東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故から5年目に入り,平成27年6月には「東京電力 (株) 福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」 (中長期ロードマップ) について3回目の改訂を行った。今回の改訂は,リスク低減を重視した考え方を取り入れ,目標工程 (マイルストーン) を明確化した。これらマイルストーンを念頭に,汚染水・燃料取り出し・燃料デブリ取り出し等の対策を進めるべく様々な取り組みを行っている。これらは世界に前例のない困難な事業であることから,国内外の叡智を結集し,互いに連携して取り組めるよう,研究環境等の整備を進めている。
2011年3月11日の事故以降,汚染水処理が大きな社会問題となり,処理装置を増設するなどの「汚染源を取り除く」対策により処理を加速させ,2015年5月末にはタンクに貯留していた高濃度汚染水処理を終了した。また陸側遮水壁の試験凍結を開始するとともに,関係者の理解を得てサブドレンが稼働するなど「汚染源に水を近づけない」対策も確実に進んでいる。福島第一での廃止措置においては今後使用済燃料や燃料デブリの取り出しを本格化させることになるが,これらは高線量下での作業を伴うため作業員の被ばくも考慮した総合的なリスク低減対策に留意する必要がある。福島第一の現場では除染作業を進めた結果,発電所敷地内の約90%で全面マスクの着用が不要となり,また大型休憩所や給食センターも稼働し作業環境は大きく改善している。一方で,社会目線に立った情報公開という精神が社内に浸透していなかったことに鑑み,2015年8月から放射線データの全数公開を開始した。
原子力損害賠償・廃炉等支援機構 (NDF) が策定した福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2015では「放射性物質によるリスクを継続的,かつ,速やかに下げる」ことを基本方針とし,燃料,汚染水,廃棄物等の様々な放射性物質 (リスク源) の潜在的影響度と閉じ込め機能喪失の起こりやすさにより表されるリスクの低減戦略を展開している。主要なリスク源を3分類し,そのうち周到な準備と技術によって安全・確実・慎重に対処し,より安定な状態に持ち込むべきリスクである燃料デブリ取り出し分野と長期的な措置をすべきリスクである廃棄物対策分野のリスク低減に向けて,5つの基本的考え方 (安全,確実,合理的,迅速,現場指向) に基づき,技術戦略検討を行う。
東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所の事故 (2011年3月11日) を受けて,IRID (技術研究組合国際廃炉研究開発機構) は2013年8月に,廃炉に関する研究開発,国内外の関係機関との連携強化,人材育成を目的として設立された。現在は,喫緊の課題である福島第一原子力発電所の廃炉に関わる技術開発を実施している。研究開発は,大きく分けて,使用済み燃料プールの燃料取り出しに係る研究開発,燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発,放射性廃棄物の処理・処分に係る研究開発,の3つのグループに分類される。2015年度は15件の国の研究開発プロジェクトを実施しており,以下にその主要な概要について紹介する。
福島第一原子力発電所の事故により発生した廃棄物は,炉心燃料に由来した放射性核種を含んでいること,津波や事故直後の炉心冷却に起因する海水成分を含む可能性があること,高線量であり処理・処分の実績が無いゼオライトやスラッジを含むこと,汚染のレベルが多岐にわたりその発生物量も大きいこと等,従来の原子力発電所で発生する放射性廃棄物と異なる特徴がある。これらの放射性廃棄物の処理・処分に関する安全性の見通しを得るため,従来の放射性廃棄物とは異なる特徴等を考慮した研究開発を実施している。
福島第一原子力発電所の原子炉内には燃料要素や構造材等のさまざまな成分が複雑に溶融混合した燃料デブリが形成されており,その組成や形態は事故進展の状況により異なると推定される。廃炉作業の最難関の課題である燃料デブリの取出しでは,発生している燃料デブリの特性 (化学的特性,物理的特性,等) を把握することが一連の廃炉作業を円滑に進める上で重要な情報となる。そのため,国際廃炉研究開発機構 (IRID) では,模擬デブリやTMI-2のサンプル等を用いて,燃料デブリの特性把握に関する研究開発を実施している。
原子力の大局観を認識した上で,原子力システムの今後の姿について俯瞰する。自然に学び自然を真似ることを基本に,高速中性子による核分裂反応により生成する中性子を活用して,「利用」から「調和」へ移行していくことが持続的な原子力利用を可能とする。
エネルギー自給率,温暖化抑制,電力コストの観点で原子力は欠かせず,その長期利用には核燃料サイクルが必須である。原子力比率20%においても軽水炉再処理・プルサーマルの意義は変わらず,直接処分に対して経済優位性の出る高速炉サイクルの時代に備えリサイクル技術の経験蓄積が大切である。どなたにでもできる簡単な計算でこのことを説明する。
今後の核燃料サイクルの推進を図る上で,ナトリウム冷却高速炉は重要な役割を担うものである。すなわち,プルトニムを介したウラン資源の有効利用と準国産エネルギーとしてのエネルギーセキュリティーへの貢献,高レベル放射性廃棄物低減を含め,高速中性子を利用することで,柔軟なプルトニウムの利用を可能とする。このような高速炉の開発の現状と特に国際協力を活用したその開発促進について述べる。
原子力に対する国民の信頼を回復するためにはエネルギー安全保障,経済性,地球環境対策での利点だけでなく受動的安全性,廃棄物処理,核不拡散という条件を満たす必要がある。福島に統合型高速炉IFRと乾式再処理施設 (Pyroprocessing) を建設しデブリ処理をすることが持続可能な原子力の可能性を国民に示すことになるのではないか。
原子力開発利用の要因 (ドライバー) となるのは,各国のエネルギー安全保障やエネルギー利用状況,それに経済合理性や環境適合性といった「3E」であり,安全性ではない。安全性に懸念があるから利用しない,というだけではエネルギー・環境を巡る様々な課題に対処できないことを踏まえ,現実的で冷静な政策を進める諸外国の動向に注目すべきである。
日本のエネルギー消費は,人口減少や高効率機器普及等による省エネ進展により,長期的に減少する見込である。供給面では,太陽光等の再エネ普及や,原子力の電源比率を2割とする目標により,脱炭素化が進む。また現在,日本政府は2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減することを目標としているが,長期エネルギー需給見通しでは,安定的な経済成長を維持した上でこの目標を達成するには,石油危機以降 (1973年~1990年) を上回る,もしくは,匹敵するテンポでのエネルギー供給の脱炭素化や省エネが必要であることが示唆されている。
原子力・放射線利用に関する安全強化については,設備・システム等のハードウエア面とともに,人間・組織・制度的視点からの安全対策・強化が重要である。経済協力開発機構 (OECD/NEA) における取り組みについて報告する。
日本原子力学会にて,特に若手・学生の活性化,さらに学会活動の内容充実に貢献すべく立ち上げたAESJ Collaboration Task Forceのこの1年と大阪教育大学で行われたフォーラム21 (関西近隣の大学・院の放射線物理学関係の研究会) 企画セッション,4th JAPAN-IAEA Joint Nuclear Energy Management Schoolでの学生・若手の活性化活動を報告する。
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