気象集誌. 第2輯
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73 巻, 5 号
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  • 渡辺 幸一, 田中 浩
    1995 年 73 巻 5 号 p. 839-847
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    名古屋市において1993年1月から1994年8月まで、大気中の過酸化水素(H2O2)濃度を測定した。H2O2濃度には日変化や季節変化がみられた。日変化は、主に光化学反応によって駆動され、汚染大気中では、午後に濃度が極大となり、深夜に濃度が最も低くなった。日中における濃度は日射量と最も高い正の相関があり、夜間における濃度は、大気安定度の指標としての風速と良い正の相関関係にあった。都市域における大気中の過酸化水素(H2O2)濃度の測定渡辺幸一田中浩名古屋大学大気水圏科学研究所名古屋大学大気水圏科学研究所名古屋市において1993年1月から1994年8月まで、大気中の過酸化水素(H2O2)濃度を測定した。H2O2濃度には日変化や季節変化がみられた。日変化は、主に光化学反応によって駆動され、汚染大気中では、午後に濃度が極大となり、深夜に濃度が最も低くなった。日中における濃度は日射量と最も高い正の相関があり、夜間における濃度は、大気安定度の指標としての風速と良い正の相関関係にあった。季節変化については、夏期に最も濃度が高く、冬期は非常に低くなった。月平均値は、1993年には5月に最高値に達したが、1994年は8月に最高値になった。これは、1993年の7月と8月が太陽光が不足していたためである。名古屋市のSO2濃度から判断すると、冬期は極度にSO2の酸化剤が不足していることがわかる。また、低気圧の通過によって、夜間にH2O2濃度が急激に増加する現象が観測された。これは、濃度の高い自由大気から大気擾乱によって下方に輸送されてきたためであると考えられる。
  • W.M. Vargas, J.L. Minetti, A.G. Poblete
    1995 年 73 巻 5 号 p. 849-856
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    南アメリカ中緯度における北東風と西風の強さの変動に、顕著な気候ジャンプが認められた時期を、気候的シグナル-ノイズ比などの検定によって明らかにした。、このような顕著なジャンプは、10年以上の周期で起こっており、過去100年間ではおおむね北半球で見いだされた気候ジャンプの時期と一致していた。月別の西風の強さでは、、ジャンプは1年のうち6つの月(1、3、4、7、11、12、の各月)に認められ、7月では1939年(弱化)・49年(強化)・67年(強化)・77年(弱化)に、また1月では1974年(弱化)に見いだされた。北東風の気候ジャンプは月および季節単位で認められたが、年単位ではで認められなかった。北東風における主要な気候ジャンプは1950年代初頭に認められ、長周期変動ととのにその強化(弱化)は、アルゼンチンの亜熱帯地域における降水量の増加(減少)と関係していたと考えられる。
  • 小倉 義光, 坪木 和久, 大野 久雄, 楠 研一, 韮澤 浩
    1995 年 73 巻 5 号 p. 857-872
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1992年4月22日、温帯低気圧の通過に伴い関東平野で細長いメソスケールの降雨帯が発生した。その主な特徴は、弧状の連続した壁雲の急速な発達により降雨帯が形成された点で、他の例に見られるような多くの孤立対流セルの並んだ降雨帯とは異なるものであった。この降雨帯は、それ自身に比べてはるかに広く弱い降雨域の南端に発達したもので、BluesteinandJain(1985)の分類では"embedded-areal-type"に属するものであった。気象庁定常観測データのメソ解析から関東平野の北西部分から局地的な寒冷気塊が南西に流出したことが明らかになった。それは東進する温帯低気圧に伴う水平気圧傾度により強制されたものであった。この寒気流が関東平野南部の総観規模場の南西風との間に収束を起こし、これにより降雨帯が形成された。さらにこの寒気流は、「前駆寒冷気流」と名付けられた下層のメソスケールの寒冷気塊の先端部であることが明らかになった。このように名付けられたのは、それが総観規模場の北西風の前方、上層トラフの前の南西風の下に存在したからである。
