本稿では,今日のシックハウス問題の概況を説明し,シックハウスが抱える課題を整理する.シックハウス問題により生じる一連の健康被害を総称してシックハウス症候群と呼び,揮発性有機化合物などが主たる原因物質であると考えられてきているが,広義ではカビ・ダニなどの生物的要因も原因となる.しかし,必ずしも因果関係を確立することができていないことが多く,また単一の物質に原因を帰すことは難しい.シックハウス問題対策として室内濃度指針値などが定められているが,新規化学物質の出現や感受性に個人差があるなどの課題があり,解決にむけてさらなる検討が必要となる.
厚生労働省では,室内空気汚染問題に関して,「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」を開催しており,現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から,ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても,健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値として,室内空気中化学物質の室内濃度指針値の設定を行ってきた.平成31年1月17日にキシレン,フタル酸ジn-ブチル,フタル酸ジ2-エチルヘキシルの3物質の指針値の改定がとりまとめられたことを踏まえ,指針値について解説する.
人は1日の大半を室内で過ごしており,室内の空気環境の制御は重要である.「におい」は空気環境の一要素であり,室内のにおいの強さや質も室内空気質を決定付ける要因である.日本建築学会では,環境基準として,2005年に室内の臭気に関する対策・維持管理規準を提案し,2010年に室内の臭気に関する嗅覚測定法マニュアルを提示している.本稿では,「室内の臭気に関する対策・維持管理規準・同解説(AIJES-A003-2005)」の改定された背景と目的,改定版(AIJES-A0003-2019)の主な内容について紹介する.
シックハウスの測定を行う場合には,測定目的と必要な結果に応じて適切な仕様を選定する必要がある.仕様の決定には関係省庁,建物の種別,測定項目,採取方法など様々な要素が関係しており,複雑で分かりにくいために目的と一致しない不適切な仕様が採用される事例が多く見られる.本稿ではシックハウス測定の室内濃度指針値や標準的な採取・測定方法を初めとする基本の枠組みと測定実務の概要を紹介し,シックハウス測定の仕様決定に関する情報を整理した.
一般的な喫煙室でにおいを考慮した空気環境調査を行った.喫煙室内の粉じん濃度とCO濃度は,喫煙本数に対応して増減し,喫煙本数との相関関係がみられた.臭気強度は,喫煙本数と対応がみられず,喫煙終了から11時間経過後も臭気強度3程度のにおいが残っていた.喫煙室と周辺のにおい環境を考慮した空気質について,粉じん濃度とCO濃度は喫煙時の評価指標にはなりうるが,非喫煙時の評価指標としては検討が必要である.