2023年秋の大会で福島第一原子力発電所廃炉検討委員会が開催した企画セッション「1F廃炉に貢献するロボット技術開発」において「燃料デブリ取り出しのための作業空間整備に用いる遠隔技術」を報告させていただいた。また,第41回 日本ロボット学会学術講演会で廃炉に向けたロボットの調査研究と社会貢献に関する研究会が共同開催したオープンフォーラム「廃炉に向けた日本原子力学会との連携と課題」において同内容を報告させていただいた。ここでは,発表したPCV内の構造物解体撤去に用いる遠隔作業ロボットの開発成果に加えてセッション内の質疑内容を踏まえてまとめたものについて述べる。
福島第一原子力発電所における燃料デブリ・炉内構造物の取り出しに向けて,双腕マニピュレータを遠隔操作するオペレータを支援するため,軌道計画を開発した。炉内構造物を模擬したモックアップを準備し,従来の操作方法(手動操作・ティーチング)と軌道計画との比較検証を行った。試験の結果,オペレータの作業時間において軌道計画の有効性を確認することができた。
東日本大震災後も水素爆発に至らず建屋が残存している福島第一原子力発電所2号機の使用済燃料プールに貯蔵されているプール燃料の早期取り出しを目的として,建屋上部は解体せず,建屋オペレーティングフロア外壁に設ける開口部から投入する燃料取扱設備により,遠隔操作でプール燃料を取り出す工法を立案した。開口部の寸法制約等の理由により,燃料取扱設備には従来型の門型クレーンを適用できない。このため,燃料取扱設備には既存のブーム型クレーンの技術を応用し,耐震性・遠隔操作性・安全機能等に考慮して,燃料取り出し開始に向けた機器製造を進めている。
本研究では,福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しに向けて,原子炉建屋内に存在する干渉物を遠隔で撤去可能なロバスト性に優れた汎用性のあるロボットシステムを開発した。そして,検証試験を通じて,実機適用化に向けたロボットシステムの仕様を明らかにした。
生物の遺伝を司る生体高分子DNAはガンマー線,X線,粒子線などのさまざまな電離放射線によって損傷を受け,その構造は線質によって異なるといわれている。しかしながら,線質あるいはLET(線エネルギー付与)と損傷構造の関係については十分解明されていない。そこでわれわれは,ナノメートルレベルの測定技術である,FRET(フェルスター共鳴エネルギー移動)法,およびAFM(原子間力顕微鏡)による直接観察法を用いてDNA損傷構造に関する研究を行ってきた。DNA損傷構造と線質との関係性,および修復困難なDNA損傷の特徴を調べた結果,LETが高いほどDNA損傷の局在性が上がること,DNAの2本鎖切断(DSB)末端付近にさらに別の損傷が多数存在するような“複雑DSB”が特に修復が難しいハイリスクなDNA損傷であることが明らかとなった。
パルスラジオリシス法は高エネルギーの電子線を照射することによりおこる過程を追跡する手段で,生体反応の解明するツールとして使った研究を紹介する。水溶液中電子線照射すると水和電子(eaq-)が生成し,これを還元剤として用いると,速い時間領域での測定が可能で,タンパク質内電子移動過程を直接観測することができる。また,活性酸素やラジカルの挙動を調べることができる。さらに生体の放射線損傷解明する手段として,電子線照射するとDNA鎖上にイオンやラジカルが生成し,それに引き続いておこるDNA損傷過程を調べることができる。
国際放射線防護委員会(ICRP)の主勧告は放射線防護体系の原則を定めるものである。現行の主勧告は2007年に発行されたものであるが,発行から10年以上が経過しており,現在新しい主勧告策定に向けて,論点の整理とそれに関する検討が国際的に進められている。本稿では,放射線防護体系に与えるインパクトが大きいと考えられる論点を中心に,その科学的な現状と課題について解説を行う。
2024年1月に一般社団法人日本原子力産業協会はエネルギーミックスをテーマとしたボードゲーム,「エレクトロネーション―エネルギーミックスボードゲーム―」を発売した。原子力業界のみならずエネルギー業界としても珍しい切り口からの理解活動の取り組みと思われるので,ゲームの概要と開発から完成までの経緯,その過程で気付いたゲームを切り口とした広報活動で大切な点を発案者兼プロジェクトの中心者として報告する。
2023年2月,グリーントランスフォーメーション(GX)基本方針の実現に向けて原子力発電の最大限活用を目指すことが閣議決定された。これは政策の大転換とは言えるが未だリスタートラインに立ったところであり,これを実体あるものとして進めるにはどのような課題があるかを明らかにするため今回のシンポジウムを開催した。パネル討論を通じて提言をまとめるまでには至らなかったが,現在の状況と今後の方向性を浮き彫りにできたものと考えている。
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