水産増殖
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59 巻, 4 号
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原著論文
  • 石田 宏一
    2011 年59 巻4 号 p. 505-519
    発行日: 2011/12/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    有明海のノリ生産者や漁船漁業者は諫早湾が堤防により閉め切られて以後,ノリ生産の不安定性,漁獲量の減少に悩み,漁場については流れの淀みや流速の減少を述べている。これらの現象は,堤防内側へ流入していた海水量が閉め切りにより流入しなくなったことが関与していると考えられた。堤防内側へ流入していた海水量の減少は潮汐表と海図から計算し,78.7×106 m3 と求め,この量の分,湾内への流入外海水量は減少しており,閉め切り後の湾外海水量の湾内海水量に対する海水交換率は潮汐1回あたり少なくとも1.5%減少している。また,流速は湾口域において1.8%減少しており,任意の鉛直断面を湾奥側にとるならば,閉め切りによる流速の減少割合がより高くなることが明らかになった。
    これらの漁場現象の変化は小さいように見えるが,潮汐は1年間に705回繰り返されることを考慮すると有明海の環境に与える影響は大きい可能性がある。
  • 黒川 優子, 川合 真一郎, 與世田 兼三, 濱田 和久, 田中 克, 安藤 正史
    2011 年59 巻4 号 p. 521-528
    発行日: 2011/12/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    アサヒガニのゾエアから稚ガニまでの発育にともなう消化酵素活性の変化を実験室において調べた。4,000尾の幼生を水温26.3±1.6°Cの0.5 m3水槽で飼育した。ゾエア1~4齢まではアルテミア幼生で飼育し,その後,稚ガニまでは成長段階に併せて冷凍アサリ,アミ,コペポーダなどを給餌した。トリプシン様酵素およびアミラーゼの活性を孵化直後から孵化後54日まで測定した。両酵素はゾエア1齢から明らかに認められ,幼生の成長にともなって活性は上昇し,とくに孵化後16日からの活性の上昇は顕著であった。体重の著しい増加も孵化後16日頃から観察され,消化酵素活性の上昇とよく一致した。中腸腺の機能的な分化はゾエア5齢(孵化後16日)で明らかに見られ,この発育段階で消化系の基本的な構造が整ったことを示唆している。トリプシン様酵素およびアミラーゼの活性上昇は組織学的な観察により調べた中腸腺の分化と発達によく対応した。
  • 山元 憲一, 半田 岳志, 津野地 達也
    2011 年59 巻4 号 p. 529-534
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    換水量の直接測定法を利用して,クロアワビの冬季から夏季にかけての各水温における酸素摂取量,酸素利用率および換水量を調べた。換水量は,二枚貝類よりも著しく小さい値を示すが,他の腹足類や遊泳性の劣る魚類とほぼ同じ値を示していた。酸素利用率は,二枚貝類よりも著しく大きい値を示すが,他の腹足類や魚類とほぼ同じ値(50%以上)を示していた。酸素摂取量は,他の腹足類,二枚貝類や魚類とほぼ同じ値を示していた。クロアワビは,冬季から夏季にかけての水温上昇に伴って,換水量と酸素利用率を増大させて酸素摂取量を増加させていた。
  • 山元 憲一, 半田 岳志
    2011 年59 巻4 号 p. 535-540
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    リシケタイラギの塩分低下に伴う換水と鰓の繊毛運動の変化,および塩分と生残率の関係を調べた。換水は,低酸素の状態では塩分の低下に伴って連続型から間歇型に変化させた後に,また酸素飽和の状態では間歇型のままで,換水量を減少させて19.3~23.5 psu で停止した。しかし,換水を停止した後も,殻は開けた状態を維持していた。換水量は,酸素飽和の状態および低酸素の状態のいずれも塩分の低下に伴って減少して20 psu でほぼ 0 l/min/kg を示した。鰓の繊毛運動は塩分の低下に伴って減少して,10 psu で停止した。生残率は,15 psu 以上では96時間まで100%を示したが,10 psu では24時間で0%を示した。
  • 川田 晃弘, 横田 賢史, Carlos A. Strüssmann , 渡邊 精一
    2011 年59 巻4 号 p. 541-549