  • 土器屋 由紀子, 宮腰 紀之, 廣岡 俊彦, 山下 順也, 石川 澄雄, 大矢 正克, 菅各 重平
    1995 年 73 巻 5 号 p. 873-881
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    西部北太平洋へ輸送される陸起源の硫黄酸化物の量を推定するために、日本列島の南に位置する、比較的汚染源の少ない二つの島嶼(奄美大島および八丈島)において、降水の化学成分濃度を連続的に観測した。非海塩硫酸イオン濃度は両島嶼ともほぼ同じであったが降水量の多い八丈島において年間沈着量は多くなった。非海塩硫酸イオン濃度の季節変化は両島嶼とも冬から春に高く、夏から秋に低い傾向を示した。奄美大島(名瀬)においては非海塩カルシウムイオンの濃度が春先に高くなり、地殻起源の物質の関与が示唆された。気象条件について考察すると、両島嶼とも非海塩硫酸イオンおよび非海塩カルシウムイオンの沈着量に関してアジア大陸の影響下にあると考えることができるが、八丈島の場合は日本列島の影響も無視できない。
  • K. Labitzke, H. van Loon
    1995 年 73 巻 5 号 p. 883-889
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1964年から1993年にかけての期間における帯状平均気温のトレンドは、対流圏中高緯度の大部分の領域で正である。成層圏では、年平均で見た場合、トレンドは負である。一方、正のトレンド域が1月の北極域中部成層圏に現れ、冬の期間下降を続ける。これを反映して、晩冬には、高度場のトレンドが30hPa面と10hPa面で逆転する。年平均で見た場合、対流圏および成層圏の高度場のトレンドは、60゜N付近を境にして、低緯度側で正、高緯度側で負となる。従って、中高緯度域の帯状平均西風地衡風は、この期間強まっている。
  • 財前 祐二, 池上 三和子, 岡田 菊夫, 牧野 行雄
    1995 年 73 巻 5 号 p. 891-897
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1991年3月から1992年10月まで、中国張掖において、オプティカルパーティクルカウンターを用いて、5粒径範囲(半径0.15-0.25μm,0.2-0.5μm,0.5-1.5μm,1.5-2.5μm,2.5-5.0μm)のエアロゾルの個数濃度を測定した。大粒子(r&ge;1.5μm)の平均個数濃度は春に大きな極大、夏に大きな極小を示すような季節変化をした。また、晩秋と冬にそれぞれ、小さな極大と小さな極小が観測された。小粒子(r<1.5μm)の濃度は、冬に最大、夏に最小であった。大粒子の濃度と風速の1日毎の平均値を用いた相関は、高くなかったが、大粒子の季節変化は、主に平均風速の変化から説明できる。エアロゾル濃度と風向との間には相関が認められなかった。エアロゾル濃度は降水によっても影響を受けていることが分かった。砂塵嵐は、真冬以外の全ての季節で観測され、その頻度は、春に最も高かった。砂塵嵐時に、大きい粒子(r&ge;0.5μm)の濃度は一桁程度増加するのに対し、これより小さい粒子の濃度は逆に減少した。
  • 三上 正男, 藤谷 徳之助, 張 希明
    1995 年 73 巻 5 号 p. 899-908
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    乾燥地における砂漠化の機構を調べるため、1991年より中国新疆ウイグル自治区内のタクラマカン砂漠において、気象要素の長期観測を行った。この目的のため、タクラマカン砂漠南縁の礫沙漠(ゴビ)上に自動気象ステーションを設置した。約1年間にわたる観測データを解析し、オアシス郊外の草地の観測データと比較した。全ての月で月平均地表面温度は気温よりも高く、月平均顕熱輸送は一年を通じ上向きである。夏季において日中の比湿の増加が顕著に見られる。これは、風上側に位置する相対的に湿潤なオアシスからの水蒸気移流によるものと考えられる。主風向は2つあり、4月から6月にかけて見られる西よりの強風(平均風速7m/s以上)と夜間の南南東風である。この夜間の南南東風は、一年を通じて顕著に見られる時計回りの風向の日変化に伴うものである。ゴビから11キロ離れたオアシス内の草地とゴビの風向は,同じ日変化を示す。ゴビから西に100キロ離れたオアシス和田の地上から160mまでの風はゴビと同様の変化を示している。この風向の日変化は、崑崙山脈と砂漠地帯間の局地循環によるものである事が強く示唆される。
