におい・かおり環境学会誌
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39 巻, 5 号
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特集(トイレのニュートレンド)
  • 大平 辰朗
    2008 年 39 巻 5 号 p. 303
    発行日: 2008/09/25
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    トイレは人の生活に欠かせない道具である.長い歴史の中で,トイレの機能も日々,進歩している.近年のトイレではにおいや衛生的な面への配慮や,安全性,機能性等に加え休息域としての機能も求められ,日本のトイレは今や世界で一番といわれるほど快適な空間になったといわれている.
    今日のトイレの特徴を示す重要なキーワードの一つに環境がある.公衆衛生的な配慮等から水洗トイレの普及は欠かせないものであるが,発展途上国への普及では下水道設備の建設・維持のために必要な膨大な費用がかかり,かつ世界的な水不足の問題も懸念されている.そのため水を使用しない安価なドライ(乾式)トイレの開発,普及が急務であるといわれている.このような背景から現在注目されているものにバイオトイレがある.バイオトイレは地震や台風等自然災害の多い国においても,いざと言う時には欠かすことのできない道具になる.一方で駅や公園などの公共のトイレは,これまで排泄行為が主な目的として使用されてきたが,近年では快適空間としての機能も合わせもつようになった.このようにトイレは時代の要請や技術の進歩とともに,これまで以上に我々の生活に欠かせないアイテムになろうとしている.そこでトイレに携わっている5名の専門家の方々に最近のトイレの現状や傾向について解説いただいた.トイレについて様々な角度から再考いただければ幸いである.
    最初はバイオトイレの原理や開発の経緯,問題点についてである.おが屑を用いた乾式トイレにおいては,おが屑にし尿を混ぜ攪拌することで,し尿が無臭の状態で消滅していく.単純な操作でコストもかからない本方式はどのような原理になっているのだろうか.効率のよい乾式トイレの原理等について,専門家ならではの視点で解説いただいている.
    次いで,山岳地域等に設置されているバイオトイレの現状や問題点について紹介いただいている.山岳地域ではいうまでもなく,インフラが未整備であり,そのような環境でも利用可能なバイオトイレの重要性は高まるばかりで,それらの実証例として環境技術実証モデル事業の紹介もされている.設置後の問題点や改善策など継続利用も視野にいれた展望もあり,日頃使用する機会の少ない方々や自治体の方々にとっても,わかりやすい内容になっている.
    さらにトイレ掃除と学校教育という観点で取り組んでいる「京都市掃除に学ぶ便きょう会」の活動については,トイレ掃除というごく普通の,誰にでもできる活動を通して得られる自己効力感等について体験談が紹介されている.昨今の多様な価値観の中で,トイレ掃除というシンプルな体験から得られることの大切さを実感させられ,トイレに対する考え方として新鮮な内容となっている.
    最後は,最近のトイレの機能や役割についてである.駅や公園などの公共のトイレ,学校のトイレ,百貨店等のトイレの改善の様子や改善後の印象などからはトイレに対する考え方の変化が読み取れ,トイレを排泄行為以外の快適空間として考慮し,機能性,デザイン性,安全性などこれまでのトイレにはない様々な機能の紹介は,今後のトイレのあり方を考えさせられる.
    トイレに対する考え方や機能性は日々変わっていく.今回は紙面の関係で最近のトイレに関する考え方や傾向について代表的なものしか紹介できなかったが,本特集を機に,多くの読者が最近のトイレの進歩について認識を深めていただければ幸いである.
    最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
  • 寺沢 実
    2008 年 39 巻 5 号 p. 304-313
    発行日: 2008/09/25
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    おが屑を用いた乾式トイレについて紹介した.おが屑にし尿を混ぜ撹拌することで,し尿が極めて低濃度の臭気で消滅してゆくが,その原理・方法について記した.くみ取り式トイレの臭気の発生機構を検証し,おが屑の好気性の維持がバイオトイレの臭気発生防止に特に重要であること,したがって,水分の蒸発がスムーズであることが重要である.おが屑の有する諸特性,(1) 高い空隙率,(2) 適度な保水性,(3) 適度な水分蒸発性,(4) 低比重,(5) 耐摩耗性,(6) 耐バクテリア性などがこのシステムの維持に重要であり,さらに,(7) 生分解性が,使用済みのおが屑を多機能性循環資材へと変換するための鍵である.
  • 田畑 克彦
    2008 年 39 巻 5 号 p. 314-320
    発行日: 2008/09/25
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    山岳地におけるし尿処理問題は,1970年代の尾瀬の富栄養化に始まり,1990年代に起こった山岳地を水源とする河川における大腸菌検出を機に,再び問題視されることになった.こうした背景を受け,インフラが未整備な場所でも利用可能な非放流型し尿処理装置の開発が進んだが,環境保全効果等に対する客観的な評価が行われていないために普及が進まない状況にあったことから,環境省では2003年より,「環境技術実証モデル事業」に山岳トイレ技術分野を設け,技術の普及に努めることとなった.
    本実証事業も5年が経過し,2008年より実施体制を強化し事業を推進していく.これまでは,技術の実証方法と実証体制の整備を中心に検討を進めてきたが,今後はユーザーである山小屋事業者等のニーズへの対応も検討していく.
  • 岡城 孝雄
    2008 年 39 巻 5 号 p. 321-329
    発行日: 2008/09/25
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    自然環境の厳しい山岳地域のトイレにおけるし尿の処理,処分は不十分であり,その実態の把握が十分ではなかった.これに対し,富士山などを例とした実態調査結果を明らかにした.現在,自然環境の保全,利用者の快適性のため,様々な技術が導入され,実証されており,その実証の過程で得られた知見を基に,山岳トイレ技術を分類した.また,山岳トイレに必要な諸条件を整理し,山小屋,利用者が処理技術に求めるもの,それを評価する制度の必要性を提言した.これらの技術が多くの自然環境エリアに適用されることが期待されている.
  • 江嵜 和子
    2008 年 39 巻 5 号 p. 330-334
    発行日: 2008/09/25
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    京都市掃除に学ぶ便きょう会(通称 : 便きょう会)は京都市教育研究団体の一つである.主な活動は,毎月第2土曜日に行う学校のトイレ掃除(月例会)である.小学校2校において,「月例会」実施後にアンケート調査を行ったところ,「月例会」に参加した子どもたちと参加しなった子どもたちでは,2校とも「挨拶を自分からする」「学校のトイレをきれいに使うようにしている」という項目に有意な差が見られた.また,実施後の子どもたちの感想を分析すると,外発的動機で参加(消極的な参加)した45名の子どもたちでも,実施後は42名(93.3%)がトイレ掃除に肯定的な感想をもち,満足感や達成感をもったことが推測された.このような結果から,「月例会」における学校のトイレ掃除の実践は,子どもたちの心身における成長に繋がるのではないかということが示唆された.
  • 小林 純子
    2008 年 39 巻 5 号 p. 335-343
    発行日: 2008/09/25
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    我が国の公共トイレ改善は1985年頃からで,近年は衛生,安全,機能性等に加え休息感も求められ,今や日本が一番といわれるほど快適になった.筆者は約20年間,この動きの中で商業施設,交通機関,公園やまちの公共トイレ,学校のトイレ等の設計を中心に活動してきた.機能性とともに,まちの個室としての役割を意識し,利用者本位,ユニバーサルデザインを実現し,加えて施設やまちでの行動の補完の場として捉えた.それらは概ね好評だが設置後の課題も多く,特ににおいの問題は大きい.快適トイレの実現には竣工後のトイレの現況と原因を研究し,新たな提案や実践の積み重ねの必要性を痛感する.
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