におい・かおり環境学会誌
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41 巻, 6 号
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特集 (食品の異臭 Part II)
  • 岩橋 尊嗣
    2010 年 41 巻 6 号 p. 371
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本誌2010年7月号で,食品の異臭に関する特集を企画し,PartIとして5編の記事を掲載した.本号では,その続編としてさらに5編を紹介する.
    はじめに,氏田氏(日本生活協同組合連合会)は,「食品の異臭苦情について—日本生協連に寄せられる異臭苦情の状況と取り組み—」という題目で,日本生協連に寄せられた食品の異臭についての執筆である.大規模組織である日本生協連に寄せられた問い合わせ・苦情の中で,異味・異臭苦情は増加傾向にあるようだ(2008年は突出している).2000年〜2009年までの苦情背景を振り返って頂き,実際に寄せられた異臭苦情の区分けをさまざまな角度から行っていることが紹介されている.読者にとって非常に解り易く述べられている.また,異臭の原因訴追も徹底的に行っている様子がうかがえ,参考になる情報である.
    川浦氏,小林氏((財)食品分析開発センターSUNATEC)らは,「食品の異臭クレームにかかわる検査」という題目での執筆である.食品分析の専門家からの視点で分析手法も含めて多くの事例が紹介されている.特に,実際の分析結果のクロマトグラムが数多く紹介されており,食品の正常品と異常品の違いが誰の目にも容易に理解できる.また,異臭対策についての記述もあり,我々の日常業務にとって対策指針の一助になるであろう.
    以上の2編は,消費者からの異臭苦情(クレーム)を軸とした情報である.以下の2編は,商品(製品)そのものの臭気にかかわる情報である.
    磯谷氏((独)酒類総合研究所)は,「清酒の貯蔵劣化臭「老香」とその前駆物質」という題目での執筆である.読者の方々で「老香」(ひねか)の読み方を知っている方は,おそらく少数派ではないだろうか.最適熟成期間を過ぎ,さらに貯蔵することを過熟といい,その時に出てくる“かおり”を老香というのである.本稿では,老香に関する著者の研究を中心に紹介されている.多種類の香気成分の中で,特にジメチルトリスルフィドが清酒のオフフレーバーのキー物質になっているとされる.日本酒の好きな方は是非「熟読」されてはいががでしょうか.
    小松氏,大森氏(明治乳業(株))らは,「「あじわいこだわり製法」によるクリームの香味向上と食材由来の不快臭発生抑制効果」という題目での執筆である.著者らは,牛乳の原産地に影響されない差別化されたクリームの製造を目指し,製法を確立した.既存品と比較し,香味において明らかな優位性を見出している.ニンニク料理を食べた後に牛乳を飲むと“息のくささが軽減される”.古くから言われていることである.これは牛乳中のコロイドが作用するためであると理解されている.新規開発したクリームは,カスタードクリームの卵のオフフレーバー,カリフラワー調理時の異臭を抑制する効果があるとされる.
    最終章は,和田氏,森氏,後藤氏(東京海洋大学),喜多氏((株)島津製作所)らは,「食品脂質劣化のにおい生成と抑制およびそのにおい測定」という題目での執筆である.食品のにおい変化の最大要因の一つは,脂質の劣化である.脂質の酸化反応すなわちラジカル反応が生起し,多種類の酸素含有化合物が産生され,これらが食品の異臭問題へとつながる.詳細な反応機構について記述され,さらに抗酸化剤,ラジカル捕捉剤を活用することでの酸化防止が可能であることも述べられている.また,分析事例として魚種によるにおい物質の違いを,分析結果に基づき紹介されている.これらは貴重なデータベースである.情報が多岐に渡るため,紹介しきれないが是非本文に目を通していただきたい.また,国連の専門機関である食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が1962年に合同で設立した「コーデックス委員会(Codex委員会 : 国際食品規格委員会)」の重要性についても触れられている.さらに,和田氏は将来的には食品にかかわるにおい物質についてもコーデックス委員会で規格化されるよう,日本としては指導的立場をとれるように努力することが望ましいと結ばれている.
