かおりは曖昧なものではなく効果を有するものである.ここでは,我々の研究グループが行ってきた動物実験の内容を中心に報告する.研究を進めていくうちにかおりの良い面である有効性だけでなく,悪い面である危険性も明らかになってきた.臨床などにおいてかおりを積極的に活用するためには,良い面だけでなく悪い面も認識する必要がある.現在の状況は,かおりが身のまわりにあふれすぎている.かおりの危険性にも考慮しながら,かおりをより有効に活用すべき段階にきていると考える.
古来より植物の芳香が抗不安効果を持つことは経験的に広く知られてきた.今日でもその作用は民間療法として取り入れられている.しかしながら「香気が抗不安効果を生み出すメカニズム」については未だ不明である.本稿ではリナロール(ラベンダー精油の主要香気成分の一つ)の香気が持つ抗不安作用,その作用の嗅覚依存性,そしてベンゾジアゼピン感受性GABAA受容体の関与を中心に,その基盤となる脳内メカニズムについて最新の知見をもとに解説する.
現代人の多くが睡眠不足や睡眠の質の低下を訴えている.睡眠の問題は免疫や認知機能の低下,うつ病や認知症といった精神神経系疾患の発症リスク増加などに寄与する.睡眠環境や生活習慣の見直しを通じて,睡眠を十分に摂るための生活改善を目指すのが理想的だが,実現は難しい.補完・代替療法の1つアロマセラピーは,睡眠の質を改善することが示されている.本稿では,天然植物精油に含まれる香りの効果について,睡眠不足による海馬の機能失調および自発睡眠に焦点を当て,筆者らの研究知見の紹介と関連論文の概説を行う.
著者らはこれまでに紅茶の香りが交感神経活動を抑制することで鎮静効果を発現することを報告しているが,これまでの香り研究から鎮静効果を有する香りには,睡眠を円滑にする効果が期待される.そこで,本研究では,ストレス意識が高く睡眠に不満がある健常な女性20名を対象に,14日の試験期間を設け,紅茶の香りが睡眠に与える効果について解析した.その結果,心理的にはストレス意識の低減とともに睡眠の質,入眠のしやすさ,睡眠維持に対する満足感が向上した.また,生理的には入眠潜時・離床潜時の短縮,総睡眠時間の延長,睡眠効率の有意な上昇が認められ,紅茶の香りには睡眠改善作用を有することが示唆された.
溶融混合によって,α-ピネンを含有した加水分解性ポリマーを作製した.酸水溶液中においてポリマーが加水分解するとともに,10~20日間に渡ってα-ピネンが徐放した.その徐放割合は,ポリマーの親水性の程度に依存した.すなわち,親水性が高くなるに従ってポリマーの分解が促進され,α-ピネンの徐放割合が増加した.しかしながら,α-ピネンを導入することでポリマーの機械的強度は導入前の20%~30%に低下した.