  • 谷田貝 亜紀代, 安成 哲三
    1995 年 73 巻 5 号 p. 909-923
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    中国とモンゴルの乾燥・半乾燥地域における夏季降水量の経年変動を解析した。回転主成分分析の手法を夏李(6-8月)降水量時系列(1951-1990年)に適用し、その経年変動特性により、対象地域を次の5地域に区分することが出来た。I)タクラマカン砂漠、II)黄土高原、III)中国華北~モンゴル中・南東部、IV)天山山脈の北側、V)モンゴル北部。地域III)の代表的な時系列は、1955年以降の降水量の有意な減少傾向を示した。次に、対象地域の降水量の経年変動とアジアモンスーン活動との関連を調べるために、インド総降水量資料とこれらの地域の降水量変動との関係をモンスーン期の合計降水量についてだけでなく、夏季の各月について調べた。その結果、地域I)、II)の代表時系列はインド総降水量と、それぞれ負、正の相関が見られたことから、ここではこの2地域の夏季降水量の経年変動と大気大循環場との関連を、北半球の100hPa、500hPa高度及び地上気圧の偏差を使用して解析した。その結果、地域I)(タクラマカン砂漠)の夏季降水量の経年変動は、偏西風循環の風上側(大西洋~ユーラシア大陸)の偏差と関係し、多雨年にはトラフが90゜E付近に存在すること、また、チベット高気圧が多(小)雨年にはその東側で強く(弱く)なることがわかった。地域I)の6、7月の降水量はインド総降水量と負相関が見られた。この両地域の夏季降水量の経年変動の関係は中央アジア周辺の比較的局地的な循環場を介在していることが示唆された。一方、地域II)(黄土高原)の2-3年周期を呈する時系列は、6-9月の各月においてインド総降水量と正相関が見られた。対応する大循環場の変動は、太平洋高気圧、チベット高気圧、イラン周辺の地上気圧に見られた。これらは地域II)の夏季降水量の経年変動が、よりグローバルな、モンスーンに伴う大気海洋相互作用と密接な関わりがあることを示唆している。
  • 塚本 修, 佐橋 謙, 王 介民
    1995 年 73 巻 5 号 p. 925-935
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    周囲を砂漠に囲まれた張掖(Zhangye)オアシスで放射量と乱流フラックスの観測を行ない、地表面熱収支と蒸発散量の季節変化を明らかにした。ここはHEIFEの基本観測点の一つで、オアシスを代表するものである。オアシスは砂漠に比べて植生が豊かなため上向きの短波・長波放射量が小さく結果的に純放射量が大きくなる。また、地表面での熱フラックスは潜熱フラックスが支配的で平均的なボーエン比は0.2程度である。放射フラックスと顕熱潜熱フラックスから地表面熱収支を評価すると地中熱フラックスを考慮しても年間を通じて大きな残差項があり、今後、水平方向の移流を考慮した熱収支を考える必要がある。渦相関法による水蒸気フラックスの値から季節毎に行われた強化観測期間(IOP)期間中の日蒸発散量は3.4mm(8月),1.7mm(10月),0.2mm(12月),2.8mm(5月),3.9mm(6月)という結果が得られた。一方、IOP以外の期間についても蒸発散量を評価するために、2年間の連続した鉛直プロファイルのデータを用いての推定を試みた。安定度の効果と零面変位の変化を導入することによって、渦相関法による値とほぼ一致する結果を得ることができた。これをもとにして張掖オアシスにおける通年の蒸発散量を評価した結果、535mmという値が得られた。これは気象台で蒸発計を用いて得られている年間蒸発量の約4分の1になる。
  • 小林 哲夫, 永井 秀幸
    1995 年 73 巻 5 号 p. 937-945
