水産増殖
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59 巻, 2 号
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原著論文
  • 小林 徹, 伏木 省三
    2011 年 59 巻 2 号 p. 191-198
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    醒井養鱒場ニジマス血統集団から選抜された個体を用いた雌性発生継代によって,早期産卵形質および大型卵産出形質に関する遺伝的固定をおこなった。夜間照明による成熟調節操作を受けた1986年夏季産卵群(P)の再生産形質のうち排卵時期と産出卵のサイズの分布を調べ,産卵期間のうちで早期,中期,晩期に排卵した個体の中から大型卵を産出した個体をそれぞれ選抜し,それらの卵を用いて雌性発生で継代した。雌性発生1代目(1G)は1988年の秋に成熟し,それぞれの次世代集団は各選抜親魚の産卵期および大型卵産出に関する形質をよく受け継いでいた。そのうち特に早期に大型卵を産出したC系統の個体を用いて雌性発生継代した2代目(2G)は醒井通常系統よりも6週間も早い9月20日から排卵を開始した。1Gの卵サイズは系統ごとに広くばらついた。雌性発生C系統の1代目の平均卵径は4.90 mmとP群の1.06倍であり,その実現遺伝率は0.164であった。
  • 山元 憲一, 半田 岳志
    2011 年 59 巻 2 号 p. 199-202
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    マガキを用いて,密閉止水式の方法で,酸素分圧の低下に伴う換水量,酸素摂取量および酸素利用率の変化を調べた。換水量は,酸素飽和の状態では5.55±1.06 l/min/kg WW を示し,酸素分圧の低下に伴って増加して24.9±2.9 mmHg で8.89±2.72 l/min/kg WW と1.6倍の増加を示した。酸素利用率は,酸素飽和の状態では0.81±0.22%を示し,酸素分圧の低下に伴って増加して7.1±1.2 mmHg で3.57±1.02%を示した。酸素摂取量は,酸素分圧が低下しても24.9±2.9 mmHg まではほぼ酸素飽和の状態(0.250±0.050 ml/min/kg WW)を維持した。
  • 山元 憲一, 半田 岳志
    2011 年 59 巻 2 号 p. 203-206
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    マガキを用いて,Chaetoceros gracilis の投与前後の換水量,酸素利用率および酸素摂取量の変化を調べた。20,000 cells/ml で投与したところ,換水量は投与前(9.92 l/min/kg WW)の5.2倍(1.92 l/min/kg WW)に増加した。酸素利用率は投与前の2.5%から1.2%に減少した。酸素摂取量は投与前(0.259 ml/min/kg WW)の2.6倍(0.664 ml/min/kg WW)に増加した。投与後,換水量が最大を示すまでには27.3分を要した。
  • 川那 公士, 岩田 仲弘, 半田 岳志, 馬場 義彦, 植松 一眞, 難波 憲二
    2011 年 59 巻 2 号 p. 207-214
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    海水(20°C)に懸濁するスメクタイト(0, 4.5, 10, 18, 56 g/l)にヒラメを24時間曝露し,その血液性状の変化を調べ,スメクタイトがヒラメに及ぼす生理的障害を推定した。24時間の曝露でも,スメクタイト濃度 4.5および10 g/lでは,全ての魚が生残した。一方,スメクタイト濃度56 g/lでは全ての魚が曝露4.5時間以内に死亡し,18 g/lでは,15尾中14尾が24時間以内に死亡,残り1尾は26時間曝露後に死亡した。ヘモグロビン濃度と血漿タンパク質濃度はコントロール,生残魚,死亡魚の間で有意な相異は認められなかった。死亡魚はコントロールおよび生残魚に比較して,血漿中乳酸量,血中全アンモニア濃度および血漿中の無機イオン(Na+, Cl, K+, Ca2+, Mg2+)濃度が著しく有意に増加し,血漿中グルコース濃度は有意に減少した。血液性状の変化から,スメクタイトがヒラメに及ぼす致死的生理障害は,高濃度のスメクタイトによる窒息に起因するものと推定された。
  • 野呂 忠勝, 高橋 禎, 久慈 康支, 五嶋 聖治
