魚類の腸管内には,多様な分類群から構成される腸内細菌叢が形成され,その密度は109~1011 cells/g に達する。しかしながら,腸内細菌叢は魚種,成長段階,水温,飼育水の塩分などの影響を受けるばかりでなく,顕著な個体差や日別変動が特徴である。これらの腸内細菌の中にはビタミンを生産して宿主に供給したり,有機物を分解する酵素を生産して宿主の消化を助けたり,あるいは抗菌物質を生産して外来の病原菌の増殖を阻止して宿主を感染症から防除したりする細菌が含まれることなどから,腸内細菌叢と宿主魚類の間には密接な共生関係があることが示唆される。一方,ビブリオ科の多くの細菌種は,海水魚類の腸管に常在し,ときに日和見感染症を引き起こすことが知られている。感染症は経済的影響が大きいことから,定期的に飼育水中のビブリオ科細菌の密度を把握し,感染症発症のリスクを低減させる必要がある。
瀬戸内海に分布するトラフグの初期生態を明らかにするため,2010-2012年の6-8月に吉井川および高梁川河口周辺域の砂泥浜において,小型曳網による稚魚採集を行った。全長9.8-67.9 mm,計206個体のトラフグ属が採集され,mtDNA 分析によりシマフグ124個体(60.2%),トラフグ75個体(36.4%),クサフグ 4 個体(1.9%),コモンフグ 3 個体(1.5%)の 4 種に判別できた。トラフグは,吉井川河口域において 6 月中旬に全長10 mm で出現,8 月上旬に60 mm まで滞留し,当水域は成育場として機能していた。90%のトラフグは,低塩分(5.1-22.9),高濁度水(33.3-73.4 FTU)の泥底(泥分率20.5-47.4%)で採集され,河口の泥質干潟が好適な成育場となることが確認された。35 mm 以上の稚魚は高塩分の粗い底質においても採集されたことから,35 mm を境に河口の成育場から分布域を拡大する可能性が示唆された。
全米熱帯マグロ委員会(IATTC)所有のアチョチネス研究所にて,陸上キハダ親魚水槽個体の遺伝学的調査を行った。産卵に参加した雌の個体数,産卵数,産卵日をミトコンドリア d-loop 領域を用いて調査した。水槽には2011-14年の調査の間,50尾の親魚が飼育されていた。全親魚と,調査に用いた555粒の受精卵の配列を比較し,産卵したのは少なくとも雌11尾であることが分かった。一晩の産卵に複数の雌が参加していたことも明らかとなった。一尾の雌については調査期間のうち,1年半にわたり,毎月産卵していた。他の個体については26ヶ月にわたり断続的に産卵していた。これらの結果は,キハダミトコンドリア d-loop 領域が個体識別に十分な多型を持っており,キハダの産卵生態を明らかにする分子生物学的ツールであること,野生個体の識別に使えること,養殖での親魚管理に有効であることを示す。
鳥取県沿岸の東部および西部海域において2016から2019年にかけて採集したアユ仔稚魚の耳石の日周輪を分析し,孵化日および初期成長を推定した。分析した全ての年級および採集水域を通じた孵化日の範囲は9月後半から1月前半にあり,そのピークは10月後半から11月前半であった。耳石の30日齢時に形成された輪紋の半径より推定した孵化後30日齢における推定体長(SL30)は,孵化時期が早い個体ほど大きい傾向があり,30日齢までの経験水温との相関が認められた。初期成長の変動は,年級や採集水域間の違いよりも孵化時期による影響が大きく,早生まれ群は初期成長の面で有利である可能性が示唆された。
瀬戸内海燧灘西部における,マコガレイとイシガレイの漁獲量の変動要因を明らかにするため,漁獲量減少前の2002~2006年(資源量高位期)と漁獲量減少後の2014~2017年(資源量低位期)の両種の稚魚の出現状況を調査した。両種ともに概ね水温 9~14°C で稚魚の分布密度が高く,20°C を超えるとほとんど採集されなかった。資源量高位期と資源量低位期ではマコガレイ稚魚の個体数密度最高値の平均に大差がなく,イシガレイ稚魚では後期に約2倍に増加しており,成魚の漁獲量の変動とは明らかな関連が見られなかった.そのため,カレイ科2種の漁獲量の減少要因は浅海域を離れる未成魚期以降にあると考えられた。
