私達の身の回りには40万種の化学物質からなる「におい」が存在しており,人の敏感な嗅覚は極微量であってもにおいの元となる成分を感知することが可能である.またにおい物質は,単独で嗅いだ場合と複合で嗅いだ場合では相互作用や相殺作用により,その質や強度が大きく変化するため,においの質の評価は機器分析では容易ではなく官能評価による判定が主流となっている.筆者らは,におい分析における包括的かつ詳細な機器分析手法として高感度フルスペクトル取得が可能なGC-TOFMSを用いた生活に関わるさまざまなにおいの網羅的解析手法について検討を行った.
私たちの身の回りには様々な空間が存在し,それぞれにおいて,かおりにより快適な空間を作りたいとするニーズがある.例えばパーソナルな空間では,暮らしの中に存在するにおい対策を精油で行いたいとする機能的な需要などがあり,パブリックな空間では,宿泊や商業施設など,各空間において快適に過ごすなどの目的をもって,精油による快適なかおり空間演出を行うニーズがある.生活の木ではこうした空間演出,「環境芳香」を提案している.今後ますます精油の機能性が明らかとなり,様々な環境芳香のニーズに対応していくものと予想される.
香りの強い北米メキシコの生活,空,空気,水,海,土,等から来る香りを感じたままに述べ,その時の気分で反応する自分勝手な印象を,取り留めなく書いてみることにした.
また,在日約3年の留学生たちに自分が生まれ育った国と,今生活している日本を,嗅覚を通しての違いを投稿いただいた.個人的にも感慨深いものとなった.
天然物由来の新しい消臭物質の発見を目的として,活性の測定にガスクロマトグラフィー(GC)を用いて,植物抽出物からのスクリーニングを試みた.その結果,フユアオイの50%エタノール水による抽出物に消臭活性を検出した.活性の本体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し,1,8-シネオールと同定した.1,8-シネオールは,比較的広い範囲の悪臭ガス(2-ノネナール,スカトール,インドール,ジメチルトリスルフィド,ジメチルジスルフィド,イソ吉草酸)に対して,消臭率90%以上の強い活性を示した.また,アリルメチルスルフィド,酪酸,アリルメルカプタン,ジメチルスルフィドに対し70%以上の消臭率を示した.なお,消臭活性の強さを表す消臭率は,消臭物質を含むin vitroの測定系に悪臭ガスを添加して反応させ,その際に消失したガス量の原ガス量に対する割合(%)である.官能試験(6段階評価)では,1,8-シネオールは臭気強度を1.5~3段階低減させた.1,8-シネオールには,芳香によって臭気強度を低下させるマスキング効果が知られている.一方,1,8-シネオールは消臭活性の強さと分子量,または消臭活性と沸点との間に相関関係が認められた.また1,8-シネオールに一旦吸着された悪臭ガスは高温で物理的に脱着した.これらの知見から,1,8-シネオールにはマスキング以外に,悪臭ガスを吸着することにより,その濃度を低下させる物理的機序の存在が推定された.
より高精度でかつ簡便な閾値測定手法が今後も必要とされると考えたことから,三点比較式臭袋法における最適吸引手法の提案を目指し,自己吸引法(公定法)と押出し吸引法,医療用カニューラを用いた吸引法間の閾値比較を行った.押出し吸引法は,3回の繰返しによる習熟に伴う閾値濃度の低下傾向も算定された閾値も自己吸引法と同程度だった.カニューラ法は,用いた器具の管が長く断面積が小さく空気抵抗が大きかったためか高い閾値算定になり,器具の改良の必要性が挙げられた.
市販コーヒーの複雑な香気特性を,におい分子間の相互作用を考慮した解析により検討した.Headspace法を用いて香気成分を抽出したところ,「香ばしさ」「酸っぱさ」というコーヒー特有の香気の特徴が変化した.この香気変化は,pyrazine化合物,furan化合物,鎖状カルボニル化合物の含有比率の違いによりもたらされていた.構造が類似した香気成分群がコーヒーの香気形成に大きく影響を与えていることが明らかとなった.