トイレは人の生活に欠かせない道具である.長い歴史の中で,トイレの機能も日々,進歩している.近年のトイレではにおいや衛生的な面への配慮や,安全性,機能性等に加え休息域としての機能も求められ,日本のトイレは今や世界で一番といわれるほど快適な空間になったといわれている.
今日のトイレの特徴を示す重要なキーワードの一つに環境がある.公衆衛生的な配慮等から水洗トイレの普及は欠かせないものであるが,発展途上国への普及では下水道設備の建設・維持のために必要な膨大な費用がかかり,かつ世界的な水不足の問題も懸念されている.そのため水を使用しない安価なドライ(乾式)トイレの開発,普及が急務であるといわれている.このような背景から現在注目されているものにバイオトイレがある.バイオトイレは地震や台風等自然災害の多い国においても,いざと言う時には欠かすことのできない道具になる.一方で駅や公園などの公共のトイレは,これまで排泄行為が主な目的として使用されてきたが,近年では快適空間としての機能も合わせもつようになった.このようにトイレは時代の要請や技術の進歩とともに,これまで以上に我々の生活に欠かせないアイテムになろうとしている.そこでトイレに携わっている5名の専門家の方々に最近のトイレの現状や傾向について解説いただいた.トイレについて様々な角度から再考いただければ幸いである.
最初はバイオトイレの原理や開発の経緯,問題点についてである.おが屑を用いた乾式トイレにおいては,おが屑にし尿を混ぜ攪拌することで,し尿が無臭の状態で消滅していく.単純な操作でコストもかからない本方式はどのような原理になっているのだろうか.効率のよい乾式トイレの原理等について,専門家ならではの視点で解説いただいている.
次いで,山岳地域等に設置されているバイオトイレの現状や問題点について紹介いただいている.山岳地域ではいうまでもなく,インフラが未整備であり,そのような環境でも利用可能なバイオトイレの重要性は高まるばかりで,それらの実証例として環境技術実証モデル事業の紹介もされている.設置後の問題点や改善策など継続利用も視野にいれた展望もあり,日頃使用する機会の少ない方々や自治体の方々にとっても,わかりやすい内容になっている.
さらにトイレ掃除と学校教育という観点で取り組んでいる「京都市掃除に学ぶ便きょう会」の活動については,トイレ掃除というごく普通の,誰にでもできる活動を通して得られる自己効力感等について体験談が紹介されている.昨今の多様な価値観の中で,トイレ掃除というシンプルな体験から得られることの大切さを実感させられ,トイレに対する考え方として新鮮な内容となっている.
最後は,最近のトイレの機能や役割についてである.駅や公園などの公共のトイレ,学校のトイレ,百貨店等のトイレの改善の様子や改善後の印象などからはトイレに対する考え方の変化が読み取れ,トイレを排泄行為以外の快適空間として考慮し,機能性,デザイン性,安全性などこれまでのトイレにはない様々な機能の紹介は,今後のトイレのあり方を考えさせられる.
トイレに対する考え方や機能性は日々変わっていく.今回は紙面の関係で最近のトイレに関する考え方や傾向について代表的なものしか紹介できなかったが,本特集を機に,多くの読者が最近のトイレの進歩について認識を深めていただければ幸いである.
最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
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