におい・かおり環境学会誌
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42 巻, 5 号
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特集 (香りの心理効果に関するシーズとニーズ)
  • 坂井 信之
    2011 年 42 巻 5 号 p. 321
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    最近,香りの心理効果が注目されている.一つの側面は心理効果の学術的な観点である.香りの効能に関する逸話的な報告はかなり多く,その特異的な側面が強調されてきた.例えば,良い例が嗅覚の記憶にみられる「プルースト効果」と呼ばれるものである.マルセル・プルーストによる『失われた時を求めて』の中に,紅茶に浸したマドレーヌを食べていると,ふと幼い頃の記憶が鮮明によみがえってきたという内容の記述があることから名付けられた.この現象にみられるように,香りから想起されるエピソード記憶のビビット感や時間的距離感の近さなどの特徴は嗅覚に特異的であるとされている.しかしながら,この件に関する学術的な研究は,長い間少数のグループが比較的古い手法で確かめる程度に留まっていた.さらに,嗅覚に関する個人差やあいまいさ(記憶の不確かさ)は顕著であることも加わり,嗅覚の心理効果に関する学術研究は,視覚や聴覚に比べて長い間放置された感があった.
    しかし, 2004年にリンダ・バックとリチャード・アクセルが,嗅覚レセプターの遺伝子解析の研究でノーベル賞を授与される前後から,嗅覚に関する学術的知見が飛躍的に蓄積されるようになってきた.ほぼ同時に,ヒトの脳を非侵襲的に計測する技術が進歩し,ヒト独自の嗅覚の情報処理機構についても,学術研究が行われるようになってきた.ここで触れたいくつかのトピックスについては,すでに本学会誌でも特集号の論文として紹介されているので,今回の特集では,嗅覚と視覚とのイメージの統合に関する現象論についてまとめていただいた.
    綾部氏は香りと形のイメージの一致,三浦氏と齋藤氏は香りと色の調和について,それぞれご自身の研究を中心にまとめていただいた.いずれの論文も非常に読み応えのある最新知見を紹介されており,これらの論文を読むことにより,ヒトは香りからどのようなイメージを思い浮かべるのかということについて理解が深まり,これからの香りの応用のシーズ (種)となる知見である.
    もう一つの観点は,嗅覚の心理効果をビジネスとして展開するというものである.これまでもアロマテラピーや消臭というビジネスがあった.しかしながら,最近注目されている香りのビジネスとは,香りの心理効果を積極的に応用するというものである.阿部氏と高野氏による論文は,香りや化粧がヒトの感情に及ぼす効果について概説したものである.一ノ瀬氏の論文は,シャンプーや男性用デオドラント製品,衣料用柔軟剤などの香りの実例を豊富に挙げながら,香りがヒトの感覚や感性にどのように作用するのかということについてまとめたものである.國枝氏の論文は,香りを積極的に使うことによって,行動障害の子どもや,認知症の高齢者などの症状の改善ができることをご自身の研究に基づいて,まとめていただいたものである.これらの論文は,いずれもすでにビジネス展開されているか,これからビジネス展開されていくものであり,香りビジネスに直結する,いや,これからの日本の香り社会を予想すると言ってもよいほどの基盤技術といえる.
    読者の皆様におかれては,今回の特集の学術的なシーズから新しい技術のヒントを得ていただいたり,実際の香りビジネスの実例に触れることで,これからの日本の香り社会のニーズに思いを巡らせていただきたい.これは本特集に執筆していただいた方々の共通の思いである.
  • 綾部 早穂
    2011 年 42 巻 5 号 p. 322-326
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本論文では,形の印象に関する研究を概観し,つづいて形がにおいの印象に及ぼす影響を検討した実験を紹介した.「角がある」図形を伴ったにおいは強く感じられ,曲線性の低い図形が刺激的な感情を伝えた可能性が考えられた.この現象は,「角がある」印象を有するにおいで顕著であり,においと形の印象が合致すると刺激が強く感じられることが示唆された.オノマトぺを用いたにおいの印象評価においても,形の印象の影響を受けることが示され,その傾向は特に普段においに関心のない人で明確であった.しかしにおいの快不快には形の影響は見られなかった.
  • 三浦 久美子, 齋藤 美穂
    2011 年 42 巻 5 号 p. 327-337
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,色と香りの印象的次元における調和性を検討した.まず,色や香りの印象的次元の抽出と調和関係を検討した.その結果,印象的次元としてMILD,CLEARの2次元が得られ,これらを変数として調和予測式を構成した.次に,色と香りの調和,不調和ぺアを用いて組み合わせによる効果を検討した.そこから,調和ぺアでは,色,香りの本来の印象が強調されること,調和ぺアの方がストレス緩和効果が高いことが分かった.以上を踏まえ,調和予測式を可逆的に確かめた上で,色と香りの調和モデルを提案した.
