福島第一原子力発電所事故から9年余。新規制基準などにより原子力発電所の安全性は向上したが,再稼働をはじめとして原子力全般を見る世論は依然として厳しい。事故後の反省とそこから得られた教訓は十分に反映されてきているのか。原子力をめぐるこれからの地平にはどのような姿が見えるのか。原子力関係者がこれから行うべき取り組みとは何か。
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構では,放射性物質の海洋拡散挙動を迅速に予測することができる緊急時海洋環境放射能評価システム(STEAMER)を開発した。本稿では,STEAMERを開発するに至った経緯とシステムの概要および利用について解説する。
著者らがスーパーコンピュータ「京」向けに機能と性能の向上を図ったFEM解析システムADVENTURE_Solid Ver.2およびプリ・ポスト処理用付帯システムを用いて,東北地方太平洋沖本震時の東京電力福島第一原子力発電所1号機の地震応答を詳細に解析した。集中質量系モデルと本3次元FEMモデルの解析結果は,巨視的な地震応答解析性能に関して概ね良好に一致し,相互に解析精度を検証できた。3次元FEMモデルの解析から同1号機の地震応答の様子を詳細に捉えることができ,発生応力値は比較的低い値であったことも確認できた。
東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の廃炉作業を円滑に進めるにあたり,作業環境に飛散・沈着した放射性物質の分布を“見える化”して把握することは,作業者の被ばく線量の低減や詳細な作業計画の立案を行う上で重要である。ここでは私たちが福島第一原子力発電所やその周辺で行なってきた放射線イメージング技術の開発および現場における実証例を紹介する。
高レベル放射性廃棄物処分の環境負荷を低減するための分離変換システムでは,軽水炉使用済燃料や高レベル廃液から分離回収した長半減期のマイナーアクチノイド(MA)を高速炉等で照射して,短半減期又は安定核種に核変換する。このとき,実効的なMAの低減には,照射済燃料からMAを回収し,再び高速炉等で照射することが不可欠である。電力中央研究所では,実用化を見通せる高い燃焼度の照射済MA含有金属燃料からのMA回収を初めて実証した。これまでの高レベル廃液からのMA回収プロセス開発やMA含有金属燃料の照射実績と合わせて,金属燃料によるMA分離変換のシステム全体の技術的成立性が確認された。
日本原子力研究開発機構ではバックエンド関連の研究・技術開発として,原子力施設の廃止措置や安全で環境負荷低減につながる低レベル放射性廃棄物の処理処分技術開発と,地層処分の基盤的研究開発を進めてきた。これらバックエンドに関する原子力機構の研究・技術開発の最前線を2回にわたって紹介する。
リスク情報の活用に用いることができる確率論的リスク評価(PRA)には,より説明性の高いプラント固有のパラメータ(機器故障率など)の適用や,プラント実績データから推定されたパラメータの更新等による不確実さの低減などが非常に重要となる。本稿では第2回で解説されたPRAの不確かさに対して,ベイズ統計などの方法を用いたパラメータ推定における考え方を解説し,必要となる信頼性データの収集や国内のパラメータ推定の取り組みを述べる。
福島第一原子力発電所の事故以来,「セーフティ・ファースト」は世界共通の認識となっており,各国において原子力安全に関わる活動はますます重要性を増している。ただし原子力安全の範疇は広く,一機関がすべてを網羅できるわけではない。OECD/NEAの加盟国は,いわゆる原子力先進国から成り立っており,加盟国から提案された原子力安全を向上する取り組みを各国の第一線の専門家と共に行っている点で他機関とは異なる。本稿では,原子力安全に関わる主要活動を紹介するとともに,日本への期待を述べる。
新設軽水炉がより安全でかつ合理的な設計となることを目指し,福島第一原子力発電所事故 (1F事故) の教訓を踏まえて実現すべき技術要件を検討した。この活動に際しては,新設軽水炉の安全防護策は深層防護とリスク管理の思想に基づくことを原点とし,まずは,その考え方を整理した。深層防護の実装にあたっては新設だからこそ可能な対応を取り入れて個別の安全対策の設計方針を検討し,新設軽水炉のあるべき姿を技術要件の形でまとめた。
シニアネットワーク連絡会が「学生とシニアの対話事業」を始めて15年になる。この事業はわが国のエネルギー選択に欠かせない原子力について,次世代の原子力技術と文化を託す学生や小中高の教員に伝承するものである。昨今の原子力に対する厳しい風潮にもかかわらず,この対話を通しての研修事業に賛同,参画していただける学生や先生方が少しずつではあるが増えている。2019年度は19回実施,26校・団体に参加いただいた。2020年度はコロナ対応を余儀なくされるが,WEBの活用にも挑戦し,引き続き対話活動を継続してゆく所存である。
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