映像や音声など他のメディアと共に香りを用いる場合には,時間に伴って変化する映像や音声情報に合わせて香りの提示を制御する必要がある.特に映画のシーンには複数の物体が同時に描写されていることが多く,それに合わせて複数種の香りを配信することによりさらに臨場感が高まると考えられる.
本研究の目的は,微小時間中に複数の香りを視聴者に認知させる提示手法を導くことであった.我々は,香りが空間に残留しないパルス射出を用い実験を繰り返しているうちに,人間は一呼吸中で2種類の香りが切り替わることを認知できるという知見を得た.そこで,一呼吸中で2種類の香りを提示した際の嗅覚の時間特性を測定した.2種類の香りを分離し感じることができる2度のパルス射出の最短射出間隔を「分離検知閾値」,さらに両方の香りの種類まで特定できる最短射出間隔を「分離認知閾値」と定義し測定した.また,1度のパルス射出に対する「応答時間」および「感覚持続時間」も合わせて測定した.
測定の結果,応答・感覚持続時間と分離検知・認知閾値の結果には個人差が生じた.しかし,分離認知閾値と感覚持続時間は相関が見られ,感覚持続時間が長時間のグループでは分離認知閾値も大きいことが分かった.微小時間中に複数の香りを視聴者に認知させるためには,各人の感覚持続時間を測り,それに合わせて香りを提示する時間間隔を定める必要がある.それによって,一呼吸という短い間に2種類の香りを感じることが期待できる.このような香りの提示方法を応用することによって,例えば映画のシーンに複数の物体が同時に描写された場合,そのシーンに合わせ,これまで以上に臨場感のある香りの演出が可能になると期待される.
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