小児および未成年期に放射線被ばくによって甲状腺がんが誘発されることは,広島・長崎の原爆被爆者,X線を用いた白癬治療,胸腺肥大治療などの医療被ばく者,ならびにチェルノブイリ原子力発電所事故からの131I取込による内部被ばく者の疫学データから知られている。本稿では,甲状腺がんの種類と特徴ならびに,これまでに知られていた未成年者の甲状腺がん疫学情報の知見を中心に記述する。
2011年3月の福島第一原子力発電所事故で,周辺環境に131Iを含むプルームが拡散した。2011月10月から,事故時に福島県在住の18歳以下の未成年者の健康を長期に見守る目的で,約37万人を対象として超音波検査装置を用いた甲状腺検査が,2018年6月現在までに先行検査,2回の本格検査の計3回の検査が実施されてきた。本稿では甲状腺検査の手順,実施計画ならびに検査結果について記述し,チェルノブイリ事故後に発生した小児甲状腺がんと病理診断,遺伝子変異,被ばく時年齢,発生時期の観点から比較する。
福島県県民健康調査の一環で実施された福島県の未成年者に対する甲状腺検査結果では従来の未成年者の甲状腺がん罹患率の数十倍の値が出た。しかし高性能の超音波画像診断装置を用いたことによる影響,チェルノブイリ事故との被ばく線量,発生数増倍年齢,発生時期,遺伝子変異型の違い等を踏まえ,福島の甲状腺検査の結果の解釈については2種類の相異なる見解が発表されている。本稿ではそれらの見解とUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の見解の概要を解説する。
地層処分の基本概念は,地表に比べ人間活動や自然現象の影響を受けにくく安定的に存在する地下深部の岩盤を利用して,注意深く設計された受動的な隔離・閉じ込め機能を有するシステムを構築することにより,長寿命の放射性廃棄物をその潜在的危険性が有意な期間を超えて安全に処分するというものである。しかし,人が積極的に関与する必要のない受動的なシステムによって安全を確保するという考え方は,それが超長期の安全性を論ずるうえで重要な視点を与え,科学的な合理性をもつものだとしても,経験や通常の感覚からは容易に理解できるものではなく,このことが,地層処分の社会的受容性を難しくしている理由の一つになっていると考えられる。本稿では,様々な側面から積み重ねられてきた国際的な議論の系譜を概観することを試み,地層処分概念における人の関与のあり方について理解するための一助とする。
福島第一原子力発電所事故以降,サイト全体でのリスクの把握や複数ユニット同時発災時の安全性への影響について,国際的な関心が高まっている。サイトリスクの把握には,複数のハザードやサイト内の複数の放射線源に対する総合的なリスク評価が必要である。サイトリスクの把握において重要な評価基盤の一つである,マルチユニットPRA評価手法の開発について,現在,国際的に活発な議論がなされている。本稿では,マルチユニットPRAを取り巻く現状と,国際的な研究・開発動向について紹介する。
WEO2017の世界の電力需給見通しでは,需要面では国際的な電力消費の拡大,供給面では太陽光・風力発電と天然ガス火力の増加が見込まれ,低炭素化が進む。特に風力・太陽光発電の普及により,世界の再エネ電力比率は現状の2割から2040年には4割まで拡大し,風力発電は2040年までに原子力発電の電力比率を超えるなど,供給構造の大きな変化が予見されている。しかし再エネ普及は卸電力価格低下を介して電源への投資リスクを高めるため,安定供給確保に貢献する仕組みである容量市場の創設など,電力市場政策の役割がより重要になると考えられる。
核融合炉の燃料増殖ブランケットに不可欠な機能を全て兼ね備えている液体増殖材の開発研究が着実に進展している。液体増殖材の実用上の課題として,材料共存性の改善やトリチウム輸送制御法の確立が挙げられるが,これらは液体増殖材の流動性がもたらす特殊な界面反応や輸送的性質によるものである。しかし,高度な純度制御技術が開発された事により,材料共存性改善の糸口が見える状況になってきた。また,斬新な発想に基づくトリチウムの輸送制御技術も開発されている。一方で,設計研究の進展により液体ブランケットのデザインウインドウも絞りこまれてきた。本稿では液体増殖材研究の最前線を紹介する。
一般社団法人AFWは3・11後に福島第一原発で働く作業者の支援のために立ち上げられた。しかし,事故から7年のうちに様々な経験と変遷を経て,より地域の住民の目線と心に軸足を移した活動を行うようになってきている。これまでに,地域との廃炉コミュニケーションや車座対話などから得たものは多い。それらを糧として,ごく最近は地域の復興から風評被害の払拭のためにはどのようなアプローチでどのようなエッセンスを盛り込むのが効果的かに腐心し,その成果を徐々に上げている。AFWの理念と実践の変遷から見えてきた福島の未来を報告する。
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