東京都では,健康へ影響を及ぼす多様な要因へ対応するため,室内環境保健対策に関する各種のガイドライン等を策定し,知識の普及と予防原則に立った助言を行っている.
健康的に生活するための注意・問題点や改善方法を示した「健康・快適居住環境の指針」,住まいづくりにおける室内空気中化学物質低減化への要点を示す「住まいの健康配慮ガイドライン」,子供の視点にたった化学物質対策を示した「化学物質の子供ガイドライン─室内空気編─」,施設にあった換気のタイミングや方法を考えるきっかけづくりとする「施設における換気のルール」などの提唱により,室内空気中の化学物質対策に関する普及啓発へ取り組んでいる.
近年では建築資材・建材の改良により重篤なシックハウス症を発生する事例は非常に少なくなっている.しかしシックハウス物質が原因ではない室内での臭気苦情は後を絶たない.本報では今後需要が増えそれにつれて臭気トラブルの発生が懸念されるシニアマンション・ホテルの現状と調査事例,臭気発生の実情を述べる.
本報告では,室内空気質の中でもガス状汚染物質について報告する.まず,室内空気汚染に関する問題および研究動向について,1950年代からの室内汚染の変遷として海外のレビュー論文を元に概説する.その中で,ホルムアルデヒドや芳香族炭化水素などは室内濃度が一時上昇したが,その後の対策により低減された.また,フタル酸エステルおよび臭素系難燃剤などのSVOCは,室内におけるその使用により上昇し,維持された状態であると報告されている.さらに,新たに室内空気汚染の対象となる化学物質として,2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)の概要,室内における発生メカニズム,内装材料の施工方法を述べることにより,その対策について解説した.
2-エチル-1-ヘキサノール(以下,2-EHという)は不快な臭気を持つ高級アルコールである.コンクリート下地に直貼りしたタイルカーペットから発生し,臭気クレームの原因物質として知られている.今般,シックハウス指針値の設定が検討されており,健康影響という観点で捉え直す必要がある.そこで,2-EHについての知見を得るために実建物で長期間モニタリングを行い,温湿度が濃度に与える影響や,濃度とにおいの関係などを検討した.また,高水分量のコンクリート下地にも施工できる2-EH対策工法の適用事例についても報告する.
飲酒は重要なコミュニケーションツールである一方,飲酒後口臭の抑制技術が求められている.既報で成人男性の飲酒時に酢酸菌酵素を摂取させた結果,飲酒後口臭の主要成分エタノールの濃度が有意に低減できると示された.本試験では,アルコール,およびアルデヒドをカルボン酸に変換できる酢酸菌酵素に着目し,飲酒後呼気を想定したエタノール拡散の抑制効果の検証を行った.
模擬飲酒後口臭の臭気濃度はエタノール濃度と比例し,飲酒後口臭の広播性にはエタノールが寄与すると確認された.さらに狭小空間中におけるエタノールの拡散試験により,呼気中濃度(発生源濃度)とエタノールのにおいが感じられなくなる距離の関係を導いた.既報より酢酸菌酵素摂取は,呼気中エタノール濃度を低減できるため,飲酒後口臭の拡散を抑制できることが示唆された.以上より,酢酸菌酵素を利用した不快な飲酒後口臭の拡散範囲を低減する製品の開発が期待できる.
本研究では実験参加者自身の吸気に合わせて,同一のニオイを40回提示し,知覚強度変化を検討した.先行研究において,快(不快)とされたニオイ各1種類ずつを選定し,快不快の影響も合わせて検討したが,知覚強度変化の報告頻度に違いはみられなかった.また,内観報告に基づくと,多くの実験参加者が快,不快なニオイともに提示終了までニオイを感じており,知覚強度変化の様相もニオイ間で大きな違いはみられなかった.