水産増殖
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72 巻, 1 号
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原著論文
  • 後藤 孝信, 阿形 明音, 田林 俊祐, 大庭 瑶子
    2024 年72 巻1 号 p. 1-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    ブルーギルの肝臓ホモジネートを用いて,l-システイン(Cys)からの酵素反応的な硫化水素(H2S)の産生について調べた。H2S 量は,酵素反応により産生された H2S を ZnS の化学形で補足し,これに N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミンを加え,生成するメチレンブルー濃度を吸光度測定して求めた。 H2S の産生は,Cys 濃度,タンパク質量,および反応時間の増加とともに上昇し,pH が6.0-9.0の広い範囲で見られ,そして反応温度が45℃のときに最大となった。また H2S の産生は,ピリドキサール 5'-リン酸(PLP)の添加により増加し,PLP 依存性酵素の阻害剤であるヒドロキシルアミンにより著しく減少した。コイおよびニジマスについても H2S の産生を調べたところ,ブルーギルの値が最も高いものの,何れの魚種においても H2S の産生が確認された。 以上の結果より,哺乳類と同様,魚類にも PLP 依存性酵素による Cys からの H2S 産生経路が存在すると考えられた。

  • 松本 暢久, 泉水 彩花, 深田 陽久
    2024 年72 巻1 号 p. 9-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,植物原料による魚粉の代替がブリの抗菌ペプチド遺伝子発現量に及ぼす影響を明らかにするため,2種の抗菌ペプチド(ヘプシジンとピスシジン)の組織分布と,魚粉代替飼料で飼育したブリの抗菌ペプチド遺伝子発現量を測定した。組織分布観察では,脳,鰓,頭腎,腸,白血球,肝臓,表皮および脾臓を採取し,飼育試験では,魚粉を大豆油粕(SBM)で段階的に代替した飼料(SBM0, SBM15, SBM30)で5週間飼育し,肝臓,頭腎および脾臓の抗菌ペプチド遺伝子発現量を RT-qPCR で測定した。ヘプシジンは肝臓で,ピスシジンは脾臓で最も発現していた。また,5週間の飼育後,SBM15 区と SBM30 区では SBM0 区と比較し,脾臓および頭腎でのピスシジン遺伝子発現量が有意に低かった。以上のことから,ブリにおいて,飼料の低魚粉化と植物原料の高配合の一方もしくは両方により,抗菌ペプチド遺伝子の発現量が減少することが示唆された。

  • 田中 海, 櫻井 泉
    2024 年72 巻1 号 p. 21-30
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    体長および水温による行動変化が稚ナマコの成長差に及ぼす影響を解明するため,移動距離と摂餌活動を比較した。実験には7.0~58.6 mm の稚ナマコを供した。水温条件は6~18℃の範囲とし,自然水温の変化に準じて水温調節しながら移動距離を測定した。摂餌活動の観察では,水温を上昇および降下させながら設定条件に到達させた昇温および降温群を用いた。稚ナマコは水温10℃前後では活発に移動したが,14℃以上では移動量を減らして摂餌を継続した。また,稚ナマコは昇温群では体長増加および水温上昇に伴って摂餌個体割合と摂餌継続時間が増加したが,降温群では体長35 mm 以上および水温18℃の条件を除いて摂餌活動に差はみられなかった。以上より,稚ナマコは高水温下においてエネルギー消費抑制のために移動量を減少させて,摂餌継続時間を増加させることが示唆された。また,稚ナマコの成長差は昇温下において拡大することが推察された。

  • 大福 高史, 辻村 浩隆, 平康 博章, 山本 圭吾, 瀬山 智博
    2024 年72 巻1 号 p. 31-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    水産養殖飼料において,アメリカミズアブ(ミズアブ)粉末は魚粉の有望な代替品である。本研究では,ミズアブ粉末の短期間の給餌が,マアジの成長と筋肉性状へ及ぼす影響を報告する。魚粉を主要なタンパク質源とする魚粉飼料と,魚粉の10%をミズアブ幼虫脱脂粉末に置換したミズアブ飼料を調製し,それぞれの飼料でマアジ(131.4 ± 4.0 g)を30日間飼育した。本試験では各飼料につき1つの水槽から20尾ずつの測定であったが,魚粉飼料とミズアブ飼料で体重や尾叉長等の成長指標に統計的な有意差は認められなかった(p > 0.05)。血清指標について,ミズアブ飼料によって総コレステロール量と総タンパク質量は有意に低下した(p < 0.05)ものの,その他の項目で有意差は無かった(p > 0.05)。また,ミズアブ飼料を給餌したマアジ筋肉の性状に顕著な悪影響は認められなかった。

