宇宙線に起因する中性子やミューオンが集積回路に引き起こすソフトエラーが信頼性低下要因として注目を浴びている。近年の集積デバイスでは中性子がソフトエラーの主要因を占めると言われてきており,中性子を対象とした多くの研究開発が行われてきた。一方で,トランジスタの微細化によりビット反転に必要な臨界電荷量が小さくなること,地上に届く粒子数は中性子よりもミューオンのほうが多いことなどから,ミューオン起因ソフトエラーへの懸念が高まっていた。
本記事では,J-PARC MUSEで実施したSRAMに対する正負ミューオン照射実験の主要な結果を報告する。これまで正ミューオン照射実験結果の報告は数例あったが,負ミューオン照射試験の報告はなく,世界に先駆けて実施した照射実験である。実験結果より,ミューオンによってソフトエラーが発生すること,負ミューオンは原子核に捕獲される物理過程により正ミューオンよりソフトエラーへの影響が大きいことを明らかにした。2019年度より科研費基盤(S)で実施している「ミューオン起因ソフトエラー評価基盤技術:実測とシミュレーションに基づく将来予測」の研究課題を紹介し,今後の研究の展開を議論する。
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