臨床神経学
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54 巻, 12 号
選択された号の論文の87件中51~87を表示しています
<Symposium 18> 日常診療の中の神経心理学
  • 森 悦朗
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1095-1097
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    認知症では認知機能の異常が主たる症状であり,その評価や解釈が神経心理学そのものである.心理士がおこなう神経心理検査を指すのではなく,神経学的検査の一環として神経心理学がある.その役割として,局所徴候の診断はもちろん,認知機能の障害パターンから鑑別診断に供すること,能力障害を推測し,生活上の問題を予測すること,重症度,進行速度,治療に対する反応を計測することなどが挙げられる.変性疾患による失語症,行動神経学的徴候,視知覚障害と幻視を例として挙げて,認知症を対象にした神経心理学を拡張的神経心理学と呼んで論じた.
<Symposium 22> 自己免疫性脳炎の最近の知見
  • 飯塚 高浩, 井島 大輔, 金子 淳太郎, 西山 和利
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1098-1102
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    抗NMDA受容体脳炎は,NR1 subunit上の細胞外立体的エピトープを認識するIgG抗体によって生じる疾患である.本疾患は卵巣奇形腫を有する若年女性に好発するが,性別や腫瘍の有無に関係なくあらゆる年齢層で発症しえる.統合失調症,痙攣,CJD,seronegative NMO,HSV脳炎でも本抗体が検出され,臨床スペクトラムの多様性が指摘されているが,慎重に判断する必要がある.本疾患は治療反応性とされているが,約半数は第一選択免疫療法や腫瘍切除は無効であり,死亡率は約7%,発症24ヵ月後も約20%に高度の後遺症をみとめている.難治例では第二選択免疫療法(cyclophosphamideとrituximab)の早期開始が推奨されているが,本邦では未承認のため,十分な免疫治療ができないのが現状である.
  • 神林 崇, 筒井 幸, 田中 惠子, 大森 佑貴, 高木 学, 面川 真由, 森 朱音, 草薙 宏明, 西野 精治, 清水 徹男
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1103-1106
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    精神科領域において従来致死性(悪性)緊張病と呼び慣らわしてきた病態の経過が,抗NMDA受容体脳炎にきわめて類似していることが指摘された.これ以降,経過中に精神症状を呈する可能性の高い辺縁系脳炎は,精神科においても注目をあびることとなっている.難治性の病態ではある悪性緊張病だが,これまでには電気治療などが試みられて,ある程度の効果がえられていたと考えられる.抗NMDA受容体脳炎をはじめとした辺縁系脳炎の存在は,統合失調症患者群の異種性を明らかにしその一部の原因追求のため,重要な端緒になると思われる.本稿では,精神科領域からみた抗NMDA受容体脳炎と,その治療的アプローチについて述べる.
  • 田中 惠子
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1107-1109
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    抗NMDAR脳炎は,若年女性に精神症状で初発する特徴的な臨床像を呈するが,様々な臨床亜型が報告され,その臨床像は拡大を見せている.NMDARは,グルタミン酸のイオンチャネル型受容体として,シナプス後膜表面にGluN1とGluN2の4量体で形成される受容体で,抗体は細胞表面構造に結合する.本抗体を培養海馬細胞に作用させると,NMDARのendocytosisを生じ,NMDAR関連膜電位変化を生じる.筆者らは,海馬スライスをもちいて,本症由来の抗体が記憶形成のモデルである長期増強誘導を抑制し,マウス脳内への長期持続投与で認知機能傷害を再現し,本抗体が症状に深くかかわることが明らかにした.
<Symposium 30> 筋炎の病態研究の最近の進歩
  • 藤本 学
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1110-1112
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    皮膚筋炎では,これまで知られていた抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体,抗Mi-2抗体に加えて,近年,抗melanoma differentiation antigen 5抗体,抗transcriptional intermediary factor 1抗体,抗nuclear matrix protein 2抗体などが報告され,その臨床的特徴が明らかになってきた.皮膚筋炎の約80%にいずれかの特異抗体が陽性になることから,本症の診断に有用なツールとなる.さらに,これらの抗体は,合併症や予後の予測や治療方針の決定,疾患活動性の判定にも有用であると考えられる.
