筆者らは,建築設備の水配管システムの腐食対策として,アニオン交換樹脂により水道水中の腐食促進アニオンを除去した水(アニオン交換処理水)を用いた防食法に関する一連の研究を行っている。これまでに,アニオン交換処理水の炭素鋼に対する腐食抑制効果とその機構について報告した。第1報では処理水中に浸漬した炭素鋼の腐食電位の挙動および腐食速度から,腐食抑制作用は不動態化によるものと推定した。第 2 報では,プルベダイアグラムを用いた検討および腐食試験に伴う水質変化から,その作用の本質は熱力学的にも不動態化に起因し,カルシウムやシリカを主成分とする皮膜の影響が少ないことを示した。本報(第 3 報)では,アニオン交換処理水を作製する際のイオン交換率が流速などの影響を受けることを考慮し,アニオン交換処理水の腐食抑制効果が維持される水質範囲を検討した。イオン交換率の変化を模擬するため,水道水とそのアニオン交換処理水を任意の割合で混合した溶液を作製し,炭素鋼に対する腐食性を調べた。混合割合と炭素鋼の腐食速度の関係では,アニオン交換処理水の割合が高い水溶液中では炭素鋼に腐食が生じず,ある混合割合を超えると腐食が発生し,腐食速度が急激に上昇した。この腐食と非腐食との境界を水質で整理し,腐食性評価指標である SS 比とラーソン指数の両者によって,炭素鋼の腐食を抑制できる水質範囲を明らかにした。