    2011 年 59 巻 2 号 p. 215-223
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    ホタテガイ交配種苗を岩手県沿岸で養成し,生殖巣指数により産卵状況を調べた。その結果,産卵は,相対的に北海道日本海産種苗を親貝とする交配区で遅く,岩手県産種苗を親貝とする交配区で早く,北海道日本海産種苗と岩手県産種苗の交雑区ではその中間であった。岩手県沿岸産の天然採苗種苗の産卵について,付着時期別に検討した。その結果,産卵は,付着期の前半に付着した種苗は相対的に早く,付着期の後半に付着した種苗は遅い傾向にあった。アロザイム遺伝子を標識とし,天然採苗種苗の遺伝的類縁関係を推定したところ,付着期の前半に付着した種苗は東北地方産の貝に,付着期の後半に付着した種苗は北海道産の貝に遺伝的に近い関係を示した。これらのことは,産卵に関する形質は強い遺伝的支配を受けており,岩手県沿岸産の天然採苗種苗に見られる付着時期による産卵期の差異は,主に遺伝的要因に起因していることを示している。
  • 多賀 真, 山下 洋
    2011 年 59 巻 2 号 p. 225-233
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    トラフグ仔稚魚の成長にとって好適な塩分の発育に伴う変化と,塩分により成長差が発生する要因を検討した。10-70日齢の仔稚魚を,10日齢毎に塩分10,20,30の飼育水で15日間飼育した。その結果,10,20日齢の仔魚では塩分間に成長差はなかったが,30日齢以降の発育段階では,低塩分において成長が速い傾向が認められた。また10日,31日,50日齢の仔稚魚を,同上の3塩分区で12-13日間飼育し,摂餌量,飼料効率,代謝量の指標となる酸素消費量を調べた。酸素消費量は10-23日齢では塩分10で高かったが,31-43日齢,50-63日齢では,塩分間に差はなかった。一方,50-63日齢の摂餌量,飼料効率は低塩分で高い結果となった。以上のことから,トラフグの成長における好適塩分は稚魚期(30日齢前後)に入ると低塩分へ推移し,低塩分で高成長となる要因として,摂餌量と飼料効率の増加の重要性が示された。
  • 中川 至純, 橋本 卓也, 村田 修, 宮下 盛
    2011 年 59 巻 2 号 p. 235-239
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    メイチダイ仔魚は口径が小さいためにワムシを摂餌することが困難である。本研究では,初期餌料としてマガキのトロコフォア幼生を用いて仔魚飼育を行い,本種仔魚の成長に伴う口幅および上顎長を測定し,代田の方法により開口径を算出した。摂餌開始時(孵化後3日目)の仔魚の開口径および口幅はそれぞれ216.8±13.6および227.2±16.8μm であった。その時,仔魚の消化管内にトロコフォア幼生が確認された。口幅は,孵化後8日目まで上顎長より有意に長く,その後,孵化後17日目まで口幅と上顎長に有意差は認められなかった。本研究の結果から,本種早期仔魚は代田の方法により推定された開口径よりも実際に摂餌可能な口径が小さいこと,餌捕獲能力がより成長した仔魚や他魚種の仔魚期と比べても低いことが示唆された。
  • 徳原 哲也, 桑田 知宣, 苅谷 哲治, 藤井 亮吏, 原 徹, 熊崎 隆夫, 岸 大弼
    2011 年 59 巻 2 号 p. 241-245
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    渓流域の漁業協同組合の効率的経営に資するため,渓流魚の成魚放流を志向する遊漁者を対象とした釣獲実態調査と意識調査,および成魚放流の放流経費調査を行うことで成魚放流のあり方を検討した。その結果,釣獲数の分布は明瞭な二峰性を示し,好成績の遊漁者と不成績の遊漁者が出現すること,釣りの初心者と経験者の間で釣獲期待尾数に相関がないこと,漁業協同組合の放流可能尾数は最大20.2尾と算定され,意識調査と回収率から逆算した必要放流数37.2尾を充足できないこと,が明らかとなった。以上のことより,成魚放流に対する遊漁者の意識と漁協の放流経費との間には大きな乖離が認められ,漁協が現行の放流経費で成魚放流を志向する遊漁者の釣獲期待尾数を満たす放流を継続的に行うことは困難であることが示唆された。一方,集客能力は高いため,特別料金を徴収できる特設釣り場の設立,持ち帰り尾数の制限,キャッチ・アンド・リリースとの併用で採算性を向上できる可能性が考えられた。
