放射線防護に使用される線量概念には放射線健康リスクと関連する線量として防護量があり,線量限度は防護量に対して設定される。しかし,防護量は定義上測定することが不可能または困難な量であるため,外部被ばくモニタリング用の線量として実用量という線量概念が作られてきた。現在,新しい実用量についてICRUとICRPが共同で検討してきた結果が近く刊行される予定である。一方,ICRPでは防護量の改定について検討中である。本稿では現在放射線防護に用いられている防護量,実用量,基本物理量の定義を解説する。
放射線防護のための線量限度として勧告される基本的な線量概念は,初期には照射線量のような物理的な量が使用された。しかし,対象と見なされる放射線健康影響の変遷に伴って防護量の線量概念も変遷し,進化してきた。本稿では防護量の線量概念の成立,変遷について説明し,現在使用されている防護量と今後の防護量の改定の見通しについて解説する。
1950年頃までは,皮膚や骨髄の放射線障害防止を放射線防護の対象としており,放射線健康リスクと関係する防護量やモニタリングのための実用量という線量概念の区別は無く,場の照射線量で線量の制限が行われていた。ICRPで決定臓器の概念が導入された1954年以降,人体内の吸収線量(およびRBE線量等)と放射線場で測定可能なモニタリング量を関連付ける必要が生じた。そのために考案された線量概念が実用量であり,最大線量当量(MADE)に始まり,線量当量指標を経て,現在の周辺線量当量,方向性線量当量,個人線量当量となった。本稿では実用量の成立,変遷,今後の変更の見通しについて解説する。
東京電力福島第一原子力発電所の事故(福島原発事故)を受け,放射性物質による環境汚染が課題となった福島では,「除染なくして,福島の復興無し」をスローガンに,大規模な除染が進められてきた。大部分の避難指示解除準備区域,居住制限区域が解除され,残る帰還困難区域の解除に向けて検討が進んでいる。事故から9年が経過した現在,福島における除染と復興の関係性が見直されようとしている。
福島第一原子力発電所の廃止措置において,原子炉格納容器(PCV)底部に溶け落ちた燃料デブリ等を安全かつ合理的に取り出す計画を立案するには,取り出し作業範囲の線量率分布データが必要不可欠である。1号機PCV内部地下階調査における線量率分布測定を実現するために,高い放射線環境下での安定動作と線量率計小型化によるアクセス性向上を実現する光ファイバ型線量率計測技術を開発した。開発した線量率計を調査ロボットPMORPH®に搭載し,1号機PCV内の2~10Gy/hの環境下で5日間の線量率分布測定を完遂した。
送電設備の保守管理では,送電線と樹木の離隔を適切に保つために多大な労力が払われている。離隔の維持に関わる業務効率化に貢献するため,市販の小型ドローンによる空中測量を活用した離隔評価のワークフローを構築した。空中写真から生成した三次元の点群による測量に着目し,送電設備を対象とした効率的な点群取得の指針を得るとともに,ドローンの運用から離隔評価までワンストップでの実施を支援する離隔評価ツールを開発した。
日本原子力研究開発機構ではバックエンド関連の研究・技術開発として,実際の地質環境への地層処分技術の適用性確認,地層処分システムの長期挙動の理解を目標に地層処分の基盤的研究開発を進めてきており,ここではこれらに関する研究・技術開発の最前線を紹介する。
放射線防護人材の不足は国際的な課題であり,わが国でも行政のレベルで議論されるようになって久しい。東京電力福島第一原子力発電所事故を経験してその重要性が社会的に認識されつつも,人材不足の深刻度は増す一方である。2019年に放射線防護関連学会が合同で実施したアンケート調査では,40歳未満の学会員の3割が診療放射線技師の資格を有していることや,比較的研究者人口が多い放射線実験生物学分野や放射線計測・線量評価分野の場合でも,会員の4割は学生時代に放射線研究歴がないことなどが明らかになった。本稿では,放射線防護を必要とする現場への人材供給源や人材とアカデミックポストとのマッチングに焦点を合わせて,アンケート結果をとりまとめ,報告する。
原子力施設を対象とした核セキュリティの最終目的は原子力安全の目的と共通である。想定以上の核セキュリティ事象への対応を可能とするためには,安全とセキュリティとの十分な連携が必要となる。「深層防護」の視点から両者のインターフェイスを考える。
原子力の科学やエネルギーへの利用を高度に推進している多くのNEA加盟国においては放射性廃棄物の管理,処分,安全技術の取り扱いにおいても先進的かつ現実的な取り組みを行うニーズが高い。原子力施設の廃止措置や高レベル放射性廃棄物処分の実施を視野に入れた国際協力体制がNEAにおいて形成され,日本の貢献も期待されている。
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