機器分析とともに悪臭評価の一翼を担う嗅覚測定法については,国内外でその普及と技術的改善が進められている.国内では,悪臭規制を従来の物質濃度規制から臭気指数規制に改定する自治体が着実に増加し,また臭気指数測定業務に従事する臭気判定士の有資格者もその数を順調に増やしているなど,嗅覚測定法の重要性は益々高まっている.一方,海外では,長年にわたる複数国での検討結果に基づいて,嗅覚測定に関する詳細な内容の欧州規格(EN規格)が制定されて以降,その世界的普及が図られている.
我が国における三点比較式臭袋法(排出水では三点比較式フラスコ法)による臭気指数測定に関しては,過去の詳細な検討結果から,既に精度管理や安全管理についてのマニュアルが策定されており,規制に用いられる公定法として,既に一定の技術水準には到達していると考えられる.また,臭気指数を簡易に測定するための手法についても,従来よりいくつかの提言がなされている.しかし,嗅覚測定についてより多くの需要が見込まれる現在,既往の知見を基に,臭気指数測定のより一層の体系化と効率化が求められており,環境省から委託を受けた(社)におい・かおり環境協会では,精度管理と簡易測定に関する検討が改めて実施されてきた.平成21年度末にはこれら検討会で一定の結論が得られたので,本特集では,その成果を広く本誌読者にご紹介する目的で,検討会に関係された方々にご執筆をお願いした.
最初に久保祥三氏より,におい・かおり環境行政を主導されている立場から,嗅覚測定・臭気指数規制に関する現況や動向を総括していただいた.臭気指数規制の普及と同時に,かおり環境の保全や国際化対応の検討など,現在環境省で実施されている包括的なにおい・かおり施策を,最新の統計データとともにご確認いただきたい.
次に樋口隆哉氏からは,嗅覚測定の精度確保に関する検討会で活躍された立場から,会での成果を総括していただいた.標準ガスを用いた精度管理については過去にも成果が得られているが,今回の検討会では,より現場の臭気に近い混合ガスを標準として用いることとし,その適切な組成や濃度レベルの検討を経て,環境試料用,排出口試料用にそれぞれ標準ガスが作成された.さらに,全国の測定機関の参加でこの標準ガスを用いた照合試験が行われ,その貴重な成果が紹介されている.
畑野和広氏には,簡易嗅覚測定法に関する検討会で実際に試験測定をされた立場から,簡易測定法の選定過程を詳説していただいた.既往の数ある簡易法の中から,2名の被験者で適正な測定精度を確保できる方法として二点比較式臭袋法が選択され,さらに,悪臭現場での試験測定等を通じて,詳細な測定方法の検証がなされている.
最後に筆者(樋口能士)は,簡易嗅覚測定法に関する検討会の1課題として,現場測定を目指した簡易測定器具の開発について紹介した.現場での測定という制約の中で,煩雑なにおい袋試料の希釈調整を容易に実現することを目的としており,開発に際しての基本的な考え方,現状での試作器の設計概要と試用結果等が議論されている.
いずれも嗅覚測定に関する貴重で新規の情報であると同時に,紹介された内容の多くは,今後さらなる検討を要するものでもある.幸い我が国では,(社)におい・かおり環境協会を中心としたクロスチェック体制が確立し,測定従事者による団体も活発に活動している.今回の検討会の成果について,行政,測定事業者等,様々な立場からの意見が寄せられ,嗅覚測定法のさらなる技術改善に向けた議論が活発になることが期待される.そして,精度管理や簡易測定法が確立された結果,特に,依然として測定に至ることの少ない現場周辺での環境測定の実績が大きく増加することを,本特集企画の担当者として願っている.
抄録全体を表示