  • 李 景玉, 遠藤 光, 吾妻 行雄, 谷口 和也
    2011 年 59 巻 2 号 p. 247-253
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    褐藻アラメとクロメから放出される2,4ジブロモフェノール(DBP)と2,4,6トリブロモフェノール(TBP)のエゾバフンウニ幼生の生残と変態に及ぼす阻害効果を調べた。ほぼすべての幼生は DBP と TBP の 5 ppm と10 ppm で落下し,20 ppm と50 ppm で死亡した。ジブロモメタンを被爆させた対照区で幼生は1時間後に43%,24時間後に75%が変態した。しかし,変態率は DBP の10 ppmで25-34%,TBP の10 ppm,20 ppm で24-34%,4-10%へと顕著に低下した。いずれも20 ppm と50 ppm で1時間以内にすべての幼生が死亡した。海中林は DBP と TBP によってウニの加入を化学的に防御しているのかもしれない。
  • 西濱 士郎, 圦本 達也, 内藤 剛, 森 勇一郎, 藤井 明彦, 那須 博史, 木元 克則, 前野 幸男
    2011 年 59 巻 2 号 p. 255-264
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    有明海でアサリ浮遊幼生の出現傾向と殻長組成を調査した。2004年10月は有明海の沿岸域に分布が多く,その殻長組成は180~189μm にモードがあり,調査日の約2週間前に孵化したと推定された。また,2005年6月は有明海の中央部に分布が多く,その殻長組成は140~149μm にモードがあり,孵化後7~10日と推定された。アサリ浮遊幼生の分布域は時期によって変化し,成貝が生息しない湾央部~湾奥部にも分布した。また,殻長組成の各モードはアサリが初夏および秋~初冬の両期間に複数回の産卵を行うか,有明海の各海域で産卵日が異なる可能性を示唆した。
  • 勝呂 尚之, 相澤 康, 細谷 和海
    2011 年 59 巻 2 号 p. 265-273
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    ギバチは,ギギ科ギギ属に属する淡水産のナマズで,近年,主要な生息域である上・中流域の河川環境が悪化し,生息地が減少したため,環境省や神奈川県の絶滅危惧種となっている。神奈川県水産技術センター内水面試験場では,種苗生産技術の開発研究と並行して,人工河川である魚類生態試験池を用いた復元研究に取り組んできた。本研究では2004年から2007年にかけてギバチの繁殖と生育についての調査を実施した。ギバチは毎年,繁殖が確認され,体長20~30 mm の稚魚が9月に採集された。放流した中流域から次第に分布を拡大し,2007年には全域から採集されるようになった。雄は雌よりも大型になり,体長・体重の関係には,雌雄差が確認された。本研究結果から,ギバチはコンクリート躯体の人工河川でも復元が可能であることが確認された。
  • 西岡 豊弘, 森 広一郎, 菅谷 琢磨, 竹内 宏行, 津崎 龍雄, 升間 主計, 岡 雅一, 中井 敏博
    2011 年 59 巻 2 号 p. 275-282
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    水産総合研究センターで,2004年に種苗生産したアカアマダイ稚魚の一部に死亡が発生した。ウイルス学的および病理組織学的検査の結果,この死亡にベータノダウイルスを原因とするウイルス性神経壊死症(VNN)が関与していることが明らかとなった。これはアカアマダイにおける VNN の初めての報告である。VNN の感染源を知るため PCR 法を用いてウイルス調査をおこなったところ,アカアマダイ養成親魚や飼育に用いる餌料生物からウイルス遺伝子は検出されず,日本海沖合で延縄により漁獲された天然アカアマダイから高率にウイルス遺伝子が検出された(n=265,陽性率 53.2%)。そこで,ウイルスの感染源はこれらの天然親魚であると推定し,本病の防除対策として,PCR 法による親魚の選別ならびに電解処理海水による受精卵の洗浄と仔稚魚の飼育を実施した結果,2005年以降は VNN の発生はなく,また種苗からウイルスは検出されなかった。本対策は VNN 防除に有効である。
  • Viseth Hav , 鵜川 亮, 木下 裕士郎, 秋篠宮 文仁, 多紀 保彦, 河野 博
    2011 年 59 巻 2 号 p. 283-297