  • 清水 潤, 三森 経世
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1113-1114
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    筋炎の病態は多様であり,さまざまな特徴的な病理像と筋炎自己抗体が出現することが知られている.筋炎の約7割で筋炎自己抗体が出現するが,組織PM像では自己抗体の出現は少なく,筋束周辺部萎縮像では抗Tif1γ,抗Jo1,抗Mi-2抗体が出現し,筋内鞘血管補体沈着病理像では抗Tif1γ,抗MDA5,抗ARS抗体が出現,壊死性筋炎の多くの症例で抗SRP抗体が出現する.筋炎自己抗体と病理像からの筋炎へのアプローチは病態解明において相互に補う関係にある.
  • 青木 正志, 鈴木 直輝, 加藤 昌昭, 割田 仁
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1115-1118
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    封入体筋炎(sIBM)は骨格筋に縁取り空胞と呼ばれる特徴的な組織変化を生じ炎症細胞浸潤をともなう疾患である.厚生労働省,希少難治性筋疾患班ではsIBMの患者数把握・診断・治療改善に関する取組を継続しておこなっている.現在日本には1,000~1,500人前後のIBM患者がいると考えられる.筋病理をもちいたTDP43, p62などの検討も各施設でおこなわれており,診断マーカーとしても検討がおこなわれている.さらに2013年にはIBM患者血清中に抗cytosolic 5'-nucleotidase 1A(cN1A)抗体が存在するという報告もある.さらに現状では治療法が無い難病であるが,IBMに対するアクチビンのタイプII受容体をターゲットにした拮抗薬の治験も進行中である.
<Symposium 31> 神経変性疾患における神経炎症
  • 錫村 明生
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1119-1121
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    活性化グリア細胞が神経炎症をひきおこし,神経細胞傷害に関与する可能性が示され,神経変性疾患の発症機序におけるグリア細胞の役割が注目されている.われわれはミクログリアの神経傷害因子を検討し,グルタミン酸がもっとも強い神経毒であることを報告し,ミクログリアのグルタミン酸放出口であるギャップ結合を阻害することにより,種々の神経変性疾患モデル動物を治療できることを示した.一方,傷害神経細胞は様々なシグナルを出してグリア細胞を活性化し,自身を保護するように働くことも明らかになっている.これら神経細胞-グリア細胞の相互作用は病態の理解とともに,将来の治療戦略に対しても有用な情報を与えると考えられる.
  • 髙橋 和也
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1122-1124
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    TREM2遺伝子の異常は,多発骨囊胞と白質脳症を主体とする稀少常染色体劣性遺伝疾患であるNasu-Hakola病をひきおこすことが知られており,ミクログリアにおけるTREM2分子の機能について精力的に研究されているが,ヒト脳組織内ミクログリアTREM2の検出は難しく思うように研究が進んでいないのが現状である.一方,2013年TREM2遺伝子の一塩基変異がアルツハイマー病発症のリスク上昇に有意に関連しているという論文が発表された.TREM2の発現や機能については,いまだ解明されていない部分が多く,今後それらが明らかにされればTREM2はアルツハイマー病の新規治療標的となる可能性がある.
  • 斉木 臣二
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1125-1127
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病(PD)をふくむ神経変性疾患の病態進行にグリア細胞の関与する神経炎症が寄与することが明らかになりつつある.PD分子病態での神経炎症の役割については,疾患発症との因果関係は明らかでないものの,炎症性サイトカイン(IL-1β,TNFTα,IL-6等)や,細胞外細α-synucleinによるミクログリア活性化が病勢進行を促進するとされ1)2),またPD患者血清/血漿では,IL-1β,TNFTα,IL-2,ApoA1などが特異的に上昇すると報告されている3).本稿では神経炎症のPD分子病態への関与について,当方での知見を組み入れつつ,文献的知見を加え,まとめる.