  • 阿部 恒之, 高野 ルリ子
    2011 年 42 巻 5 号 p. 338-343
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    化粧に関する心理学的研究は,1980年代から盛んになってきた.化粧は慈しむ化粧(スキンケア)と飾る化粧(メーキャップ・フレグランス)に大別されるが,感情に及ぼす影響に関する研究は,そのいずれもが高揚と鎮静をめぐるものであった. 喩えるなら,メーキャップによって心を固く結んで「公」の顔をつくって社会に飛び出し,帰宅後にはメーキャップを落とし,スキンケアをすることで心の結び目を解いて「私」の顔に戻るのである.すなわち,化粧は日常生活に組み込まれた感情調節装置である.
  • 一ノ瀬 昇
    2011 年 42 巻 5 号 p. 344-353
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    日本人は昔から毎日の入浴習慣があり, 体臭も比較的少なく,香りは控えめのものを好む傾向があった.しかし近年,香水や様々な海外製品に触れる機会が多くなったことや食べ物も欧米化したことなどから,香りの嗜好が多様化していることがうかがえる.香りを嗅いでリラックスやリフレッシュをしたい,香りで楽しく幸せな気分で家事をしたいなどのニーズがあらわれてきている.本稿では,重要な役割を占めるようになってきたトイレタリー製品の香り開発事例について報告する.
  • 國枝 里美
    2011 年 42 巻 5 号 p. 354-360
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    においに対するヒトの感覚強度は,加齢とともに変化することが確認されており,高齢者では徐々に感度が低下する.一方,においの質の違いを嗅ぎ分けるような識別力は,においの種類によって結果に違いが生じる.例えば,食品は身近で日常的に慣れ親しんでいるものであり,そのにおいとそうでないにおいとでは,馴染みのあるにおいのほうが識別率は高い.また,においに対する嗜好には,生活環境や習慣が関与する.ここでは,においに対する識別や嗜好の様子から,においがヒトの認知機能にどのような関わり方をしているのか考えてみたい.
研究論文
  • 後藤 なおみ, 松葉佐 智子, 五味 保城, 戸田 英樹, 小早川 達
    2011 年 42 巻 5 号 p. 361-370
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,都市ガスの臭質カテゴリーを用い,現行の付臭剤および付臭剤候補の臭気の反復提示が臭質カテゴリーへの適合度評定に用いられるテンプレートの様相に及ぼす影響について検討した.実験協力者は,異なる提示スケジュールで臭気の反復提示を経験した後に各臭気における「都市ガスのニオイ」という臭質カテゴリー名に対する違和感評定課題を実施する2つの反復提示あり群,もしくは違和感評定課題のみに参加する反復提示なし群のいずれかに振り分けられた.違和感評定値に基づいて,群ごとに実験協力者を更に新規付臭剤敬遠群(以後,敬遠群)と新規付臭剤受容群(以後,受容群)に分割し, 3群間で敬遠群と受容群の人数分布を比較したところ,臭気の反復提示により両群の人数分布は変化し,敬遠群が受容群に変容する可能性が示唆された.従って,臭気の反復提示後には臭質カテゴリーへの適合度評定に新たなテンプレートが用いられる可能性が示された.
技術論文
  • 上茶谷 若, 齊藤 満, 井上 嘉則, 加藤 敏文, 塚本 友康, 多田 隼也, 亀田 貴之, 早川 和一
    2011 年 42 巻 5 号 p. 371-376
    発行日: 2011/09/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    両性イオン型高分子をレーヨンに混合紡糸した臭気物質のための新規な繊維状吸着材を試作し,水溶性臭気物質に対する吸着・除去特性を調べた.アンモニアに対する吸着特性を調べたところ,本繊維状吸着材は,繊維母材であるレーヨンと比較して明らかに大きい吸着量と吸着速度を示した.また,消臭加工繊維製品認証試験に従った減少率評価試験を行ったところ,本繊維状吸着材は酸やアミンに対して高い減少率を示したが,アルデヒドや硫化水素に対しては低い値であった.これらの結果から,本繊維状吸着材の吸着機構は,吸着材表面に形成される水和層への分配と両性イオン型官能基への静電的相互作用であることが示唆された.さらに,本繊維状吸着材の再利用の可能性について調べたところ,酢酸に対しては水洗浄により再生可能であることが判った.本検討の結果,本繊維状吸着材は水溶性でかつイオン性を有する臭気物質の吸着・除去に適用可能であると考えられた.
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