ニジマスの餌付け用植物飼料へ亜鉛を3段階(35,60,85 mg/kg)に添加して浮上稚魚に与え,幼魚期における植物飼料(亜鉛添加量, 60 mg/kg)の利用性に及ぼす影響を検討した。対照として魚粉飼料で餌付けし,その幼魚に魚粉飼料を与える区を設けた。餌付け終了時の魚体の亜鉛含量は亜鉛強化により増加し,85 mg/kg を添加した植物飼料区では魚粉飼料区と同等のレベルであった。魚粉飼料を与えた幼魚と比較して,植物飼料を与えた幼魚の成長や飼料効率は,稚魚期に亜鉛35および85 mg/kg を強化した飼料を経験した区で有意差がなく,これらの区では稚魚期に魚粉飼料を経験した区より有意に優れた。幼魚の魚体の亜鉛含量は魚粉飼料区が最も高く,植物飼料区で低くなり,特に稚魚期に植物飼料を経験した区でより低くなる傾向がみられた。以上の結果から,餌付け用植物飼料への亜鉛強化は幼魚期の植物飼料の利用性をさらに改善する効果はなかったが,幼魚期の植物飼料の亜鉛含量を適正化する必要性が示唆された。
ミールワーム Tenebrio molitor は,最もよく研究に用いられる昆虫ミールの一つで,多くの魚種で利用が検討されているがマダイにおける報告は少ない。魚粉主体飼料と植物性原料を主体とした無魚粉飼料(PP)の2種類の飼料を対照飼料とし,PP 飼料の植物性原料をミールワームミールにより代替した等タンパク質(45%)等脂質含量(15%)飼料を作製し,PP 飼料だけに摂餌誘因物質として1%のカツオペプチドを添加した。体重18.3 g のマダイにこれらの飼料を60日間飽食給餌したところ,成長成績,魚体の一般組成,飼料の消化吸収率に有意な差は見られなかった。ミールワームミールの配合によりカツオペプチド添加 PP 飼料と同等の日間摂取餌率が観察された。以上から,マダイ用無魚粉飼料に15%のミールワームミールを配合できることがわかった。
We investigated the impact of livelihood on happiness through a comparative analysis of three communities engaged in rice farming, fishing, and fish aquaculture in the Mekong River Basin, Cambodia. Social psychology and economic experiments, the dictator and ultimatum games, determined their daily well-being. Consequently, global trends evaluated this region with modest selfishness and advanced empathy overall, regardless of their livelihood, with a negative correlation between those outputs. Furthermore, each community was distinguishable by limited stress, hyper time-discounting, and lower equity. In conclusion, each livelihood has its own characteristics that are acceptable for daily life while enhancing happiness.
天然採苗が行われる“夏季”よりも早い“春季”に人工生産したマガキ種苗の成育特性を明らかにするため,2013年4月に生産した早期人工種苗と2012年夏季に宮城県で採苗され同年秋季に三重県に導入された天然種苗(2013年時点で2年貝)を用いて,2013年5月から翌年2月まで三重県鳥羽市浦村漁場で養殖試験を実施した。早期人工種苗の殻高の値は,天然種苗より低く推移したものの,飼育開始から6ヶ月後の11月には商品サイズに達した。また身質の商品性に関係する軟体部重量や栄養蓄積状態,肥満度等には,種苗間で大きな違いは認められなかった。また早期人工種苗の死亡個体の比率は天然種苗より有意に低く,生産効率の点で優れた特性を有していることが示唆された。本県におけるマガキの出荷時期は12月,1月が盛期であることを考慮すると,早期人工種苗の成長や商品性には実用的に大きな問題はないと評価された。