水田におけるBHCの動向を調べるために,ポットおよび圃場について,土壤,玄米,わらのBHC残留量を数年間にわたって測定した。
1) 分析法は,風乾,粉砕後アセトンで抽出し,ヘキサンに転溶,フロリジルカラムで精製して,ECDガスクロマトグラフにより定量した。
2) ポットの土壤にBHC粒剤を処理した場合,BHCは稲体に浸透移行して玄米中に0.04∼0.23ppm蓄積された。粒剤との接触期間が長いほど玄米中のBHC残留量は増加した。わらの残留量は土壤の残留量より高い場合があった。
3) 佐賀および香川農試の水田において,玄米および土壤中のBHC残留量を調べたところ,玄米のBHC残留量はその圃場の散布歴ばかりでなく,周囲のBHC使用状況や,土壤蓄積量に大きく影響されることがわかった。玄米中の残留量はBHCの使用を中止した後,1年間に1/3∼1/5に減少した。
4) 土壤のBHC残留量の対数と,玄米のBHC残留量との間には,一次の相関関係があった。異性体間ではδ-BHCの土壤から稲体への吸収率が最も高かった。土壤残留量が同レベルの場合は,土壤の腐植含有量が高い佐賀の方が香川より,玄米中のBHC残留量は低かった。
5) 土壤の深度別調査により,BHCは大部分約10cmまでの表層に残留し,機械的混合がないかぎりほとんど下層に浸透しないことがわかった。
6) 玄米,わら,土壤に残留するBHCの各異性体の割合は原末組成と非常に異なっており,残留BHCのβ/γを原末組成のそれと比べると,約10倍になっており,β-BHCの残留性がとくに高いことを示していた。δ/γは原末のδ/γの数倍であった。α-BHCは原末組成に比べ常に低い割合で残留しており,γ-BHCは原末よりやや低い割合で残留していた。
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