    Part I, Part IIを通し,合計10編の記事を紹介した.7月号掲載の特集も本号の内容とさまざまな箇所でリンクしてくる.是非7月号もお手元において本号を読まれることをお勧めしたい.最後に,ご多忙中にもかかわらず執筆依頼にご快諾いただいた著者の方々に対し,本紙面を借り厚く御礼申し上げる次第です.
  • 氏田 勝三
    2010 年 41 巻 6 号 p. 372-383
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    近年,食品の異臭苦情が増加してきている.背景には,この10年間に発生した食品に関わる多くの事件・事故の存在があると考えられる.消費者にとっての食品の異臭は,その食品についての各人の「潜在的な基準」から逸脱した「におい」であると言える.一方,食品の異臭にはその由来から,「食品変敗」「配合・工程不良」「包材由来」というその食品の商品仕様内の事項に起因する「内的要因」によるものと,「製造資材誤使用」「付着・混入」「臭い移り*1」という商品仕様外の事項に起因する「外的要因」によるものがあると考えられる.異臭苦情が寄せられた場合,食品を取り扱う事業者が取るべき措置は,第一に消費者が異臭をどのように感じて表現しているかを理解し,迅速にその不安や疑問にこたえることであり,次にその異臭苦情から判った事項を商品改善に生かしていくことである.そのために,苦情発生履歴と製造工程記録を確認するとともに,異臭原因として予想される外的,内的要因について嗅覚官能検査と機器分析の結果から検討し原因を究明する.
    本稿では,日本生活協同組合連合会(日本生協連)のコープ商品*2にこれまで寄せられてきた異臭苦情の状況とそれに対する取組事例の一部を紹介する.組合員に食品を供給する事業者として,生協には,安全と品質の確保に最善を尽くす事はもとより,食品の特性について日頃からきめ細かな情報を消費者に伝えていく努力が不可欠である.特に,嗅覚や「におい」という,人により感じ方が異なる要素をもつ異臭については,その必要性が強く求められる.また,今日「におい」そのものについての情報提供が社会的にも求められてきていると考える.
  • 川浦 知子, 小林 政人
    2010 年 41 巻 6 号 p. 384-395
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    2007年,2008年,食品業界では大きな事件が続いて発生した.2007年には,大手洋菓子メーカーによる消費期限切れの原材料の使用,食肉加工メーカーによる表示偽装,有名菓子メーカーによる表示偽装,老舗和菓子メーカーによる表示偽装,そして2008年には,中国製冷凍ギョーザへの農薬の混入,中国製乳製品へのメラミンの混入,汚染米の流通,食品への防虫剤や溶剤の臭い移りなどの事件が相次いだ.このような事件がマスコミに取り上げられるたびに,消費者への食品に対する関心が高まり,その結果,食品に対するクレームが増加する.その中でも異物,異臭に対するクレームは最も象徴的なものである.本稿では,食品の異臭クレームに関する検査について紹介するとともに,公開されている情報をもとに模擬試料を調整し,解析を行った事例を紹介する.
  • 磯谷 敦子
    2010 年 41 巻 6 号 p. 396-402
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    清酒を貯蔵すると「老香」とよばれるかおりを生じる.老香は様々な化合物が寄与する複合香であり,一般的な清酒の貯蔵・流通過程ではオフフレーバーとされ,長期熟成酒では特徴香として評価される.我々は,一般的な清酒に生じるオフフレーバーとしての老香にはジメチルトリスルフィド(DMTS : dimethyl trisulfide)が大きく寄与することを明らかにした.また,DMTSの生成機構を明らかにするため,DMTS前駆物質を清酒中より探索し,1,2-ジヒドロキシ-5-(メチルスルフィニル) ペンタン-3-オン(DMTS-P1)を同定した.