  • 遠藤 史人, 山中 宏二
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1128-1131
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病巣では,グリア細胞の活性化やT細胞の浸潤がおこり,様々な炎症関連因子が放出されるが,このような現象は「神経炎症」と呼ばれ,ALS病態への積極的な関与が示されている.ミクログリアでは神経栄養因子のみならず種々の神経傷害性因子が産生され,アストロサイトではグルタミン酸のクリアランスが低下するなどの機能的変化が生じ神経変性に関与すると考えられる.さらに著者らは,ミクログリアとT細胞による神経保護性の炎症反応を制御する因子としてアストロサイト由来のTGF-β1の重要性をみいだした.ALSにおける神経炎症の病態機序の解明を通じ,グリア細胞やT細胞を標的とした新たな治療法の開発が期待される.
<Symposium 32> てんかん研究の最前線
  • 鎌田 崇嗣, 高瀬 敬一郎, 重藤 寛史
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1132-1135
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    局所皮質異形成は,難治性てんかんとの強い関連が指摘されている.われわれは,胎児期に頭蓋へ多発性の凍結損傷を与え,大脳皮質に皮質異形成を作製したラットモデルを作製し,自発てんかん発作を発症するかどうかを観察した.胎児期に皮質異形成を両側の前頭頭頂葉に作製したラットにて,出生後海馬にて自発てんかん発作波が観察され,臨床的にもヒトの側頭葉てんかんに類似したものであった.皮質異形成部と海馬での免疫組織化学的検討にて,てんかん原性の獲得の過程でグルタミン酸受容体を介した興奮性の変化がみられた.このモデルは,ヒトのてんかん原性獲得の機序を明らかにする手がかりを有すると考えられる.
  • 柿田 明美
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1136-1138
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    難治てんかん患者の焦点脳組織にみられる代表的な病型は限局性皮質異形性(focal cortical dysplasia; FCD)である.その皮質・白質にはびまん性のアストロサイトーシスがみとめられる.電子顕微鏡では,後シナプス領域の腫大や再髄鞘化像とともにこれらを取りかこむアストロサイトの突起の束がみとめられた.てんかん病巣では,シナプス,樹状突起,軸索における変性と再生がおこっているものと考えられ,その動的プロセスにアストロサイトやオリゴデンドロサイトが関与している可能性が考えられた.病態形成においてグリア細胞は積極的な役割を担っている可能性がある.
  • 上原 平, 重藤 寛史, 吉良 潤一
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1139-1141
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    近年の安静状態機能的MRI研究によって,6~8個の大規模機能的ネットワークが,脳ネットワークの基本的構成要素であることが明らかになった.4例の難治性てんかん患者のECoG記録を解析し,発作起始時速波をみとめる複数の領域と,これら大規模機能的ネットワークの空間的分布を比較したところ,良く合致していた.大規模機能的ネットワークが,てんかん性活動の伝播に寄与することが示唆された.一方,てんかん患者で,発作間欠期に大規模機能的ネットワークの結合性が低下することが報告されている.てんかん性放電の伝播により機能的結合性が障害されている可能性が示唆され,今後の検討が必要である.
  • 人見 健文, 髙橋 良輔, 池田 昭夫
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1142-1145
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は,常染色体優性遺伝で成人発症の皮質振戦と稀発全般てんかん発作を主徴とする.良性だが高齢者では皮質振戦の進行例もある.そこでBAFMEの進行性を検討した.加齢にともない皮質振戦は顕著となり,巨大SEPの振幅はさらに増大した.これにより加齢による一次運動感覚野の過興奮の増大が,皮質振戦を悪化させると考えられた.また母系由来でより顕著な臨床的表現促進現象をみとめた.これはBAFMEが母系由来のトリプレット・リピート病と共通した遺伝子異常を有する可能性を示唆した.以上より,BAFMEの少なくとも一部の病態と症候は,年齢や世代を経ると進行すると考えられた.
