コンピュータシミュレーションを用いて太陽熱冷暖房の省エネルギ効果と経済性を検討し,太陽熱冷暖房が経済的に成立するための要因を明らかにしてゆくための研究の第2報である.第1報においては,検討の対象とした太陽熱冷暖房方式の概要を説明し,次いで各機器の数学モデルと仮定した構造を記し,さらにシミュレーションの計算手順とシミュレーション計画を述べた.本報では,シミュレーションの結果を図・表の形で整理して報告する.図・表から読み取れる内容の要点を記すと,暖房に関しては,結果を図-3〜図-5にまとめた.(1)負荷変動と利用可能エネルギ変動のズレをカバーするために,蓄熱そうは暖房の場合,非常に効果的である.集熱面積50m^2,3tの蓄熱そう,温水温度45℃で太陽熱依存率・システム効率が蓄熱そうのないものに比して各々3.5倍,3倍となる(図-3参照).(2)蓄熱そうがあり,集熱器も負荷に対して十分な大きさのある場合は,システム成績係数が3.0を超すことが可能である.(3)蓄熱そうの適正規模は図-5より読み取れるように,本報告書で仮定した程度の保温であると意外と小さい(3〜6t)ところに表れる.またその規模は集熱面積や温水温度とも関係があるので,負荷の大きさ以外に,これらの要素を考慮して決定する必要がある.(4)集熱面積50m^2,蓄熱そうのある場合は太陽熱依存率が高く,したがって補助熱源に電気ヒータのような単純なものを用いてもシステム成績係数はかなりよいが,20m^2では補助熱源への依存率が高く,補助熱源の選択に十分留意する必要がある.(5)省エネルギの観点からすれば,50m^2の集熱面積をもつもののほうが20m^2のものよりも貢献度は高いが,経済的最適値はこれ以下のところにある.冷房に関しては,結果を図-6〜図-13にまとめた.(1)特殊な設計(集熱器面積を非常に大きくとり,集光度を高くする)をしない限り太陽熱依存率は50%に近づかない.すなわち太陽熱が冷房の主エネルギとはなり難く,システム効率は併用される熱源の効率に強く支配される.(2)図-9にみられるように,作動下限温水温度を下げると集熱量は増加するが,それ以上に吸収冷凍機の効率は悪化してしまい,システム成績係数は図-6などにみられるように下降する.これは,理論効率をモデルとして用いているためでもある.今後,実際の低温稼動の冷凍機のCOPについて再度計算し,確認する要がある.(3)集光形,Selective Surfaceを用いることは,作動温水温度の高い場合に効果的である(図-8参照).またSelective Surfaceを用いると,受熱面積を3〜5割増加させたのと等しい効果がある(図-13参照).(4)暖房と異なり,日射の時間変動と空調負荷変動が割合よく一致するために,負荷に比して集熱面積がかなり大きくないと蓄熱そうを設ける意味はうすい(図-12参照).(5)集熱温度の低い場合は,集熱面積が広くても蓄熱そうの効果は少ない(図-12参照).(6)100m^2程度の集熱器があり,蓄熱そうを設ける場合の蓄熱そう容量の効果限界は,3〜6t付近である(図-12参照).第4章に経済性の検討の結果を述べたが,現時点(シミュレーションの対象期間が短く,太陽熱冷暖房用機器の実際の性能が明らかでない.また価格も明確でない.さらに比較相手の在来システムのシミュレーションが行われていない時点)では,経済性を論ずるのは無理があり,本章の表は飽くまで一つの目安を示すに過ぎない.なお本研究は,通産省のサンシャイン計画の委託研究として,空気調和・衛生工学会の太陽熱暖冷房委員会が行った昭和49年度の研究の一部である.
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