バイを用いて種苗の量産化技術を確立することを目的として, 陸上水槽で自然産卵によって得た卵を重量法により計数し, ふ出・稚貝飼育槽 (10トン角型コンクリート水槽・2面) に収容して, 稚貝の水槽側壁へのはい上がり防止については二, 三の工夫をこらし, 餌料はヒレグロとキシエビを用いて稚貝の飼育を行ない (1973年6月21日-8月10日), かなり安定して種苗を生産することができ, 種苗の量産化への可能性について若干の知見を得た。
1) 測定した6種の飼育環境 (COD, 照度, pH, 溶存酸素飽和度, 比重および水温) のうちでは, 稚貝の水槽側壁へのはい上がり防止のために照度を下げたことが歩留りの向上にかなり良い結果を与えているものと考える。また水温は28℃以上になると摂餌量が低下することから, 稚貝の飼育環境としては28℃以下が良いものと考えられた。
2) ヒレグロとキシエビを50%ずつ混合した餌料は, 稚貝にとって有効な餌料と考えられた。日間給餌量は1日目が1g/m
2, 10日目が5-7g/m
2, 20日目が10g/m
2, 30日目が15-20g/m
2であった。
3) 稚貝の水槽側壁へのはい上がりは照度を下げることによってかなり防止することができ, また水槽側壁の水面上へのはい上がりは水表面との境界面にウェット・スーツ地をはり付けることおよび水面上へはい上がって乾いて死亡することは, 穴を開けた塩ビ管を水槽側壁の水面上約20cmのところに配管して, その穴から給水を行ない側壁を絶えず湿らせておくことによりかなり防止でぎた。
4) ふ出した浮遊幼生は2, 3日で匍匐生活へ移行した。匍匐生活へ移行直後の稚貝殻長は0.80-0.95mmの範囲であり, 平均殻長は0.875mmであった。その後の殻長は10日目が1.40mm前後, 20日目が2.00mm前後, 30日目が3.00mm前後であった。
5) 10トンの角型コンクリート槽2面を使用して, 浮遊生活から匍匐生活へ移行した稚貝を30日間飼育して, 平均殻長3.00mmの稚貝を255,308個体生産した。種苗の単位生産量は7,208個体/m
2と21,478個体/m
2であり, 歩留りは5.73%と10.74%であった。
6) 生産した稚貝の殻長範囲は1.3-6.5mmであり, その殻長組成は殻長2.00mm以下が20%, 2.01-3.00mmが41%, 3.01-4.00mmが27%, 4.01mm以上が12%であった。死貝の殻長範囲は0.9-3.2mmであり, その多くは浮遊生活から匍匐生活へ移行直後から殻長2.00mmまでに多くみられ, 殻長2.00mmまでの死貝は80%を占めた。
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