貯蔵臭とは長期貯蔵されたカンキツ類から感じる食品異臭(オフフレーバー)とされているが,その詳細は明らかとなっていない.本研究では,ウンシュウミカン(Citrus unshiu Marc.)可食部における貯蔵臭物質およびその代替指標物質の経時的変化を,嗅覚官能評価および化学分析の技術で追跡し,貯蔵臭の簡易選別技術の基礎的情報の提供を目的とした.嗅覚官能評価の結果,低温貯蔵区(4℃区)では時間の経過(5ヶ月目)に伴い,“草のような”というにおいの印象が明確に増加した.またGC-MS/MSターゲット分析法を用いて貯蔵臭候補物質であるp─シメネンの放散量を定量したところ,4℃区では時間の経過に伴いその放散量が有意に増加した.加えてGC-MSノンターゲット分析の手法により代替指標物質を検索したところ,低温貯蔵区で時間の経過に伴い放散量が増加する物質として,テルペン類(13物質)がアノテーションされた.
“ふなずし”は,琵琶湖周辺で漬けられているなれずしの1種である.伝統的な食文化を継承するため,現代人に好まれる製造方法の解明が求められている.本研究では,嗜好性の高いふなずしの生産管理に向け,品評会に出品されたふなずしを対象として細菌叢と香気成分を分析し,官能評価スコアと併せて評価することを目的とした.ふなずしの細菌叢は,Lactobacillus spp.,Lb. acidipiscis,Lb. buchneri,Lb. brevis,Bacillus spp.,Staphylococcus spp.を主要とする6グループに大別できた.ふなずしから検出された香気成分は3グループに分けられ,それぞれ品評会スコアとおよそ対応していた.品評会で高評価を得たふなずしは清酒と共通の香気成分が多く,低評価のものは腐敗臭成分が多く検出され,嗜好性は香気成分でおよそ説明可能であることが示された.一方で細菌叢と香気成分の明確な関係性はみられず,酵母を含めた発酵過程における経時的な解析が必要となった.
Pueraria montana var. lobata Ohwi(クズ)の花の香気成分をGC─FID及びGC-MSを用いて分析した.抽出した成分のうちエステルが相対的に最も大きなピーク面積を占め,これは主にブドウの香りを示すmethyl anthranilateに起因した.他に,ethyl linoleate,1-octen-3-ol,(Z)-3-hexen-1-ol,farnesol,palmitic acid等がそれぞれフルーティーな香り,マツタケの香り,青葉の香り,フローラルな香り,ワックス臭等を呈し,クズの花の独特な香りに寄与すると考えられた.本論文は,クズの花の香気成分についての初めての報告である.
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