  • 小松 恵徳, 大森 敏弘
    2010 年 41 巻 6 号 p. 403-409
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    生乳の膜濃縮と脱酸素加熱殺菌を組み合わせて,新規なクリームを開発した.このクリームは従来にない強いミルク風味とすっきりした後味を特徴としている.このクリームは卵の加熱による不快臭の発生を抑制することが見出された.このクリームはミルクの香味に関わる成分が強化されていた.加熱殺菌に先立ってクリームに含まれる溶存酸素を除去することで酸化による香気成分の変化を抑制してすっきりした後味に寄与していると考えられた.卵など食材からの不快臭発生抑制については,脱酸素加熱殺菌の影響が考えられるが,今後解明すべき課題である.
  • 和田 俊, 森 由佳, 後藤 直宏, 喜多 純一
    2010 年 41 巻 6 号 p. 410-420
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    食品のにおいは多種多様である.食品の品質は,食品を摂取する際に,そこにヒトそれぞれのにおいに対する好みが加わり,このにおい感覚と食品そのものの成分の変化や劣化を素因として官能評価される.食品分野では総合的な感覚をフレーバーと称するが,食品成分の分析からこのフレーバーを解析する際に取り残されがちなのが,脂質成分劣化に伴うにおいである.食品のにおい変化の最大素因の一つは脂質劣化といっても過言ではない.
    そこで本稿では脂質劣化のメカニズムをまず紹介し,そこから派生するにおいとその抑制を取り上げ,さらに食品のにおい測定において現在多用されている固相マイクロ抽出(solid phase micro extraction : SPME)とにおい識別装置の測定法を中心に概説する.加えて食品のにおい劣化の中では,悪臭にもあげられてしまう水産物の最近のフレーバー研究の中でSPME法を用いた主なものをまとめた.最後に食品規格の世界標準としてCodex Alimentarius Commission(コーデックス : Codex)に採用された日本初の即席めん類の規格制定の際に検討された脂質劣化と食の安全性の研究についても紹介する.
研究論文
  • 後藤 なおみ, 松葉佐 智子, 五味 保城, 戸田 英樹, 小早川 達
    2010 年 41 巻 6 号 p. 421-433
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    我々は,既存の臭質カテゴリーに着臭者によって規定された新規の臭質が導入される場合,ユーザーが独自に臭質カテゴリーに対する臭質の適合度を評定していると考えた.本研究では都市ガスの臭質カテゴリーを例にとり,臭質カテゴリーに既存の臭質および4種類の新規の臭質に対して「都市ガスのニオイ」との共通したラベリングを行った.その上で,臭質カテゴリーに対する適合度の指標として言語ラベルに対する違和感評定を実施した結果,既存の臭質が最も低い違和感を示し,新規の臭質に関しては臭気物質により違和感の程度に違いが認められることが分かった.更に,各臭質に対する違和感の評定値を基にユーザーの群分けを試みたところ,ユーザーは新規の臭質に関して評定傾向が異なる2群に分類された.また,違和感評定では既存の臭質において両群に差があるとは言えなかったが,既存の臭質と形容詞対との関連度を測定した結果,群間の違いが示された.
技術速報
  • 棚村 壽三, 光田 恵, 佐々木 寛篤, 小林 和幸
    2010 年 41 巻 6 号 p. 434-442
    発行日: 2010/11/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,IH調理時に,換気量削減のためレンジフードによる局所排気をしない場合の臭気対策として調湿建材に着目し,実物大空間における調湿建材の脱臭性能を明らかにすることを目的とした.LDKを想定した実験室(3640mm×7280mm×2500mm,換気回数0.5回/h)でIHによる調理を行い,調湿建材(主成分 : 多孔質珪酸化合物)を設置したときの脱臭性能を嗅覚測定とにおいセンサーを用いて評価した.調理直後の臭気濃度を基に,実験室の壁・天井をガラスとしレンジフードを全く運転しない条件に対する各条件の低減率を脱臭率として求め,脱臭性能を比較した.実験室の天井に調湿建材を設置した条件では脱臭率69%であり,調理中15分間のみのレンジフード運転条件では脱臭率90%であった.調湿建材の調理直後の脱臭率は15分間運転のレンジフードよりも劣るが,調湿建材は室内へ残留した臭気の脱臭に有効であり,調理前の臭気濃度までに回復する時間は,調理中15分間のレンジフード運転条件よりも短くなることが明らかとなった.
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