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    ナマズ目パンガシウス科 Pangasius larnaudii の飼育個体(150個体,体長3.42~46.7 mm,孵化後0~35日)にもとづいて外部形態の発育を記載した。孵化当日の体長は3.53±0.1 mm(平均体長±標準偏差)で,孵化後15日には体長15.90±1.45 mm,孵化後35日には体長39.43±4.03 mm に成長した。脊索末端部は,体長3.42 mm の最小個体ですでに上屈を開始しており,体長約 9 mm になると上屈が完成した。黒色素胞は,卵黄嚢の表面,眼,直腸,尾部腹側正中線上,腹腔の背面,頭部,臀鰭の膜鰭,肩帯縫合部,下顎,口角の髭,背鰭前方部,体側の前方部,背側正中線上,尾鰭基底部,尾柄部などに出現したが,これらの出現には個体差が見られた。鰭条は,尾鰭,臀鰭,背鰭,胸鰭と腹鰭の順に出現し,定数に達したのは尾鰭,背鰭,腹鰭,臀鰭と胸鰭の順で,臀鰭と胸鰭は体長14 mm で完成し稚魚となった。
  • 酒井 明久
    2011 年 59 巻 2 号 p. 299-306
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    琵琶湖において2月から7月に小型定置網で漁獲されたアユの体長の経月変化と,湖水温,プランクトン量,アユの生息密度および河川への遡上尾数との関係を調べた。漁獲体長の変動傾向は5月までと6月以降では異なり,6月以降の変動には大型個体が河川遡上した影響が現れている可能性があった。2月の漁獲体長は前年秋のアユ仔魚密度と負の相関が認められた。3月以降の漁獲体長または漁獲体長増加率はプランクトン量と正の相関があった。6月と7月の漁獲体長は4~6月の小型定置網による本種の CPUE と負の相関があった。これらの結果から,琵琶湖産アユの漁獲サイズの年変動には,本種の生息密度が減少要因として,餌となるプランクトン量が増加要因として,それぞれ成長を介して関わっていることが明らかとなった。また,2月のアユの漁獲体長と CPUE およびプランクトン量から5月の漁獲体長の予測式を導くことができた。
  • 鵜沼 辰哉, 黒川 忠英, 徳田 雅治, 野村 和晴, 田中 秀樹
    2011 年 59 巻 2 号 p. 307-313
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    マイクロプレートを用いた個別飼育法はウナギの受精・ふ化・生残率測定に有効だが,ふ化直後の浮上斃死を防止する物質および抗生物質が欠かせないため,形態異常の解析に応用するにはこれらの物質が異常を誘発しないことが条件となる。48穴プレートにポリエチレングリコール6,000(PEG),ウシ血清アルブミン(BSA),ペニシリンGカリウム・硫酸ストレプトマイシン混合液(それぞれ200,000 IU/ml,0.2 g/ml)を加えた海水と受精卵を入れ,摂餌開始期まで飼育した。PEG と BSA は1μg/ml 以上で浮上斃死を止め,濃度上昇にともなう異常の増加はなかった。抗生物質混合液は0.25μl/ml 以上で細菌の増殖を止め,1μl/ml までは異常の増加はなかったが,2.5μl/ml 以上では体屈曲増加の傾向があった。以上の結果から,これらの物質を有効濃度内で低濃度で用いれば,本法により形態異常出現状況を評価できると判断された。
資料
  • 中村 智幸
    2011 年 59 巻 2 号 p. 315-325
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2012/10/08
    ジャーナル フリー
    サクラマスの資源管理と漁場管理に資するため,本州日本海側北中部の河川における本種の漁業と遊漁の規則の内容を調査した。都道府県の内水面漁業調整規則と漁協の遊漁規則に,禁漁期,禁漁区,全長制限,漁具漁法の制限および禁止が規定されていた。遊漁規則に尾数制限と人数制限が規定されている例もみられた。禁漁期間,禁漁区の数や距離,全長制限のサイズ,制限あるいは禁止されている漁具漁法の種類,制限尾数,制限人数は内水面漁業調整規則や遊漁規則によって変化に富んでいた。遊漁料の額は漁協間で異なっていた。また,一般に成魚の遊漁料は幼魚に比べて高かった。都道府県や漁協は, 資源の状態,生息環境の状態,漁業者や遊漁者の意見を踏まえて効果的な漁獲制限を規則に規定し,普及させることが重要であると考えられた。
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