におい・かおり環境学会誌
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42 巻 , 4 号
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特集(遺伝子研究によるにおい・かおりの研究動向)
  • 大平 辰朗
    2011 年 42 巻 4 号 p. 247
    発行日: 2011/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    動植物の体内では,様々な物質が生産されている.その個体特有のにおいやかおりもその一部である.それらの生成には遺伝子が関与しており,その発現により,様々な物質が生合成されてくる.動植物の発する特徴のあるにおいやかおりには,最近の研究で新しい機能が次々と見出され,それらの利用法の開発も盛んになっている.このような風潮のもと,動植物体内でのにおいやかおり物質の生成機構に関する研究も行われるようになり,生成に関与する遺伝子も発見されるようになっている.そこで,本特集では動植物のにおい·かおり物質の生成に関わる遺伝子研究に焦点をあてることとした.
    最初の原稿は,小原一朗·矢崎一史氏によるハーブの一種であるシソの遺伝子を芳香成分を生成する樹木であるユーカリに導入するというユニークな話である.シソに存在する芳香性物質の一種であるリモネンの生合成関連遺伝子をユーカリに導入したところ,リモネンの蓄積量が飛躍的に増加し,さらにはユーカリ芳香性成分の主な物質である1,8-シネオールやα-ピネンも蓄積量が増加したという研究内容の紹介はたいへん興味深いもので,かおり物質の生産の一手段としての将来性を感じさせるものである.
    2番目の原稿は,吉橋 忠氏による香り米に関するものである.香り米は国内では古代米のカテゴリに入り,神社などで栽培されてきた珍重品だが,世界的にはたいへん人気がある品種だ.香り米の香り成分2-アセチル-1-ピロリンの生成機構に関する興味深い研究内容や同じ香りを呈する茶豆などの生成機構にも言及されている.
    3番目の原稿は,鈴木保宏氏より,同じ米の話題であるが,劣化に伴って発生する古米臭に関するものである.米は一般的には刈り入れ後,保存·流通するわけだが,長期の保存期間が経過すると古米臭なる独特なにおいを発するようになる.このにおいは品質の劣化に繋がるため,いかににおいを低減するかが重要な課題となる.ここではにおいの生成機構はもとより,生成に関与する関連遺伝子の特定やそれらの研究を発展させ,においの生成量が少ない品種の簡易選抜法の開発などが紹介されている.
    最後の原稿は,佐久間弘典·小林栄治氏による和牛の優れた風味に関する研究である.和牛の食味は脂肪量や質および風味の要素であるかおりが特徴的で,輸入牛とは大きく異なっている.これらの要因となる成分の生成に関与する遺伝子の特定に関する記述などはたいへん興味深い.
    動植物の生体内では,様々な遺伝子の関与によりにおいやかおりが生産されている.ここで紹介した内容はそのほんの一部にすぎない.本特集を機に,多くの読者が「におい·かおりの動植物における生成機構」について認識を深めていただければ幸いである.
    最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
  • 小原 一朗, 矢崎 一史
    2011 年 42 巻 4 号 p. 248-256
    発行日: 2011/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    植物の香りは人間生活の中に深く入り込み,様々な場面で暮らしを豊かにしている.植物の芳香成分の中でも,特にモノテルペンと総称される揮発性有機化合物は,ハーブや花の複雑な芳香成分の主要なグループを形成する.我々は,近年発展が著しい植物分子生物学の知見を応用し,ハーブの一種であるシソ由来のリモネン合成酵素遺伝子を,芳香成分を作る樹木であるユーカリに導入した.その結果,ユーカリオイルの芳香成分の蓄積量を最高で約5倍に増加させることに成功した.本稿では,こうした香りのエンジニアリングにおいて基礎研究が極めて重要な役割を果たしたこともあわせて報告する.
  • 吉橋 忠
    2011 年 42 巻 4 号 p. 257-264
    発行日: 2011/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    香り米は,2-アセチル-1-ピロリンに由来する特有の香りを持つ品種群である.国際共同研究より,品種判別技術,香り成分定量技術を開発した.香り米では,アミノアルデヒド脱水素酵素の欠損により,ポリアミン分解中間体である4-アミノブタナールの生成により,2-アセチル-1-ピロリンが生成することを見出した.一方,2-アセチル-1-ピロリンに由来する特有の香りを持つ枝豆である茶豆にでも,アミノアルデヒド脱水素酵素の欠損が見られ,香り米と同様の生成機構をもつことを解明した.
