める腸壊死の割合は50%であった。少数例の検討であるが,HPVGの存在や診断時のHPVG量と腸壊死に有意な関連はなく,反跳痛所見,動脈血base excess値,CRP値が腸壊死有無を判断する上で重要であり,これらに異常所見がなく,全身状態が安定した症例においては,保存的治療が選択できる可能性が示唆された。
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