地球温暖化対策の一環として各地に存在する様々なバイオマス(家畜排泄物,食品廃棄物,製材工場等残材,建設発生材,農作物非食用部,林地残材等)の利活用が注目されている.しかしながら国内のバイオマス資源の利用状況はまだ十分とはいえず,森林の伐採等で排出される林地残材にいたっては殆ど未利用の状態と言われている.これらの資源の中には,微量ではあるが付加価値が高く利用が可能な成分が含まれている可能性があり,資源の貴重性を考えると,決して無駄にすることはできない.一方で,このようなバイオマス資源は放置しておくと,やがては腐敗し,場合によっては,悪臭等の発生要因となる可能性も指摘されており,処理法の開発も重要な課題となっている.以上のようなことから,本特集では未利用バイオマス資源から得られる有用成分にスポットをあて,各分野の専門家の方々に最近の研究トピックスを中心に概説していただいた.
最初に,沢村正義氏より柚子等の柑橘類搾汁後の残滓からのエココンシャスな精油抽出と抽出残渣の堆肥化技術に関する興味深い内容が紹介されている.特に抽出技術については沢村氏らが開発した超音波印加型減圧水蒸気蒸留装置の簡単な原理や抽出機構,実証試験の紹介はたいへん興味深い.
次に,山下理恵氏により地域バイオマスの特徴とその利用に関する静岡県の取り組みが紹介されている.静岡県は森林資源や富士山系からの豊かな地下水があり,木材工業や飲料製造業が盛んである.特に飲料の出荷額は全国1位であり,中でもコーヒー飲料や茶系飲料,柑橘類の搾汁等が主要製品である.これらの産業からは,製材工場等残材や食品加工残渣などが大量に排出され,それらの処分費の負担は決して少なくない.それらの対策の一環として付加価値の高い化成品や新素材としての炭水化物,さらには固形燃料ペレット化によるエネルギー回収システムなどが研究されている.このような地域バイオマスの高度利用技術の開発に関する記述は,同じような問題を抱える自治体にとって大いに参考になるだろう.
さらに,菅沼俊彦氏によりサツマイモを原料とする焼酎の絞り粕の有効利用や絞りかすゼロを目指した新規焼酎製造法について興味ある内容が紹介されている.焼酎の絞り粕は栄養成分に富んでいるが,一方で腐敗しやすく,異臭の発生源となりやすい.そこで考案された絞り粕がゼロになる新規焼酎製造法とはどのようなものなのか興味のつきない内容となっている.
岡部敏弘氏からは,青森ヒバの製材時に排出されるオガクズ等から得られるヒバ油の特性及びナノ粒子状態にしたヒバ油の利用法について最新の研究例を中心に紹介されている.青森ヒバという地域特有のバイオマスではあるが,それらから得られる精油やヒノキチオールという物質は様々な分野で利活用されてきており,未利用の地域バイオマスの利活用という点ではお手本になる内容である.
最後に,著者(大平)より未利用林地残材の有効利用と題して,枝葉から得られる精油成分の利用のための効率的な抽出技術に関する最近のトピックスを紹介した. 森林は適度な間伐作業等が健全な育成には必要である.また木材と出荷する時点では,木材以外の枝葉が大量に排出する.これらの過程で排出される枝葉等は林地残材と呼ばれており,その発生量は決して少なくない.現状,これらの利活用は殆どされていないため,対策が急務となっている.枝葉には香りの元となる精油が他の部位に比べ多く含まれており,それらの利用ができれば.林地残材の効果的な利用策となる.ここでは付加価値の高い精油類を利用する上でキーとなる効率的な抽出法として,省エネ型かつ環境配慮型の減圧式マイクロ波水蒸気蒸留装置の特徴とその実用化等について紹介している.これら以外にも全国を見渡すと様々な取り組みや研究例があると思われるが,紙面の関係で今回は割愛させていただきました.
本特集を機に,多くの読者が「未利用バイオマス資源からの有用成分」について認識を深められ,各地の貴重なバイオマス資源の有効利用策の策定等の参考になれば幸いです.
最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
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