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    ヤシガニはインド洋から太平洋の島々に分布し,大型で幼生期を除いて陸上生活するカニである。バヌアツにおいては重要な水産資源であり,人の住む島では過剰漁獲を抑えるため,最小漁獲サイズ,総漁獲量制限および抱卵メス保護の規制が実施されているが,小型化が問題となっている。ヤシガニは陸上生活に加え低成長・長寿命という生態学的特徴があり,小型化を持続させている可能性がある。ここでは,島内年齢構成モデルにより漁獲に伴う小型化とその持続性を定量的に評価した。生息地制限に伴う環境収容量と様々な漁業方式を設定して年齢構成をシミュレーションし,成長式により体長組成に変換して影響を調べ現規制において小型化が促進される状況を明らかにした。解析結果より現規制に加えて大型オス保護などの更なる対策を施すことによって一定期間後に小型化が解消されることが示唆された。
  • 成田 篤史, 柏倉 真, 齋藤 寛, 岡田 喜裕, 秋山 信彦
    2011 年59 巻4 号 p. 551-561
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    孵化5~20日後までのカワハギ仔魚の摂餌活動の日周変化と餌料密度や光周期の異なる環境で飼育した場合の摂餌数と成長および生残の違いについて調べた。仔魚の摂餌は照明点灯期間中に行われ,全ての成長段階で15~18時に消化管内の餌料数が最大となり、摂餌が最も活発となる傾向が見られた。孵化5日後の仔魚ではワムシ密度が高いほど日間摂餌数は多くなる傾向を示したが,孵化10日後の仔魚が摂餌したワムシ数は餌料密度よる違いはなかった。孵化直後より仔魚を24L:0Dまたは12L:12Dで飼育した場合,24L:0Dで飼育した仔魚の生残率は12L:12Dで飼育した仔魚に比べて高く,また,全長も大きかった。以上の諸結果から,カワハギ仔魚は餌料密度や光周期といった外部環境によって摂餌量が変化し,特に摂餌開始時期にその差が顕著に現れることが明らかとなった。このため,本種を効率よく飼育するための方法として,遊泳力の弱い孵化6日後頃までのワムシの高密度維持と照明の終日照射が有効であることが示唆された。
  • Lideman , Gregory N. Nishihara , 野呂 忠秀, 寺田 竜太
    2011 年59 巻4 号 p. 563-571
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    カタメンキリンサイ,トゲキリンサイ,トサカノリ(紅色植物門ミリン科)は,熱帯・亜熱帯域に生育する有用海藻であり,日本では南西諸島や九州でよく見られる。本研究では,これら3種の養殖技術を確立する上で必要な至適光・温度条件を検討することを目的とした。温度(16,20,24,28,32°C)が生長や光合成に与える影響については,培養による生長試験と溶存酸素計を用いた光合成試験の2つの実験で行った。また,水温24°C,光量0から536μmol photon m-2 s-1 の条件で光合成速度を測定し,光合成-温度曲線を作成した。光量90μmol photon m-2 s-1 における最適生長率はカタメンキリンサイとトゲキリンサイで24°Cと28°C,トサカノリで20°Cと24°Cの範囲だった。最大光合成速度はカタメンキリンサイで135.0,トゲキリンサイで65.0,トサカノリで52.4μg O2 (mg chl-a)-1 min-1であり,それぞれ94.9,69.4,35.4μmol photon m-2 s-1 以上で飽和した。これらの結果は各種の生育水深と日本南部における分布と密接に関連しており,各種の養殖可能時期について考察を行った。
  • 内村 祐之, 倉本 誠, 曽根 謙一
    2011 年59 巻4 号 p. 573-577
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    アコヤガイ赤変病が発生以来,収穫された真珠にレンガ色の真珠(濁り玉)の割合が増加した。この真珠は収穫された真珠の有機物を除去する脱色作業でも除去されないことが多いため,真珠生産者では商品価値のある真珠の収量は激減した。そこで,レンガ色の正体を明らかにするため,濁り珠を破砕し抽出した真珠の色素の NMR 分析と,電子顕微鏡による正常な真珠との結晶構造を比較した。色素の NMR 分析では,これまで報告されたメラニンのほかに,アコヤガイ体内のラジカル損傷産物である過酸化脂質が検出された。一方,電子顕微鏡観察では,濁り珠は正常な真珠に比べ稜柱層が有意に厚いことがわかった。抽出された色素は,真珠加工会社の脱色過程で除去されることから,レンガ色の正体は厚く形成された稜柱層にあると考えられた。
  • 中川 雅弘, 堀田 卓朗, 吉田 一範, 服部 圭太
