におい・かおり環境学会誌
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43 巻, 2 号
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特集(未利用バイオマス資源から得られる有用成分)
  • 大平 辰朗
    2012 年 43 巻 2 号 p. 101
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    地球温暖化対策の一環として各地に存在する様々なバイオマス(家畜排泄物,食品廃棄物,製材工場等残材,建設発生材,農作物非食用部,林地残材等)の利活用が注目されている.しかしながら国内のバイオマス資源の利用状況はまだ十分とはいえず,森林の伐採等で排出される林地残材にいたっては殆ど未利用の状態と言われている.これらの資源の中には,微量ではあるが付加価値が高く利用が可能な成分が含まれている可能性があり,資源の貴重性を考えると,決して無駄にすることはできない.一方で,このようなバイオマス資源は放置しておくと,やがては腐敗し,場合によっては,悪臭等の発生要因となる可能性も指摘されており,処理法の開発も重要な課題となっている.以上のようなことから,本特集では未利用バイオマス資源から得られる有用成分にスポットをあて,各分野の専門家の方々に最近の研究トピックスを中心に概説していただいた.
    最初に,沢村正義氏より柚子等の柑橘類搾汁後の残滓からのエココンシャスな精油抽出と抽出残渣の堆肥化技術に関する興味深い内容が紹介されている.特に抽出技術については沢村氏らが開発した超音波印加型減圧水蒸気蒸留装置の簡単な原理や抽出機構,実証試験の紹介はたいへん興味深い.
    次に,山下理恵氏により地域バイオマスの特徴とその利用に関する静岡県の取り組みが紹介されている.静岡県は森林資源や富士山系からの豊かな地下水があり,木材工業や飲料製造業が盛んである.特に飲料の出荷額は全国1位であり,中でもコーヒー飲料や茶系飲料,柑橘類の搾汁等が主要製品である.これらの産業からは,製材工場等残材や食品加工残渣などが大量に排出され,それらの処分費の負担は決して少なくない.それらの対策の一環として付加価値の高い化成品や新素材としての炭水化物,さらには固形燃料ペレット化によるエネルギー回収システムなどが研究されている.このような地域バイオマスの高度利用技術の開発に関する記述は,同じような問題を抱える自治体にとって大いに参考になるだろう.
    さらに,菅沼俊彦氏によりサツマイモを原料とする焼酎の絞り粕の有効利用や絞りかすゼロを目指した新規焼酎製造法について興味ある内容が紹介されている.焼酎の絞り粕は栄養成分に富んでいるが,一方で腐敗しやすく,異臭の発生源となりやすい.そこで考案された絞り粕がゼロになる新規焼酎製造法とはどのようなものなのか興味のつきない内容となっている.
    岡部敏弘氏からは,青森ヒバの製材時に排出されるオガクズ等から得られるヒバ油の特性及びナノ粒子状態にしたヒバ油の利用法について最新の研究例を中心に紹介されている.青森ヒバという地域特有のバイオマスではあるが,それらから得られる精油やヒノキチオールという物質は様々な分野で利活用されてきており,未利用の地域バイオマスの利活用という点ではお手本になる内容である.
    最後に,著者(大平)より未利用林地残材の有効利用と題して,枝葉から得られる精油成分の利用のための効率的な抽出技術に関する最近のトピックスを紹介した. 森林は適度な間伐作業等が健全な育成には必要である.また木材と出荷する時点では,木材以外の枝葉が大量に排出する.これらの過程で排出される枝葉等は林地残材と呼ばれており,その発生量は決して少なくない.現状,これらの利活用は殆どされていないため,対策が急務となっている.枝葉には香りの元となる精油が他の部位に比べ多く含まれており,それらの利用ができれば.林地残材の効果的な利用策となる.ここでは付加価値の高い精油類を利用する上でキーとなる効率的な抽出法として,省エネ型かつ環境配慮型の減圧式マイクロ波水蒸気蒸留装置の特徴とその実用化等について紹介している.これら以外にも全国を見渡すと様々な取り組みや研究例があると思われるが,紙面の関係で今回は割愛させていただきました.
    本特集を機に,多くの読者が「未利用バイオマス資源からの有用成分」について認識を深められ,各地の貴重なバイオマス資源の有効利用策の策定等の参考になれば幸いです.
