2015年に血栓回収療法のエビデンスが確立し,塞栓性近位脳血管閉塞例であっても迅速な再開通によって,確実な転帰改善が得られるようになった.2011年から直接阻害型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant; DOAC)が登場したことも相まって,急性期の抗血栓療法にも選択肢が増えている.本稿では,ここ数年で様変わりした脳梗塞急性期治療の進歩を解説する.
症例は65歳女性である.眼瞼下垂,腹筋の筋力低下を呈し,抗アセチルコリン受容体(抗AChR)抗体陽性の重症筋無力症(myasthenia gravis; MG)と診断され,浸潤型胸腺腫を伴っていた.化学療法とステロイド治療で胸腺腫の縮小と筋無力症状の改善を認めたが,数か月後から著明な低γグロブリン血症を認め,日和見感染を繰り返した.B細胞比率1%と著明に低下,CD4+CD25+T細胞数の比率も低下し,液性免疫,細胞性免疫の両者の障害が示唆された.胸腺腫に免疫不全を合併するGood症候群の症例は散見されるが,さらにMGを伴い多彩な日和見感染を繰り返した報告は稀であるので報告する.
症例は55歳男性.20年前から一過性の右手足のぎこちなさを度々自覚した.同症状で前医に入院し,2日目に全身痙攣を来した.頭部CTで左前頭頭頂葉の萎縮と皮質に沿った石灰化を認め,当科に紹介された.高次脳機能は正常で右上肢の巧緻運動障害と右上下肢の錐体路徴候を認めた.髄液所見は正常で,脳波で左前頭部に徐波を認めた.頭部MRIの磁化率強調画像で左大脳深部白質の髄質静脈拡張を認めた.造影後FLAIRで左前頭頭頂葉の軟膜増強効果を認め,緑内障と顔面血管腫を伴わないことからSturge-Weber症候群III型と診断した.成人で診断される本疾患は稀だが,磁化率強調画像や造影後FLAIRの評価が重要である.
症例は62歳の女性である.15歳からバセドウ病,43歳よりシェーグレン症候群の治療を受けていた.52歳時から下肢近位優位の筋力低下が進行し,自己免疫疾患合併から多発筋炎を疑ったが,筋生検で慢性ミオパチー型筋サルコイドーシスと診断した.過去に筋病理診断を行った筋サルコイドーシス25例中,6例が自己免疫疾患を合併し,内訳はシェーグレン症候群4例,バセドウ病1例,自己免疫性肝炎1例,アレルギー性紫斑病1例で,本例のみシェーグレン症候群にバセドウ病を合併した.自己免疫疾患を合併した筋力低下では多発筋炎が疑われやすいが,筋サルコイドーシスを筋生検で鑑別する必要がある.
チョウセンアサガオ中毒の夫婦例を報告する.症例1は71歳の女性.意識障害で救急入院した.散瞳,口渇,頻脈,高血圧などの抗コリン徴候を示した.瞳孔は左右不同を示し,脳内局在病変を疑ったが,異常なく原因不明の急性脳症で経過観察.症例2は68歳の夫.翌日に同様の意識障害で救急入院.軽度散瞳を示し,類似の症状のため,病歴再聴取し,チョウセンアサガオの根をゴボウと誤食したことが判明した.本症は散瞳を伴う意識障害が特徴の急性脳症であるが,瞳孔不同あるいは軽度の散瞳の場合,診断に迷う.家族内発症が診断の糸口であった.重症例では全身痙攣,錐体路徴候を呈し,死亡例も報告され,神経救急疾患として重要である.
症例は55歳の男性.約3日の経過で発熱,意識障害,視力低下が出現した.神経学的に軽度の意識障害,両側の視力障害がみられ,頭部MRIのFLAIR像で高信号域が多発し,一部に造影剤による増強効果を認めた.脳生検の結果より単純ヘルペス2型脳炎および急性網膜壊死(acute retinal necrosis; ARN)の合併と診断した.アシクロビルとステロイド併用療法を施行したが,意識障害および視力障害はさらに悪化した.抗ウイルス薬をホスカルネットに変更し,意識障害および視力の改善を認めた.ARNはヘルペス髄膜脳炎後に発症するが,本症例のようにARNを合併したヘルペス脳炎は稀であり,難治性の場合はホスカルネットの投与を考慮する必要がある.
症例はフィッシャー症候群と診断した47歳男性.経静脈的免疫グロブリン療法を施行後に,両側顔面神経麻痺が出現した.経時的な電気生理学的検討により,主病変は顔面神経近位部に存在し,顔面神経遠位部にも軽度の病変が存在する可能性が示唆された.頭部MRIは極期に両側顔面神経の広範囲に造影効果を認め,顔面神経近位部病変を支持するものと考えた.
第101回日本神経学会中国・四国地方会抄録
2016年12月3日(土)開催
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