原子炉過酷事故(Severe Accident:SA)解析コードの開発や改良に対して必要な,現実的な現象の把握やより複雑で詳細なモデリングのため,SA時に起こり得る各種事象について詳細な解析が可能な機構論的数値解析手法(詳細解析コード)の役割が重要となっている。本報では,SA時の制御棒,燃料棒といった炉内構造物の溶融物挙動およびそれらの水蒸気酸化反応,共晶反応といった個別要素過程を詳細に解析するコードとして開発中のJUPITERの概要,開発状況,解析例について報告しつつ,SA詳細解析の現状と課題を示す。
原子炉過酷事故解析などによる福島第一原子力発電所の事故進展解析では,特に原子炉圧力容器(RPV)下部ヘッドの破損から燃料デブリのペデスタル底部への流出に関して不確かさが大きく,モデル高度化が喫緊の課題となっている。また,2号機の内部調査の結果,ペデスタル下部構造物に目立った損傷が見られないことから,RPV下部ヘッドから流出した燃料デブリは溶融金属主体で多くの燃料酸化物は未溶融であった可能性が指摘されている。そこで,廃炉環境国際共同研究センターでは,固液混合状態での圧力容器破損挙動の理解に取り組んできた。本報では,(1)下部ヘッド溶融プールの熱的挙動を把握するための試験(LIVE試験)と,(2)溶融金属による圧力容器下部ヘッド破損挙動を把握するための試験(ELSA試験)の概要を報告する。
SARNETは欧州での軽水炉の過酷事故研究活動を象徴するネットワークで,その活動はNUGENAの過酷事故の技術分野に引き継がれている。本報ではNUGENIA,SARNETとその活動を引き継いでいるNUGENIAの過酷事故の技術分野の活動を紹介する。国内では原子炉圧力容器破損後の対策,影響緩和に関する過酷事故研究が多いが,NUGENIAの過酷事故の技術分野では,原子炉圧力容器内の挙動にも焦点が当てられている。それらの状況を踏まえて,原子力安全システム研究所では深層防護の観点から,放射性物質の原子炉容器内閉じ込めに最大限努力すべきと考え,炉心損傷に関する研究を実施している。過酷事故解析コードMAAP5を用いて燃料損傷試験を解析している状況と今後の展開について紹介する。
政府は2021年10月に第6次エネルギー基本計画を公表し,温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比46%削減する「野心的」な目標が掲げられた。筆者がこの目標について定量的に検証したが,政府目標に届かなかった。2030年度まで残された時間が僅かな中で,目標達成に固執すれば,日本経済が停滞しかねない。今後,エネルギー政策を具体化していく上では,「目標達成に向けて最善を尽くす」という視点を持つことが重要である。
宇宙に存在する重い元素,金,白金,レアアース,トリウム,ウランなどは急激な中性子捕獲過程(r-プロセス)で作られるとする学説が60年以上前に提唱され,半世紀を経て広く受け入れられてきた。ただr-プロセスは一体どこで起きているのか?これが謎であり,20世紀終盤まで超新星爆発がその現場と考えられていた。2017年,米LIGOおよび欧Virgoチームは二つの中性子星の衝突合体時に生じた重力波を初めて検出し,その報を受けた世界中の観測衛星や望遠鏡がその後の経緯を一斉に追尾,半世紀の謎,r-プロセスの現場がついにおさえられた。地上ではあり得ない激烈な条件下,しかしそこで起こっていたのは原子力関係者には理解しやすい物理的事象の集積である。
特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(以下,最終処分法)に基づくわが国初の文献調査が実施されている北海道後志管内の寿都町片岡春雄町長と神恵内村高橋昌幸村長からそれぞれ,高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定プロセスの第1段階である文献調査に応じた経緯,自治体として初めて進む文献調査・対話の場の経験などのお話をうかがった。このインタビューから,高レベル放射性廃棄物の最終処分地(以下,最終処分地)の選定における課題を探る。
文部科学省が支援する国際原子力人材育成イニシアティブ事業において,未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(Advanced Nuclear Education Consortium for the Future Society:ANEC)が2020年度に設立された。本稿では,ANEC設立の背景や経緯,運営体制,人材育成の取り組み状況,将来展望等を紹介する。
六ヶ所再処理工場では,現在,新規制基準対応に係る設工認(設計及び工事の計画の認可)審査対応および安全性向上対策工事に全社をあげて取り組んでいる。また,再処理工場のしゅん工およびしゅん工後の操業に向けて,安全・安定運転を確実に実施するためのアクションプランを定めて取り組んでいるところである。本稿では,その取り組み内容について紹介する。
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