  • 赤松 直樹, 田中 章浩, 山野 光彦, 辻 貞俊
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1146-1147
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    高齢者のてんかんの有病率,診療実態を明らかにすることを目的として調査をおこなった.65歳以上の長期入院患者約738名の調査では,てんかん有病率が11.2%であった.患者70名の大学病院てんかん専門外来での調査では,発作型は複雑部分発作が多く,原因は脳血管障害をはじめとする器質病変が半数であった.器質病変のない側頭葉てんかんが半数を占めた.脳波は66.7%の患者でてんかん性放電をみとめ,診断に有用であった.抗てんかん薬治療で発作が寛解する患者が多く,単剤処方が多くを占めた.
<Symposium 33> TDP-43の新展開
  • 山中 宏二
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1148-1150
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    変異TDP-43タンパク質の生化学的特徴と臨床情報の検討から,変異TDP-43の細胞内半減期は延長し,半減期とALSの発症年齢は負に相関することをみいだした.本知見に基づき,TDP-43の細胞内半減期を自由に調節できる細胞モデルを開発した.TDP-43タンパク質を安定化するとタンパクの切断,界面活性剤に対する不溶化など孤発性ALSの病巣でみられるTDP-43の生化学的特徴を再現した.安定化TDP-43の存在下では自己mRNAの制御機能が破綻し,TDP-43タンパク質発現を慢性的に上昇させ,蛋白質の機能不全を惹起することを通じて,一部はgain-of-toxicityの機序で神経毒性をきたしうる.
  • 山下 雄也, 郭 伸
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1151-1154
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    ALSの病理学的指標であるTDP-43病理の形成メカニズムは未解明であり,引き金になるTDP-43の易凝集性断片形成に関与するプロテアーゼやその活性化メカニズムに関する合理的な説明はなかった.われわれは,孤発性ALSのもう一つの疾患特異的分子変化である,RNA編集酵素ADAR2の発現低下を再現するALSの分子病態モデルマウスの解析から,異常なCa2+透過性AMPA受容体発現を介したカルパインの活性化が,凝集性の高いTDP-43断片を形成することを明らかにした.この分子カスケードに通じるメカニズムは,孤発性ALSのみならず他の神経疾患に観察されるTDP-43病理形成にも当て嵌まることが強く示唆されたので概説する.
  • 石原 智彦, 柿田 明美, 高橋 均, 小野寺 理, 西澤 正豊
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1155-1157
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    TDP-43はRNA代謝に関連する核内蛋白である.その機能低下によるRNA代謝異常が,代表的な成人運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)病態機序の一つとして提唱されている.われわれはALS罹患神経組織において,TDP-43機能低下に由来した,核内小体の一種GEM小体数および機能性RNA蛋白複合体minor spliceosomesの発現低下がみられる事を報告した.同様の現象は小児運動ニューロン疾患である脊髄性筋無力症(spinal muscular atrophy)でもみとめられることから,運動ニューロン疾患における選択的神経変性において重要な役割をはたしている可能性がある.
<公募Symposium 01> 日本人に好発する遺伝性白質脳症の診断と今後の展望
<公募Symposium 05> 認知症根本治療の実現へ向けて
  • 古川 勝敏, 石木 愛子, 冨田 尚希, 荒井 啓行
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1171-1173
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    認知症の患者数の増加にともない,その診断法と治療法の向上は,現在の医学において最重要課題の一つである.診断においてはバイオマーカーの進歩が近年目覚ましい1~3).バイオマーカーは大きく(i)体液の生化学マーカーと(ii)放射線をもちいた画像の二つに分類される.アルツハイマー病の治療においては現在4剤が保険適応になっているが,いずれも神経伝達物質をモジュレートするものであり,根本治療薬ではない.根本治療薬としてはアミロイドβ(Aβ)をターゲットとした薬剤がいくつか開発されたが,いずれも治験の段階で効果が証明されず,実用にいたっていない.現在,タウをはじめとしてAβ以外の分子を標的とした薬剤の開発が活発である.
