この30年,公共トイレの進化がめざましい.その内容は,利用者の要望に即した基本機能や付加機能,デザインの向上である.課題は,一番大切な,安全とメンテナンスの取り組みがまだ不十分であること.都心と地方,建築用途(商業施設と学校),男女,障害者等への取り組みの格差があることである.表面的なデザイン等でイメージがトイレの印象を変えてしまった我国の公共トイレだが,地についた進化に展化するためには,内容の深さや継続性が必要だ.そのためにも設計からメンテナンスまで統括して取り組む組織や人材の育成が必要だと考える.
近年,駅のトイレや公共施設のトイレ,住宅のトイレにおいてもトイレ空間が快適な空間になりつつある.常設のトイレでは快適空間化が進む一方,災害時や建設現場,イベント等で使用される仮設トイレにつては,コスト面や使用上の条件もあり,難しい面がある.
本稿では,仮設トイレの構造面とともに臭気対策についても解説する.
仮設トイレは,昨年発生した熊本地震でも設置され,災害時には不可欠なものである.本稿が災害時の仮設トイレにおける臭気対策の一助にもなればと考える.
熊本地震における被災地のトイレ状況および悪臭の調査を実施した1).屋外の仮設トイレのにおいレベルは清掃に依存しており,水洗式であれば和式・洋式を問わず臭気強度2程度と低かった.一方ドライ式は,し尿を溜めるタンクに仕切り弁がないと悪臭が発生しやすい状況であった.便器の種類では,和式は汚れ易く清掃者の負担になっており,洋式は汚れにくいが男女別2)にするなど工夫が必要である.
災害時のトイレ対策がますます重要になってきており3),4),今後の被災地における悪臭低減に向けて提案を行った.
乗物での移動中にもトイレが快適に利用できれば気持ちの良いものである.最近の公共交通機関のトイレはにおいのない快適な空間が求められている.乗物にトイレが付いていれば悦ばれていた時代から,付いているのが当たり前の時代,そして最近では入ってみたくなるような豪華なトイレが付いている乗物も登場してきた.乗物のトイレは,上下水道の完備した住宅用とは環境条件や不特定多数の人が使用するなどの条件が異なるため,独自の歴史をたどった.時代の流れと共に,様々に改良された列車やバスのトイレと排水処理を紹介する.
本研究では低濃度,高濃度で臭気質が変化する物質である硫化メチルを対象とし,臭気質変化の起こる濃度を求め,その濃度を基点としてどのように臭気質が変化するか,臭気質の特徴を明らかにすることを目的とした.濃度差により臭気質が変化する現象は嗅覚受容レベルで起こるため,個人の嗅覚閾値が寄与することが推測される.本研究では被検者10名に対し,三点比較式臭袋法を用いて個人の嗅覚閾値を測定し,臭気強度,快不快度の傾向を明らかにした.また,25名に対し,官能試験を行い,臭気質が変化する濃度および臭気質の特徴について明らかにした.得られた結果を以下に示す.
1)硫化メチルの個人の嗅覚閾値に100倍の差がみられた.
2)臭気強度は,におい物質濃度よりも,臭気指数との相関が高く,臭気質の検討には,感覚量である臭気濃度および臭気指数を用いる必要があることを示した.
3)嗅覚閾値から80倍の濃度で臭気質の変化を感じ,100倍の濃度で明確にうっとうしさ,鋭さが上昇することが明らかとなった.
三点比較式臭袋法におけるパネルの吸引方法には,鼻あてを用いた自己吸引法が提示されている.この手法では,吸引時に濃度調整された袋内臭気の濃度低下が懸念される.本研究では,数値流体力学に基づくシミュレーションによって自己吸引時の気流性状を把握することで,パネルが吸引する臭気の濃度を予測した.まずは,自己吸引を想定した吸引量と時間測定の被験者実験から3種の出口境界条件を決定し,次に鼻あてと顔の隙間をパラメータとして気流性状予測を行った.その結果,本研究で設定した条件下では,パネルの吸入濃度は最大でも袋内臭気の67%程度であることがわかった.