X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)には,軟X線分光検出器,軟X線撮像検出器,硬X線撮像検出器,軟ガンマ線検出器の4種類の合計6台の観測機器が搭載されている.科学観測のためには,これらの機器を,軌道上で同じ天体を同時に指向させて,ある許容誤差範囲内に維持することが必要である.そのため,本衛星の構造システムには非常に高い形状精度と安定度が要求された.また,硬X線望遠鏡の焦点距離12 mを実現するために,本衛星は軌道上で全長14 mという国産科学衛星としては最大規模の大きさとなった.開発および検証においては,本衛星は上記の精度のみならず強度検証においても特徴があった.軟X線分光検出器に搭載された冷凍機用のアイソレータが非線形な振動特性を有していたためである.本稿では,この高精度かつ大型なASTRO-Hの構造システムの開発および検証結果を精度と強度の観点から紹介する.
宇宙インフレータブル構造は,1950年代に米国での研究開発が始まり,その後,1990年代にヨーロッパや日本でも反射鏡や円筒構造物などの基本構造部材を中心に研究が行われるようになった.宇宙で使う大形な構造物は,輸送手段の制約を考えると,軽量化することはもとより,折り畳み式にせざるをえない.これまでのメカニカルな展開方法を使った構造物に対して,膜材料を主体に構成し,気体を導入することで膨らませて展開するという本構造は,本質的に軽く,また小さく畳むのに適している.宇宙インフレータブル構造技術について取り上げる今回は,まず反射鏡アンテナについてこれまでの研究をその背景を含めて述べる.次に膜構造のメリットが活かせる平面構造への応用をアンテナについて紹介する.さらに,インフレータブル式のパラボラ反射鏡は,太陽光の反射にも使えることから,太陽光発電衛星や,宇宙探査における電気推進や太陽熱推進への適用可能性を示す.
海上自衛隊練習機TH135型ヘリコプターはエアバス・ヘリコプターズの民間機H135ヘリコプターを原型機とする,最大8席3トンクラスの小型双発回転翼航空機であり,2009年初号機納入以来15機が鹿屋航空基地にて運用されている.本稿ではこのカテゴリーでベストセラーとなっている民間仕様のH135型ヘリコプターをどのように海上自衛隊初等練習機に適合させたかを述べる.
太陽活動に起因した太陽地球圏環境の変動は,人類の宇宙活動のみならず,電力・通信・測位システムなど現代社会の様々な基盤にも大きな影響を与える.また,太陽周期活動の変化は長期的な気候変動にも影響を与えることが考えられる.そうした太陽地球環境の変動を予測するために,これまで多くの努力がなされているが,未だに十分正確な予測技術を我々は獲得できていない.特に,従来の予測方法は過去の観測データに基づく経験的手法に依存しているため,科学的観測データが不足する大規模変動とその影響の予測には困難がある.また,太陽地球圏のダイナミクスは複合的現象であり,その理解のためには分野横断的な研究が不可欠となる.現在,我が国では多くの関連研究機関が協力し,新学術領域研究「太陽地球圏環境予測(PSTEP)」が進行中である.国内外の研究機関との協力研究を通して,今後,多くの成果が生まれることが期待される.