  • 島田 斉
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1174-1177
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    認知症根本治療薬の開発においては,①客観的診断法の確立,②背景病理の解明とそれに基づく治療標的の選択,③神経障害進行と治療効果の客観的評価系の確立,などが重要である.認知症病態に関与するβアミロイド蓄積やタウ蛋白病変などの病理変化は,創薬分野における標的分子となっているが,近年これらの脳病理変化を可視化する技術が登場し,その有用性が示されてきている.今後,分子イメージング技術による薬効評価系が確立し,認知症の根本治療薬の開発を進める基盤が整備されると期待される.本発表では,最近の認知症イメージング研究の成果について概説し,認知症根本治療薬の開発という創薬分野への応用可能性について考察する.
  • 添田 義行, 高島 明彦
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1178-1180
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    認知症は高齢社会にともなって患者数が増加している.その内,アルツハイマー病や前頭側頭葉変性症の一部の疾患は微小管結合蛋白質のタウが脳内に沈着することから,タウオパチーで総称される.したがって,タウは疾患を超えて認知症病態に関与すると考えられ,タウ標的薬剤(リン酸化阻害および凝集阻害剤など)は認知症治療薬として有望である.そこで本稿では,タウを標的とした薬剤の現在までの成績を臨床試験を中心としてまとめ,今後の認知症治療薬開発の一助としたい.さらに,われわれが発見した新規タウ凝集阻害剤の成績を記載した.これらの実験結果から,タウ凝集が認知症治療の重要なターゲットとなる可能性が示唆された.
  • 中村 治雅
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1181-1183
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病を代表とする認知症は認知機能障害の進行により日常生活が困難となり,患者本人のみならず介護者にもいちじるしい負担をきたすことから,新たな治療法の開発をふくめ早急な対策を必要とする疾患である.しかしながら,現時点で国内外において各種の認知症を根本的に治療できる薬剤は未だない.このような状況において,世界的にはアルツハイマー病を中心に認知症の根本的治療薬開発をめざし,疾患修飾薬の開発が活発におこなわれている.本稿では,アルツハイマー病を中心に現在の認知症治療薬の開発の現状とその課題,課題克服に向けたレギュラトリーサイエンスの取り組みを中心に述べる.
<公募Symposium 06> 髄液の産生・吸収機構の新しい概念と特発性正常圧水頭症の診断・治療の進歩
<Super Expert Session 01> 脳梗塞急性期診療における脳血管内治療と神経内科医の役割
  • 早川 幹人
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1197-1199
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    急性期脳梗塞に対する治療開始可能時間(TTW)4.5時間以内の経静脈的血栓溶解療法(IV t-PA)は有効性が確立した治療であるが,TTWが短い,主幹動脈閉塞への効果が乏しい,などの限界があるため,DWI-PWI mismatchに基づくTTW延長,DWI-FLAIR mismatchによる発症時間推定,次世代t-PA製剤,t-PAの用量設定,超音波血栓溶解などに関する臨床試験が進行中である.来院―治療開始時間の短縮は,現状のIV t-PAや血管内治療(急性期血行再建療法)の有効性向上に重要であるが,血行再建例の転帰改善のみならず,血行再建例増加を通して急性期脳梗塞例全体の転帰を改善させえるものである.