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    土壌面蒸発測定法の多くは水面蒸発測定法に由来する。したがって、それらは必ずしも乾燥土壌面からの蒸発の測定には適していない。その主な理由は、乾燥表土層(DSL)が形成されると、接地気層内に水蒸気のコンスタント・フラックス層が形成され難いからである。しかしDSL内では、日中の大部分の時間帯において、水蒸気の上向きフラックスは深さによらずほぼ一定である。DSL法の原理はこの準コンスタント・フラックスを同層内の温度と含水量のプロフィールから推定しようとするものである。DSL法を用いてHEIFE沙漠観測点の砂地面からの蒸発量が測定され、表層1メートルの土壌水分の減少量と比較された。その結果つぎのような結論が得られた。(a)DSL法によって日中に7回に測定した蒸発速度から推定した降雨(約15mm)後約1週間の日蒸発量は、表層30cmの土壌水分の日減少量とほほ一致した。(b)乾燥土壌面からの日蒸発量の近似値は、DSL法によって午後に1回測定した蒸発速度と降雨後の経過日数から推定できる。
  • 岡田 菊夫, 甲斐 憲次
    1995 年 73 巻 5 号 p. 947-957
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    中国北西部の張掖とその周辺において、1990年、1991年の春および1990年夏にエアロゾル粒子を採集した。粒子に含まれる元素(原子番号11以上)の重量割合は、電子顕微鏡とそれに付属のエネルギー分散型X線分析器を用いて調べた。また、この結果を使用して、粒子の分類を行った。なお、分析には、3試料(春)と1試料(夏)を用いた。春期において、鉱物粒子が半径0.1-6μmのエアロゾル粒子の97-98%を占めていることが分かった。鉱物粒子の60-70%がアルミノ珪酸塩を主体とするものであった。また、Caを多く含む粒子の割合は10-20%であり、そのうち、石膏(CaSO4・2H2O)と考えられるSを含む粒子が存在した。しかし、ほとんどの鉱物粒子中でのS/Ca重量比はO.1未満であった。また、炭酸カルシュウム(CaCO3)を主に含有すると考えられる粒子がサブミクロン領域に集中して存在していた。夏期の風が強い状態(風速8ms-1)で採集された試料においても、鉱物粒子がエアロゾル粒子(半径0.1-5μm)のなかで98%を占めていた。このことは、夏においても鉱物粒子が重要なエアロゾル粒子であることを示唆するものである。
  • 米谷 俊彦, 佐橋 謙, 大滝 英治, 塚本 修, 光田 寧, 王 介民
    1995 年 73 巻 5 号 p. 959-974
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1992年6月に中国の張掖のオアシスのコムギ畑において、渦相関法を用いて群落内外の二高度で水蒸気、顕熱、炭酸ガス、運動量の輸送量の同時測定を行い、エネルギーと炭酸ガス収支の日変化を得た。群落内部の中層におけるそれぞれのフラックスと比較して、群落上の水蒸気、顕熱、炭酸ガスの鉛直フラックスがはるかに大きかった。このことは、日中には繁茂した群落(LAI=5)の上層が水蒸気の活発な供給域であり、炭酸ガスの活発な吸収域であることを意味している。BIOPの期間に、オアシス周辺の暖かい砂漠やゴビから流入した強風が、群落上における上向きの水蒸気輸送を増大させ、有意な顕熱の下向き輸送をもたらす、いわゆるオアシス効果が観測された。コムギ畑で観測された乱流フラックスや関連する物理量の日変化がGoudriaanのモデル計算の結果と比較された。モデル計算は、群落上部での潜熱の大きな損失、強風時の顕熱の有意な下向き輸送などの、オアシスのコムギ群落の微気象の幾つかの主要な特徴を再現した。また、観測結果とモデル計算の比較は、植被層内外で移流による潜熱の発散、炭酸ガスの収束が生じていた可能性が高いことを示している。
  • 光田 寧, 玉川 一郎, 佐橋 謙, 王 介民
    1995 年 73 巻 5 号 p. 967-974
    発行日: 1995/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    中国甘粛省河西回廊地域のHEIFE臨沢砂漠観測点での年間蒸発量の推定を行った。蒸発量は純放射量の観測値、IOP期間中に実測で決定したバルク交換係数を用いて計算した顕熱輸送量、さらに地中温度勾配の時間変化から推定した地中への熱輸送量を用いて10日間毎にエネルギー平衡方程式の残差として計算した。その結果、1991年から1992年の間に年間120mmという値が得られた。このような方法を取らざるを得なかったのは、水蒸気の乱流特性が、高温で低湿の砂漠において、過去の知識とは異なった、予測しなかったような性質を示したことによる。この年間蒸発量の値は、河西回廊低部のHEIFE地域の年間雨量100mmより約20%大きい。
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