福島第一原子力発電所事故により,燃料棒の中に閉じ込めていた放射性物質が拡散し,構内外の放射線環境が変化した。放射線防護を確実なものとしつつ廃炉作業を着実に進めるため,新たな技術を導入しながら放射線管理を遂行してきた。ここでは,これまで行ってきた取り組みや今後の課題について記す。
福島第一原子力発電所の事故から10年が経過した。事故により福島第一原子力発電所建物やサイト内だけでなく環境中にも広く放射性物質が拡散沈着したことから,事故発生直後より放射線源の空間分布を直感的に把握できる放射線源の可視化への要求が高まり,環境中における放射線分布のマッピングやガンマカメラと呼ばれる放射線のイメージング装置の投入と開発が進められてきた。ここでは,事故後に開発され運用されてきた放射線分布の計測技術について紹介するとともに,今後の展望について述べる。
事故後10年を経過した福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取り組みでは,原子炉建屋内外の放射能(燃料デブリを別にすれば,Cs-137)の把握が今後とも重要な課題である。遠隔での測定による場所が多いことを考えると,放射線・放射能およびそれらの測定という「放射線工学部会」が対象としている分野の役割がますます重要になると思われる。以下では,これまでの取り組みの例として,廃炉工程との関連で関心が高まっている,シールドプラグの上段と中段の隙間に沈着しているCs-137放射能推定を取り上げる。
放射線工学部会では,日本原子力学会2021年秋の大会で「福島原発事故後10年間の放射線工学分野における活動と今後の展望」と題した企画セッションを開催した。福島第一原発の廃炉作業および関連した放射線計測・遮蔽分野の研究・技術開発について専門家を招いて3件の講演を行った後,今後の展望を交えた議論を行った。講演3件の詳細については前稿までに紹介したとおりであり,本稿では開催に至るまでの経緯および企画セッション当日の概要を紹介し,企画セッションの今後の活動について述べる。
マイナーアクチノイドと希土類元素の分離は,高レベル放射性廃液の群分離プロセス開発において肝となる技術である。本稿では密度汎関数法という計算化学手法を用いて,溶媒抽出法によるマイナーアクチノイドと希土類元素の分離性能の再現や,その分離メカニズム解明に向けてアプローチした結果について解説する。
加圧水型軽水炉(PWR)では,燃料集合体から蒸気発生器(SG)伝熱管に至るまで,随所にNi基合金が用いられており,PWRの安全性,信頼性評価を行う上で,これらのNi基合金の高経年化に伴う環境助長割れ特性評価は極めて重要である。特にSG伝熱管材の粒界損傷(IGA)や,一次系水中でのNi基合金の応力腐食割れ(PWSCC)は,PWRの稼働率を下げる要因の一つになった事から関係者に与えた衝撃は大きかった。そこで本稿では,先ず今までに経験したPWR用Ni基合金の環境助長割れについて,内外の今迄の研究・開発動向等を踏まえ論評する。
海底堆積物の一種であるマンガンクラスト試料中に放射性核種である鉄-60とプルトニウム-244を検出し,太陽系外起源として有意なシグナルを得ることに成功した。プルトニウムの分析方法を紹介するとともに,それぞれの核種が作られることになった超新星爆発の特徴や太陽系近傍におけるこれらの核種の広がりについて解説した。
地層処分の実現に向けた第一歩となる文献調査が開始されたことを機として,わが国の地層処分がこれからどのように進められていくのか,これまでの経緯といまをながめながら考えてみたい。第2回では,地層処分の観点から考慮すべき日本の地質環境の条件や地質環境を選定するための考え方や進め方,およびそれに必要な調査・評価技術の現状について紹介する。
原子力規制庁「国際放射線防護調査」事業では,放射線防護に係る最新の知見や国際的な動向等の情報を収集・整理し,放射線防護や原子力災害対策に係る国内制度に影響を及ぼし得る課題について検討している。同事業では専門委員会と作業部会を設置し,令和3年度はIAEAのラドン被ばくに対する作業者の防護(DS519)等について検討や,ICRPの次期主勧告に関する論文を参考に今後の放射線防護の方向性の論点整理を行っている。