データセンターの外気冷房システムは熱源システムと組合せて運用することが一般的であり、高効率運用のためには外気温度条件や負荷条件に応じた適切な運転モードの切り替えやサブシステム間の負荷分担が肝要である。本研究では、寒冷地に実装した間接外気冷房システムを対象に、制御設定値を条件に応じて適切に変化させることで、システム全体の運用最適化を行った。最適制御実装前後の2年間の実測データから、年間の空調システム効率が7.5から13.2に向上したことを確認した。また、非効率な運転を回避しつつ冷涼な外気の冷却ポテンシャルを最大限活用するためには、負荷分担の最適化が重要であることを示した。
建築物のライフサイクルを通して省エネルギー化に寄与するコミッショニング(Cx)が日本で普及していない理由の一つとして,Non-Energy Benefit(NEB)が十分に評価されていないことに着目し,Cx 導入時に生じるNEB 項目をまず網羅的に整理した。これに基づき国内事例における実態を関係者へのヒアリングにより調査し,各項目の有無を分析するとともに,一部の項目でその価値を定量的に示した。また,実態調査を通じて日本の建設業の課題とCx の関係性について考察した。今後の展望としては,本論文で提案した NEB 評価手法の改良,調査対象事例の増加,プロジェクト特性と NEBの有無・大小関係の考察をもとにしたNEB推定手法の開発が挙げられる。
本論文では,オフィスビルの脱炭素化への道筋を明らかにすることを目的とし,ビルオーナーとテナントからなる,マルチエージェントシミュレーションにより BEI義務基準や改修補助金といった施策シナリオを検討した。そのためにまず,既往のシミュレーションプログラムの各種パラメータを再調整し,電力・ガスの CO2 排出係数を新たに組み込むなど修正・改善に取り組んだ。シミュレーションの結果,検討した施策内容では 2030 年までに CO2 排出量を 51%削減することは困難であることが推察された。一方で,継続的に施策の見直しを行うことで,2050 年までに 70~90%程度削減できる可能性も推察された。
新鮮外気を取り入れて換気が行われる開放系における空気齢測定では,トレーサガスを用いた実験法が確立されている一方で,室の排気を処理し室内に再度給気する空気循環系における空気齢測定の実験法は確立されていない。そこで,本研究では動的定常濃度という概念を応用した空気循環系におけるトレーサガス実験法の理論的な検討を実施する。さらに,実験法の適用に関する知見を得るため,CFD 解析による検討や実験的検証を実施した。本報では,空気循環系における動的定常濃度の概念と空気齢分布との関係を理論的に考察し,実空間において空気齢分布の測定を行う際の,漏気による空間各点の濃度変化への影響について CFD 解析による検討を行った結果について報告する。
ダクトの接続部であるフランジ部は,ダクト漏気箇所の中でも漏気量が多い箇所の一つである。本研究では,フランジ部の漏気量低減に効果的なシール方法を調査するために実験を行なった。アングルフランジ工法と共板フランジ工法のそれぞれで,フランジ部のシール材にダクトシーラーまたはアルミニウムテープを用いた場合の漏気量を測定した。その結果,アングルフランジ工法では,いずれの実験でも漏気量が少なかったため,効果的なシール方法の発見には至らなかった。共板フランジ工法では,はぜのある角のコーナー金具の隙間にダクトシーラーを外側からも塗布することが漏気量低減に効果的だった。