  • 鈴木 保宏
    2011 年 42 巻 4 号 p. 265-275
    発行日: 2011/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    貯蔵にともないコメは劣化し,古米臭が発生する.リポキシゲナーゼ(LOX : Lipoxygenase)は脂質を過酸化する酵素であり,古米臭発生に関与すると考えられている.LOXはコメヌカに存在し,LOX-3はLOX活性の80%以上を占めるアイソザイムである.既に著者らは種子のLOX-3タンパク質が欠失したタイの在来品種Daw Damを見出し,貯蔵中に蓄積する古米臭成分量がLOX-3欠失米ではLOX-3含有米よりも少ないことを明らかにしている.従って,LOX-3欠失性をイネに導入することは米の品質向上に貢献することが期待される.LOX-3欠失性は劣性の1遺伝子支配であるが,LOX-3欠失性の選抜方法はウエスタンブロッティングを用いた後代検定であり,極めて手間と時間がかかる方法である.そこで,簡便なLOX-3欠失性の選抜方法を開発するために,Daw Damと日本晴の後代を用いて表現型とDNAマーカー*1との連鎖解析を行った.また,精製したLOX-3タンパク質の内部アミノ酸配列を決定し,Os03g0700400がコードするLOXタンパク質の配列と一致することを見出した.Daw DamのOs03g0700400の塩基配列を解析したところ,第7エクソンに野生型では“G”の塩基が“A”となっている変異が認められた.この変異によりDaw Damでは終止コドンが生じ,LOX-3タンパク質の合成が途中で終了すると考えられる.これらの結果は,Os03g0700400がコメのLOX-3遺伝子であることを示している.この塩基変異を利用して,LOX-3欠失イネの品種を簡易に選抜できる2種類のDNAマーカーを開発した.これにより,古米臭発生の少ないイネ品種の早期選抜が簡単な操作でできるようになり,品種育成の効率化が期待できる.
  • 佐久間 弘典, 小林 栄治
    2011 年 42 巻 4 号 p. 276-284
    発行日: 2011/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    和牛肉は優れた食味を持っている.ロース内の脂肪量(霜降り)だけでなく,脂肪の質(脂肪酸組成)および風味の要素である香りも輸入牛肉とは大きく異なっている.1価の不飽和脂肪酸であるオレイン酸は,脂肪の融点に大きく影響し,牛肉を食した際のやわらかさや食味の良さに結び付いている.我々は,黒毛和種と外国種との交雑家系および黒毛和種集団を用いて,脂肪酸組成,特にオレイン酸割合に影響する遺伝子の一つを特定した.現在は,脂肪酸組成に影響するその他の遺伝子および和牛肉の特徴の一つである香り(和牛香)に影響する遺伝子の探索に取り組んでいる.
研究速報
  • 棚村 壽三, 光田 恵, 小林 和幸, 濱中 香也子
    2011 年 42 巻 4 号 p. 285-293
    発行日: 2011/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,コロッケ,焼肉,焼魚の3種類の調理臭を対象として調理直後に採取した試料の臭気濃度の経時変化を検討し,値に変化のない嗅覚測定の実施期間を明らかにし,調理臭測定の際の基礎資料を得ることを目的とした.調理中に採取した各調理臭の臭気濃度,臭気強度,快·不快度,臭気質を6名のパネルにより,0.5時間後,1.5時間後,4.5時間後,24時間後,48時間後に測定した.トリメチルアミンの感覚的な寄与が大きい焼魚の調理臭については値の変化が小さく,2日以内に測定することで採取直後と同様の値が得られることが明らかとなった.臭気濃度の判定試験の実施期間は試料を採取した日またはその翌日のできる限り早い時期とされているが,焼肉では試料採取から24時間以内,コロッケでは試料採取後,速やかな測定が必要であることが明らかとなった.
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