新型コロナウィルスCOVID-19 対策として防御性の高いN95 マスクの需要が医療機関を中心に高まっているが,増産には限度があり,品不足が深刻化した。医療機関における逼迫したCOVID-19 対策にはN95 マスクは必須であることから,一度使用したN95 マスクを除染した上で,再利用の可能性が検討されている。2020 年6 月時点でCOVID-19 に対する過酸化水素(H2O2, Hydrogen peroxide)の除染効果(不活化効果)が確認されているが,大量のN95 マスクを対象とした大規模除染方法に関するガイドラインが存在しない。本研究は,米国疾病対策予防センターCDC の委託を受け,N95 マスク再利用に向けた大規模かつ効率的な除染方法を数値解析にて検討し,除染ガイドライン作成の為の基礎データの提供を目的とする。本報(第1 報)では,一般的な海上輸送コンテナを閉鎖型チャンバーとして利用し,コンテナ内に気化させた過酸化水素(VHP)を充満させることでN95 マスクを大量に除染する場合を想定した数値解析を実施する。除染開始から濃度定常までの時間,コンテナ内濃度分布などを予測した上で,効率的な除染方法を決定するための基礎データ蓄積を行った結果を報告する。
本研究では、多くの長期運用下における熱源機の実際のCOP と、長期BEMS データを重回帰分析して得られる予測COP を比較することで、熱源機の劣化状態を定量的に評価するための指標として、COP 変化率の提案を行った。またCOP 変化率を用いて対象熱源機の効率推移の分析および、機器内部の洗浄などのメンテナンス記録との照合による分析を行った。その結果、メーカ推奨と同等の保全環境下にある熱源機については、稼働時間10 年前後では明確な劣化傾向が認められないこと、また提案指標によりメンテナンス効果の可視化が期待できることを示した。
電力系統の需給が逼迫しつつあることを背景に,需給バランスを保つための需要側で行うデマンドレスポンス(DR)制御が期待される。本研究は詳細なシミュレーションによって様々なDR 制御の効果を算出・評価することを目的とする。本報では水・空気回路の収束計算を含めた空調・建物の統合システムシミュレーションを構築し,実際の空調自動制御ロジックを組み込むことより,制御挙動を再現可能とした。また,6 つのDR 制御カテゴリーを想定し,ベースラインに対する電力デマンド削減と室内温熱環境変化の比較をケーススタディにより行った。本シミュレーションを用いDR制御により変化した電力デマンドと室内温熱環境に基づき、事前にDR 要請と温熱許容範囲を考慮する制御手法の検討が可能となる。
本研究はセンターコアに排気ボイドを有する矩形オフィスビルを対象に、自然換気を計画する設計初期段階で室内換気性状を定量的に予測可能なデータ蓄積及び外部条件に応じた自然換気口開閉運用方法の提案を行うことを目的とする。本報では換気量、換気経路が大きく変動する因子として予想される①外部風速、②ボイド開口比率(ボイドへの自然換気開口面積を全自然換気開口面積で除したもの)、③ボイド開口位置ごとにCFD 解析を行い、室内部各所における温度上昇と局所平均空気齢を算出した。なお、空調と併用した自然換気運用も想定し、空調制御単位となる7,200mm×7,200mm モジュール単位にデータ整理を行った。
本研究は、ZEB 化改修に先立ち、実在する中小規模オフィス (T ビル)を対象として、実測調査及びアンケート調査により現状の室内温熱環境を把握し、数値シミュレーションによって放射空調システムを導入した際の有 効性を明らかにすることを目的としている。以下に得られた知見を示す。 1) 実測調査より、対象執務空間において夏期・冬期において室内温熱環境に改善の余地があることを確認した。 2) 夏期に実施したアンケート調査より、従事者の約 8 割が現状執務空間に対して満足側となることを確認した。 3) 数値シミュレーションより、放射空調の導入及び外皮の高断熱化によって、水平面・鉛直面温度分布が均一化されると共に上下温度差も解消されることを確認した 。
熱中症防止のための健康管理指標として,実用性の面からWBGT(Wet-Bulb Globe Temperature,湿球黒球温度)が用いられる例が増えている。WBGT は,実測では,自然湿球温度計とグローブ温度計の測定値から直接求めることができるが,数値解析では,解析の出力値(気温,湿度,風速,熱放射)を,自然湿球温度とグローブ温度に換算する必要がある。しかし,一般的な空調分野の換算式は,日射や風速の影響の大きい屋外環境を想定したものではない。そこで本研究では,屋外環境にも適用できる測定器(感温部)の熱収支に基づく換算方法を導入し,数値解析からWBGT を求める方法を提案すると共に,換算式の違いによるWBGT 評価値への影響を検討した。
呼吸器感染症や消化管感染症の原因として、コロナウイルス、インフルエンザウイルスやノロウイルスなどがある。ウイルスは自己増殖できない微小なタンパク質粒子であるが、遺伝物質(DNA やRNA)を持ちヒトに感染した場合には悪影響を及ぼす可能性がある。ウイルスはサイズが30~300nm と小さく、呼吸器の奥深く肺胞に到達する。一方、感染後の重篤化にはウイルス以外の細菌などの影響もあるとされる。本報ではウイルスの特徴、影響する感染経路、湿度、トイレ廻りの気流の視点でまとめた。