  • 佐野 友紀, 大内 桃花, 藤田 孝輝, 木原 稔
    2024 年72 巻1 号 p. 39-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    難消化性オリゴ糖のラクトスクロース(LS)は,哺乳類や硬骨魚類において免疫賦活を示すことが知られている。本研究では,LS がコイの腸管 IgM に与える影響を確認することで,腸管 IgM 陽性 B 細胞の免疫組織化学染色(IHC)方法を確立した。LS をそれぞれ1.5%(LS 1.5)と2.5%(LS 2.5)含有した飼料と LS 無添加の飼料(Control)を作製して,コイに給餌した。その結果,LS 2.5 の腸管断面における IgM 染色面積が対照区や LS 1.5 と比べて有意に増加した(P < 0.05)。また,血漿リゾチーム活性も Control に比べて両 LS 区で有意な上昇が見られた(P < 0.05)ことから,LS が自然免疫系の向上にも寄与することが示唆された。我々は,免疫応答を評価可能な IgM IHC 法をコイにおいて初めて確認した。この方法により,発酵性オリゴ糖などの食餌性物質による免疫賦活効果を確認することができると考えられる。

  • 松田 烈至, 園田 武, 山口 啓子
    2024 年72 巻1 号 p. 47-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    汽水性二枚貝ヤマトシジミは日本の水産有用種であるが,近年の漁獲量は最盛期の約1/5まで減少している。ヤマトシジミ漁獲量の減少要因としては,好適な水質や底質を有する生息地の減少やアンモニアなどの流域由来物質の影響が考えられる。そこで本研究は,ヤマトシジミの成長段階によるアンモニア耐性の違いとアンモニア毒性メカニズムについて明らかにすることを目的とした。ヤマトシジミの浮遊幼生の半数致死濃度は成長段階の中で最も低く,着底後は殻長の増大に伴って半数致死濃度が低下した。また,アンモニア濃度の増加に伴ってヤマトシジミの鰓組織に変化が起こっていた。以上のことから,ヤマトシジミのアンモニア毒性メカニズムは,鰓組織の破壊による影響であることが考えられた。

  • 野田 勉, 門田 立
    2024 年72 巻1 号 p. 59-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    海藻を餌とした延縄によるブダイの除去の効率化を検討するため,摂餌生態に関する飼育試験を行った。朝(5:00~10:00),昼(10:00~15:00),夕方(15:00~20:00),夜間(20:00~5:00)の本種のヒジキの摂餌量を調べた結果,朝は8.6 ± 4.7 g/kg-fish/h,昼は8.8 ± 3.4 g/kg-fish/h と多く,夕方は5.5 ± 2.5 g/kg-fish/h に減少した。なお,夜間は0.1 ± 0.1 g/kg-fish/h であり,摂餌していないと考えられた。また,ブダイを1年間飼育し,2ヶ月に1回クロメの摂餌量を把握した結果,6~8月の摂餌量は76.9~224.9 g/kg-fish/day であり,他の月(8.4~37.6 g/kg-fish/day)と比較して多かった。さらに,ヒジキ,ウミウチワ,シワヤハズ,パピラソゾ,マクサ,ミルの6種の海藻をブダイに給餌した結果,24時間後の被食率はヒジキが87.2 ± 19.7%となり,他の海藻(2.4~72.8 %)と比較して高い値であった。以上の結果から,延縄でブダイの除去を行う場合,春から初夏の午前中にヒジキを餌として実施すれば効率が良いと考えられた。

  • ビッシャシュ アマル, 高杉 祐介, 中山 大輔, 沖村 智, 田中 秀樹
    2024 年72 巻1 号 p. 69-81
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,マダイ稚魚用飼料における魚粉(FM)の代替としてのサメミール(SM)の利用性とともに,環境へのリン(P)負荷に対する影響を調査した。FM を主タンパク質源とする対照飼料(C),Cに含まれる FM タンパク質の25,50,75,100%を SM で代替した飼料,それぞれ SF25,SF50,SF75 および SF100,計5試験飼料を調製した。10週間飼育後,SM100の飼育成績が他の試験区より有意に劣ったが,C,SM25,SM50,SM75の飼育成績に有意差は見られなかった。日間給餌率と飼料中の SM レベルの間には,強い負の直線相関(R2 = 0.9092)が観察された。タンパク質および脂質の蓄積率に有意な区間差が見られなかったが,SM 飼料におけるリン蓄積率が有意に増加し,環境へのリン負荷量が有意に減少した。以上の結果から,成長成績および健康を損なうことなく,FM タンパク質の75%を SM で代替できることが示唆された。さらに,P 負荷が有意に減少したことから,SM 飼料による環境負荷を低減した持続可能な養殖が可能であることが示唆された。

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