    2011 年59 巻4 号 p. 579-584
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    クエの中間育成の適正な給餌量を調べることを目的として,給餌量を変えた試験を500 l 水槽で実施した。体重の3%を給餌する対照区と飽食量を給餌する試験区を3つずつ設定した。56日後の全長および体重は,対照区で82.3±4.2 mm,9.9±1.4 g,試験区で101.1±6.6 mm,17.0±3.3 g となり,区間に有意差が認められた。日間成長率は2.9±0.1%および3.1±0.1%となり,区間に有意差が認められた。生残率は94.7±3.1%および98.7±0.6%となり,区間に有意差が認められた。飼料効率は,149.0±7.1%,131.7±0.8%となり,区間に有意差が認められた。成長率および生残率については試験区が有意に高かったが,飼料効率は対照区が有意に高かった。全長40 mm の種苗を100 mm まで飼育する場合は,飽食量を給餌することにより成長率,生残率が高まることがわかった。
  • 澤山 英太郎, 高木 基裕
    2011 年59 巻4 号 p. 585-591
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    躯幹部の湾曲を伴うヒラメ形態異常(湾曲個体)の発生要因を調べるために,形態学的な観察とマイクロサテライト DNA による遺伝指標の比較および親子鑑定を実施した。27個体の親魚を用いて種苗生産を行い,58日齢の正常個体40個体と湾曲個体53個体を得た。形態学的な観察から,湾曲個体においては神経棘と血管棘の異常形成が確認された。ヘテロ接合体率やアリル頻度といった遺伝指標は,正常個体と湾曲個体で大きな違いは確認されなかった。親子鑑定の結果から,正常個体は7個体のメス親魚と10個体のオス親魚からなる20組合せが,湾曲個体では5個体のメス親魚と9個体のオス親魚からなる17組合せが確認された。また,湾曲個体を多く生んでいる親魚は確認されなかった。以上の結果から,本湾曲個体は遺伝的な要因よりも,何らかの後天的な要因が強く影響しているものと推測される。
  • 田中 優平, 高瀬 智洋, 駒澤 一朗
    2011 年59 巻4 号 p. 593-598
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    八丈島三根地区の底土海岸にて2006年1月から2009年12月までの4年間,カギイバラノリ Hypnea japonica の成熟及び生長の季節的消長を調査した。八丈島におけるカギイバラノリは,12月から3月の冬期に藻体が伸長し,4月から6月の春期に群落を形成した後,7月から8月の夏季に成熟し,その後急激に枯死する季節性を示すことが明らかとなった。胞子嚢の形成は,四分胞子が優占し,果胞子の出現は稀で,2007年7月と2009年6月にのみ観察された。四分胞子嚢の形成は水温が上昇する6月から7月にかけて観察され,四分胞子嚢形成には水温が影響することが考えられた。カギイバラノリの平均湿重量は,硝酸態窒素濃度(r=0.54, P<0.05)およびリン酸態リン濃度(r=0.59, P<0.05)との間に正の相関がみられたことから,カギイバラノリ群落の生長には,冬期における黒潮蛇行に伴う沿岸域への栄養塩の供給が重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 小川 真幸, 陳 家輝, 糸井 史朗, 杉田 治男
    2011 年59 巻4 号 p. 599-604
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    養殖アユの腸内容物,飼育水および配合飼料から分離した従属栄養細菌の N-アシルホモセリンラクトン(AHL)の生産能を調べたところ,配合飼料からは検出されなかったものの,飼育水からは1.1×104 CFU/ml,アユ腸管からは2.8×106~2.8×108 CFU/g の AHL 生産菌が検出された。また偏性嫌気性細菌はいずれも AHL を生産しなかった。AHL 生産菌30株の16S rRNA 遺伝子配列を解読し,分子系統解析を行ったところ,Aeromonas veronii(25株),A. popoffii(3),A. media(1)および Chromobacterium aquaticum(1)に分類された。以上の結果から,アユなどの淡水魚類における日和見感染症を解析する上で,AHL 生産菌の存在を考慮する必要があることが示唆された。
  • 中島 匠, 小坂 剛, 上野 信平, 鈴木 伸洋, 田中 彰
    2011 年59 巻4 号 p. 605-614