    最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
  • —日本古来の柚子の有効利用について—
    沢村 正義, 柏木 丈拡, 田邊 憲一
    2012 年 43 巻 2 号 p. 102-111
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    柚子搾汁後果皮残滓の処理問題の解決のために,新しい総合的な技術開発を行った.本研究のコンセプトは農産廃棄物の有効利用,環境保全,物質循環であり,エココンシャスシステムの構築である.残滓から従来法よりも効率よく回収できる超音波印加型減圧水蒸気蒸留装置を開発した.また,蒸留作業に付随して発生する廃液の新しいバイオ処理システム,および蒸留後の残滓の堆肥化技術を開発した.
  • —林地残材,柑橘の搾汁残さ,コーヒー滓,および茶殻—
    山下 里恵, 菊池 圭祐, 櫻川 智史
    2012 年 43 巻 2 号 p. 112-119
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    食品残さや林地残材などの様々なバイオマスが,各地域で発生している.それらバイオマスは,その特性に合わせて地域内で最大限に活用されるのが望ましい.本稿では,静岡県で発生する主なバイオマスについて,1) スギ材および特産柑橘(ダイダイ)果皮からの精油の抽出とその香りの解析事例,および2)飲料製造において大量に発生するコーヒー滓や茶殻の特徴,およびそれらに含まれる有用成分とその利用方法を紹介する.
    スギ材からの精油の抽出では,超臨界CO2抽出法によって芳香性のある精油が得られ,香り解析の結果,cis-カラメネンがスギ材の特徴香成分の一つであることが分かった.また,抽出圧力200kgf/cm2 以上で,抗菌活性の高いフェルギノールを多量に含む精油が得られた.ダイダイ果皮の減圧水蒸気蒸留では,香りに寄与する成分の割合が高い精油が得られた.
  • 菅沼 俊彦, 沖園 清忠, 瀬戸口 眞治
    2012 年 43 巻 2 号 p. 120-127
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    甘藷焼酎は製造時に製品の約2倍量の蒸留廃液(焼酎粕)を排出する.焼酎粕は栄養成分に富むが,一方で非常に腐敗しやすく,異臭の発生源となりやすい製造副産物である.現在の主な再利用法はメタン発酵や飼料化・畑地還元であり,焼酎粕の潜在価値を十分に引き出していない.そこで我々は「焼酎粕ゼロ」を目指し,蒸留前の発酵もろみをまず固液分離して,それぞれを別々に蒸留することで,従来タイプの甘藷焼酎とは異なる新タイプ焼酎2種と機能性に富む食品素材2種を同時に得られる新規焼酎製造フローを開発した.
  • —ナノヒバ油のミスト分散による抗菌・防虫技術の開発—
    岡部 敏弘, 小野 浩之, 小舘 澄枝
    2012 年 43 巻 2 号 p. 128-137
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    青森県の県木であるヒバ材から抽出したヒバ油の優れた抗菌効果に着目し,住環境におけるアレルギー防止,農作環境における病害虫防除,医療環境における院内感染防止等の新たなる応用分野開拓のため, 医農工かつ産学官連携の体制で研究開発を行った.
    青森県産業技術センターでは,ヒバ油を各種分野へ応用可能とするために,ヒバ油を乳化する技術について検討し,ヒバ油のエマルション粒径を200nm程度以下のナノレベルにすることで, 経時安定性および希釈安定性に優れたナノヒバ油を開発した.ナノヒバ油の応用製品として,「ナノヒバ油噴霧装置」,「藺草敷物」,ナノヒバ油で抗菌加工した「集成まな板」 等の試作品を開発した.
  • —マイクロ波を利用した香り成分の抽出技術—
    大平 辰朗
    2012 年 43 巻 2 号 p. 138-154
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    森林の伐採地などには枝葉などの林地残材が豊富にある.林地残材の内,枝葉はほとんど利用されておらず,それらの利用法の確立が急務となっている.枝葉には抗菌性,防虫性,リラックス効果,抗酸化性,消臭作用,環境汚染物質除去作用などが見出されている「精油」が含まれており,その利用価値は非常に高い.そこでそれらの効率的な抽出法として減圧式マイクロ波水蒸気蒸留法を開発した.本法を用いると,目的とする精油を短時間で極めて効率的に抽出でき,さらに乾燥状態の抽出残渣が得られるため燃料等への利用展開が容易である.ここでは新規抽出法の概要と利用の可能性およびそれらを用いた新たな森林ビジネスの可能性を考察した.
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