帯水層蓄熱システムは,地下水を利用するため,環境面・長期間運用面から年間で地中の熱バランスを平衡させる必要がある。本研究では,我が国の温暖地域における熱負荷の冷暖房不平衡の対策としてフリークーリングまたはターボヒートポンプを用いた蓄冷方法の2 法を考え,システム成績係数(SCOP)を大阪の気象条件下で比較した。数値シミュレーションを用いたターボヒートポンプモデルは,実機に応じた特性式を作成した結果,冷水温度・冷却水温度・負荷率・インバータ周波数に応じて,性能を正確に再現でき,シミュレーションにより湿球温度13℃以下の領域ではSCOPはフリークーリング蓄冷方式が高いことを明らかにした。
本研究は風向可変式のパーソナル吹出口の冷風刺激が作業パフォーマンスや生理・心理応答に与える影響について検証することを目的とした。健康な成人18 名(内女性4 名,年齢38.4±10.4歳)を対象に,個室型ブース(室温約26°C)において90 分間座位安静にし,パーソナル吹出口による吹出の有無(吹出温度約22°C)の2 条件で認知課題を実施させた。吹出あり条件において,平均皮膚温および手背部温は低値を示し,背部-手背部皮膚温度差は高値を示した。また,認知課題成績は吹出あり条件において高値を示した。パーソナル吹出口の使用割合は顔周辺が最も高く,次いで手部が高い割合を示した。手部へのパーソナル吹出口使用割合が高い者ほど,交感神経活動の活性化が示された。これらの結果より,パーソナル吹出口の使用が末梢血管の収縮を促進し,交感神経活動を活性化したことによって覚醒度が維持され,作業パフォーマンスの向上に寄与したと考えられる。
PEM(Proton Exchange Membrane)電解槽では PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)と同様に、高価な貴金属触媒が電極に使われており、価格の安い代替触媒が広く調査されている。本研究では、炭素素材から生成されるフラーレンを使用した Ni-CNO(Ni–Carbon Nano-Onion)触媒を用いた電極を PEM 電解槽のカソードに適用する。フラーレンは Ni の劣化を防ぎ、成功すると大幅なコスト低減となる。Ni-CNO 電極を用いた膜電極接合体(MEA: Membrane Electrolyte Assembly)を実験計画法によるパラメータ分析を適用して、作成工程の最適化を図った。一方、従来の PEM 電解槽に VRE(変動再エネ)を模擬した電力変動を印加すると、電力から水素への変換効率は低下することが知られている。このため本研究では、太陽光発電と風力発電を模擬した変動電力を Ni-CNO 電解セルに印加した際の、エネルギー変換効率を実験で調査した。この結果、Ni-CNO 電解セルは、従来の Pt 電解セルに比べて電力変動への感度が鈍いことが知れた。変動再エネで長時間の水電解を行う場合には、Ni-CNO 電極による PEM 電解槽のエネルギー変換効率は、Pt 電極による PEM 電解槽とほぼ同じであった。基礎特性と経済性を評価した結果、Ni-CNO 電解セルを用いたPEM 電解槽は有力な候補と考えられる。
一つの部屋に対し、複数の室外機を用いて空調を行う個別分散空調システムに対して、空調システム全体の運転効率を最大化させる EHP システム最適運転制御を開発した。開発した制御を実際の建物に導入して、制御動作や室内環境の検証を行い、制御動作は想定した制御をよく再現していること、室内環境も空調時において室温23~26°C、湿度50~70%の範囲となることを確認した。さらに、EHP システム最適運転制御の導入時におけるシステム COP を、制御なし、EHP 最適運転制御の導入時と比較すると、それぞれ 13%、3%向上しており、本システムの導入効果を確認することができた。
一方向気流を用いたウイルス感染症対策では,人の移動による外乱等で一方向気流の場が保持できなくなれば,ウイルス拡散防止能力及び輸送能力の低下を招く恐れがある。事前に実流評価で検証できれば,本対策での適切な室内環境構築のために非常に重要である。本稿では,人の移動方向が一方向気流に対して平行である場合を模擬した外乱に対して,パーティション型空気清浄機間に形成される一方向気流の時間変化を三軸方向の風向別風速により実測した。その結果,吹き出し式空気清浄機の設定風量,空気清浄機間の距離,試験板の移動方向の設定によって,一方向気流の風速に顕著な違いが生じることを確認した。特に,鉛直方向の風速成分は,他の風速成分よりも人の移動に伴う外乱に対してロバストであることを確認した。
雨水を対象とした既存の建物の雑用水給水システムの配管をモデルとして残留塩素濃度の減少についてシミュレーションを行った。同時にこのモデルを排水再利用水にも適用した。現場の維持管理では,末端給水栓で残留塩素濃度0.1mg/L以上になるように維持管理するため,利用水への次亜塩素酸ナトリウムの注入量は経験的に,排水再利用水は5~15mg/L程度になるように,雨水利用水は2~4mg/L 程度になるように実施しているといわれている。そこで,この塩素の添加後の残留塩素濃度が適正であるか,さらにはどのように消毒の管理を行うべきかを提案することで進めた。
日本においては SPM 濃度に対する規制として、0.15[mg/m3]以下とすることが定められている。その一方で現実の SPM 濃度は 0.008~0.012[mg/m3]程度とほとんどの建物で基準値をクリアしている。通常の検査では午前・午後の 1 回に 5 分程度の計測を行って、その平均値が基準値を下回っていれば適合と判断する場合が多い。しかしこのサンプル数では統計学的には十分なサンプルを得ての判断とは言えない。本報告では SPM 濃度の実測データを用い、その時間的分布をモデル化した。またこの時間的分布に基づいて、逐次検定法による SPM 評価モデルを提案した。モンテカルロ法シミュレーションによりその特性を明らかにし、SPM 基準の測定に適したモデルである事を検証した。
本稿は高断熱な住宅においてエアコン暖気を床下に送り、暖気の屋内への搬送に専用のダクトやファンを利用しない暖房方式について実測し、そこから得られたエアコン稼働状況と基礎スラブにおける蓄熱性状について報告するものである。エアコンの稼働中に暖房が停止し低消費電力状態になると、床下の基礎スラブに蓄熱された熱の効果によって温度低下が抑制される現象が確認された。エアコンの稼働中に暖房が常時継続する状態においては基礎スラブにおいて熱が流出し続け、消費電力が大きくなる。これは床下暖房の負荷設計では基礎スラブからの熱損失の考慮が必要であり、消費電力抑制には暖房の間欠的運転よる蓄熱利用が有効であると示唆するものである。
本研究は大空間における独立式放射冷房の基本性能を明らかにすることを目的としている。本報では大空間における実運用時の室内温熱環境及び冷房能力の評価を目的に、同システムが導入された大空間を有する実在施設にて夏季実測調査を実施した。その結果、同システムは大空間において下層部のみを速やかに冷却・除湿することが確認され、大空間の冷房に適していることが示唆された。さらに、大空間の実測では放射パネル単体を対象とした実験室実験よりも平均で約 16%冷房能力が低下したことから、設計時において冷房能力の低下を適切に考慮する必要性が示唆された。
本論文では,前半部において,事務用椅子に温調機能を付加する採涼採暖椅子の実用化に際する課題を整理し,その解決のプロセスを述べた。什器に要求される性能として,座り心地,使い勝手,安全性,耐久性,製作性,保守の容易さが求められた。それぞれに対して,温調効果と什器としての性能をすり合わせによる解決を図り,実用化した。後半部では,実用機への変動風機能の実装について述べた。理論的に 1/f ゆらぎを生成し,実用機に実装した。