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    駿河湾エダミドリイシ群落のマガキガイの個体数密度に関して調査を行った。ここは本種の分布北限域にあたることから貝殻の形態を南方個体群と比較した。その結果,本個体群は殻幅に対する殻長の割合が小さく,細長い形態を有していた。2005年の個体数密度は2000年の約2倍に増加しており,サンゴ礫地の広範囲に生息していた。また水温の低下時期に高密度化する傾向が認められた。本種はエダミドリイシのポリプに対して軟体部を殻口に引っ込める忌避行動を顕著に示したが,サンゴ礫に対しては何も反応を示さなかった。餌である底質の付着藻類量はサンゴ礫が砂に比べ有意に多かった。死殻は殻高40 mm 以上の大型個体の割合が高かった。死亡して間もない付着生物のない死殻はほとんど破壊されていなかったが,付着生物のついた死殻の約60%は破損していた。本種の個体群サイズの増加要因を分布北限域における本種の生物特性から考察した。
  • 甲本 亮太, 工藤 裕紀, 高津 哲也
    2011 年59 巻4 号 p. 615-630
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    秋田県沿岸におけるハタハタ仔稚魚の水深別分布と摂餌生態を調べるため,2009年2-5月に仔稚魚の分布密度と食物組成および餌サイズ組成を調査した。仔稚魚は水温7.3-12.2°Cの底層に分布し,水深0.5-5 m の産卵場から個体発生的に水深60 m 以深に移動した。また稚魚は,水温13.2°C以上の底層には分布しなかった。ハタハタの孵化仔魚は脊索長が約12 mm あり,他の海産魚類の仔魚に比べて口器および形態が発達した段階で孵化していた。体長12-30 mm の仔魚の餌は浮遊性あるいは底生性のカイアシ類コペポダイトが高い割合を占め,40 mm 以上ではアミ類が優占した。コブヒゲハマアミはハタハタ稚魚の成育場に同期的に出現し,他の浮遊性あるいは底生性の甲殻類に比べて大型であることから,稚魚の重要な餌生物の一つであると考えられた。
短報
資料
  • Mitsuharu Yagi, Tatsusuke Takeda, Michiya Matsuyama, Shin Oikawa
    2011 年59 巻4 号 p. 643-647
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2012/12/27
    ジャーナル フリー
    Cephalopods during their early life stages resemble miniature adults, but their planktonic mode of life differs from that of adults, and, by convention, are called “paralarvae”. We investigated the prey-capturing behaviour of the loliginid squid Uroteuthis (Photololigo) edulis paralarvae under culture conditions. Paralarvae hatched at a mean size of 2.1 mm in mantle length (ML). Prey-capturing behaviour was first observed on 1 day after hatching. Although paralarvae were fed a mixture of five types of prey (Artemia nauplii, copepods, amphipods, crab megalopae and mysids), capturing behaviour was only observed for crab (Decapoda: Grapsidae) megalopae, even when other organisms were present in greater numbers. These results suggest that this species specific-feeding preference generate variability in the paralarval survival rate and may be a cause of growth fluctuation in U. (P.) edulis in captivity.
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