  • 岩田 智則
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1200-1202
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    脳血管内治療は近年めざましい進化を遂げており,主幹動脈閉塞による脳梗塞急性期での脳血管内治療は効果的な治療であり,重要な治療選択肢の1つである.しかし,現状では標準的内科治療(rt-PA静注療法をふくむ)に対する脳血管内治療の優越性を示す臨床試験(RCT)はない.今後は,脳血管内治療の対象患者を適切に決定し,今まで以上に再開通までの時間を短縮し,再開通率を上げる必要性がある.適切な画像診断をもちいた適応基準と新しい経皮経管的脳血栓回収機器:カテーテルデバイスをもとに,脳梗塞急性期における脳血管内治療の有効性のエビデンスがえられることを期待する.
  • 今井 啓輔, 濱中 正嗣, 山田 丈弘, 山﨑 英一, 山本 敦史, 傳 和眞, 竹上 徹郎, 梅澤 邦彦, 池田 栄人, 水野 敏樹
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1203-1206
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    急性期脳梗塞の緊急脳血管内血行再建術(ENER)には休日・深夜でも迅速に対応できる実施医の確保が不可欠である.神経内科医がENER実施医になるには脳血管内治療の研修が必要である.研修方式は同治療を主業務とする診療科での専任研修方式と,同治療とともに神経内科診療にも従事する診療科での兼任研修方式に大別される.筆頭著者の経験と当科スタッフの現状から考えると両方式にはそれぞれの特徴がある.神経内科医が脳血管内治療を研修する際には,大学をふくめた他の神経内科医や脳神経外科医の支援のもとで,両方式の特徴を理解し,各自の到達目標に応じた研修方式を選択することが大切である.
  • 髙田 達郎
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1207-1210
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    血栓回収療法は再開通率の高さとデバイスの扱いやすさからアルテプラーゼ静注療法無効例や適応外例に対して成果をあげている.再開通療法における治療成績向上のキーワードは再開通率の向上と再開通までの時間短縮化に集約され,脳卒中の初期対応医となりえる神経内科医も脳血管内治療による再開通療法は習得すべき知識や技術となった.しかし,神経内科単独での脳血管内治療技術の習得は十分な環境整備もないため容易でない.血栓回収療法は基本的なカテーテル技術を習得することで可能であるが,最短の時間で実施できる確実な技術が要求される.そのため,日常的に担当医として脳血管内治療にかかわり,知識と技術を習得できる環境と教育が重要である.
  • 松本 省二
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1211-1213
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    大学の神経内科教室の1例として,九州大学神経内科新入局者の中での脳卒中診療,脳血管内治療志向者の変化の分析(過去19年分)と人材教育プロセスを報告する.著者の所属する九州大学神経内科での過去19年119名の入局者中で脳血管障害を志向したものは14(12%)であった.その中で脳血管内治療の手技まで習得したいと希望した者は11人(9%)であった.しかし,昨年度(H25年度)の新入局者は7人中4人が,専門領域として脳血管障害を希望に挙げており,その4人全員が脳血管内治療の研修も希望している.近年目覚ましい脳血管内治療の進歩が,若い神経内科医の志向に影響をおよぼしている可能性がある.その気持をできるだけ維持し,脳卒中・脳血管内治療専門医として成長していけるようなシステムが全国の大学や脳卒中基幹病院に整備されていくことが必要と思われる.
  • 岡田 靖, 三本木 良紀, 鶴崎 雄一郎, 津本 智幸, 詠田 眞治, 矢坂 正弘
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1214-1216
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    脳卒中急性期治療の進歩の中で,血管内治療体制を兼ね備えた医療チームが整備されつつある.神経内科医が血管内治療に進むばあい,脳神経外科での一定期間の修練と循環器科とのチーム医療の経験が欠かせない.神経内科医は経過観察,内科治療に基づく健康寿命の延伸を念頭において,血管内治療に臨むことが重要である.内科・外科混成の脳血管内治療科を開設し,神経内科医,脳神経外科医,脳神経血管内治療医で脳卒中チームを組織することが,これからの包括的脳卒中センターには不可欠の要件となるであろう.
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