1) 本実験は深海産のホッコクアカエビの資源対策を検討するために, 利用の段階で廃棄されている抱卵エビの卵を対象に, 昭和47年2月21日漁獲後移送した斃死エビから卵を採取して, 人工ふ化と初期の幼生飼育を行なった。
2) 抱卵エビは保冷器を用いて, 砕氷を添えたビニール袋に, 0~0.2℃の低温を保ちながら延8時間を要して移送したが, 母体が斃死状態にあったにもかかわらず, 十分に活卵として本実験に提供できた。
3) 人工ふ化は3~5℃を保つ小型低恒温装置内に大型のシャーレをセットして, この中に卵を収容しながら行ない, ふ化幼生の飼育には同装置内にセットした内部濾過循環式水槽に放養して行なった。
4) 実験卵は, 卵の熟度が橙黄色に進んだ斃死抱卵エビを選び, この1尾から活卵2, 930粒を採取し, 4月10日までに917尾のふ化幼生を得た。ふ化率は31.2%であった。
5) ふ化幼生はメタゾエアの形態を示し, 体長は約6mmの大きさを有した。
6) ふ化当初の幼生の浮游姿勢は, 仰けの状態で脚を活発に振り動かす動作を示したが, 急な遊泳には尾部の屈伸運動により行なった。
7) 幼生の浮遊は遮光状態におくと, 昼夜の別なく浮遊する幼生を多く観察し, 負の走光性を示した。
8) 幼生の初期餌料にイガイのすり身を与えたが, 幼生がこれを索餌する行動を認めた。しかし餌料の適否については明らかにできなかった。
9) ふ化幼生を得てから全数死滅するまで, 延80日間の飼育実績を得たが, 飼育期間に原因不明のまま減耗をもたらした。これは使用した飼育装置がもたらす環境の相違の他に, 供給した餌料の適正にも問題があったものと推測した。
10) 今後の検討課題をあげるならば, (1) 採卵方法の省力化, (2) 大量収容のふ化器の開発, (3) ふ化幼生の採集方法の能率化, (4) 長期間を簡易に管理できる飼育装置の開発, (5) 低水温に対応できる活餌料生物の培養, および配合餌料の開発がある。
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