これまで,当協会は,主にアウトドアでの臭気対策に力点を置いてきている.2003年“臭気対策研究協会”から“におい・かおり環境協会へと名称を変更し,アウトドアでの臭気対策を主流としてきた協会業務をインドア臭気対策へも拡大し,さらに“かおり”分野にも進出していく方針を明確に打ち出した.しかし,当協会のインドア臭気対策およびかおり分野に関する情報量には,おのずと限界がある.これまでも,本誌では消・脱臭剤に関する特集,人体に関わる臭気問題など,インドア関連の情報を提供してきた.しかし,多種多様を極めるインドア臭気問題を一括して考えることには,所詮無理があるように思える.そこで本号では,最も身近であり,かつ最大のマーケットを誇る一般家庭内での臭気問題・臭気対策を取り上げることにした.国内においてこの分野を掌握しているのは,厚生労働省(旧厚生省)の指導下で設立された“芳香消臭脱臭剤協議会(以下,協議会と略記する)”である.本特集では,この“協議会”の事務局にお願いし,協議会全体の活動内容について執筆いただくと共に,一般消費者向けの芳香剤,消臭剤,脱臭剤市場が現状どのような動きをしているかについての情報をご提供いただいた.
最初に,協議会事務局長および理事を務められている矢田氏(小林製薬株式会社)に協議会設立にまつわる話題について説明していただいた.そもそも,雑貨というジャンルに区分けされる芳香消臭脱臭剤には特定の規約は無く,あくまでも個々のメーカー責任のもとで種々の製品が開発上市されていた.しかし,製品の安全性,効能,取り扱い法など消費者に対する情報提供の重要性が求められ,各メーカーが共通認識の下に商品開発が行えるように,自主基準(効力試験法)なるものを制定した.その自主基準をクリアーしている商品に対して「適合マーク」(336頁に掲載)の使用が許可されている.おそらく,このマークを店頭で目にされた方々もおられるでしょう.しかし,1990年に制定(1992年改定)された自主基準も現状にそぐわない部分が指摘され,見直し作業が2002年より3年間かけて,協議会内に設置された技術委員会のメンバーによって行われた.詳細について,技術委員会委員長を務められている田中氏(小林製薬株式会社)に執筆いただいた.引き続き,一般消費者向けの芳香消臭剤に関する情報をレビューも含めて永友氏(小林製薬株式会社)に執筆いただいた.永友氏らの生活臭に関する最近のアンケート調査によると,他人の家を訪問したときに97%〓の人が室内臭気が気になるとし,自宅でも80%〓近くの人がにおいを気にしているという結果が出ている.明らかに一般家庭で,におい対策へのニーズが高まっている事を裏付けている.芳香消臭脱臭剤市場では,最近新規参入する大手メーカーも多く,確実に顧客を掘り起こしている.したがって,メーカー間の新商品開発も熾烈を極めている.最後に,これら商品を消費者が購入し使用された時点で発生した事故事例について,波多野氏(財団法人 日本中毒情報センター)に執筆いただいた.すでに日本が突入した高齢化社会において,におい問題の解決はますます重要になり,手軽に購入可能な芳香消臭剤の役割は増している.商品が不特定多数の人達に渡ると,思わぬ事故が起こる.起こり得る事故を最大限に想定し,より安全な商品の開発が大切になってくる.このような背景からも,発生した事故の状況を知る事は非常に重要であろう.波多野氏の執筆内容は,私達にとってなかなか入手する機会が少ないデータであり,貴重な情報ではないだろうか.以上,本特集にあたっての概要について述べさせていただいた.本協会の多くの会員の方々にとって有意義な情報になってくれることを願いたい.最後にご多忙中にもかかわらず執筆をご承諾いただいた先生方に,この紙面を借りて厚く御礼申し上げる次第です.
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