キューブサットなどの超小型衛星はその大きさから推進機を搭載することは難しいが,搭載できればミッションの幅が大きく広がる.また,宇宙ゴミにならないように25年以内にデオービットすることもルール化された.このような背景から固体推進剤を用いた真空アーク推進機(VAT-pi2)の開発を行ってきた.陰極である導電性の固体推進剤,陽極,コンデンサおよび電源からなる真空アーク推進機はその簡単な構造から小型化できロバストである.また低地球軌道に存在するプラズマと干渉することで点火装置なしで自発放電をすることが可能である.今回VAT-pi2の軌道上での動作試験を超小型衛星「鳳龍四号」で行った.300V発電太陽電池を電源として動作させている.また放電電流を計測できるオシロスコープを搭載しており,同時に放電の様子を撮影できるカメラも搭載されている.軌道上での実験の結果,VAT-pi2の放電を確認することができた.放電波形および放電画像の取得は引き続き行っていく.
今日では積層複合材,主に炭素繊維強化複合材(CFRP ; Carbon Fiber Reinforced Plastics)が航空機構造へと適用されることが一般的となっている.CFRP構造は従来の金属材料と異なり強い異方性を持つ材料であり,構造材として用いる場合はその異方性構造を最適に設計する必要がある.しかしながらその設計空間は複雑であり,また,製造可能な繊維の配向角度は離散的な値となることが多いため,複合材の最適設計にはメタヒューリスティクスを用いる場合が多い.本報ではなぜ積層複合材構造に最適化が必要なのかをご理解いただくために複合材料の力学基礎について簡単に説明し,積層複合材テーパー構造の設計に最適化を適用した事例を紹介する.また,複合材の製造技術の進歩により実現可能となった曲線状複合材の最適設計についても述べる.
モンテカルロ・シミュレーション(MCS)は,計算機の能力向上に伴って航空宇宙機の飛行前のシステム評価手段として国内外で広く利用されるようになってきている.MCSは多くの不確定性を含む非線形システムを,直接評価できる利点があり実用性は高い.JAXAにおいてもこれまで様々なプロジェクトや実験検討においてMCSを利用してきた.これまではプロジェクトごとにプログラム開発を行い,その都度MCSの実行環境を整えてきた.しかし今後の研究開発においてもMCSは有効な手段と見込まれるため,個別のプログラムに依存しない汎用的なシステムとして「MCS並列計算システム」を開発した.さらに本システムにはMCSを利用した独自開発の機能である「影響パラメタ検出機能」および「設計パラメタのロバスト最適化機能」を搭載している.本稿ではMCS並列計算システムのシステム構成,機能,ユーザインターフェースと,独自開発機能の概要について解説する.
筆者らのグループの最近の研究結果をベースに低レイノルズ数流れに対する数値シミュレーション(CFD)研究の現状を議論する.「実フライトレイノルズ数への空気力学の挑戦」という企画の趣旨を考え,翼型周りの流れを中心に現在のCFDができること,できないこと,わかってきたこと,まだわからないことを総括する.103~105程度のレイノルズ数領域において,2次元翼型を過ぎる流れは強い非線形性によって層流剝離泡に代表される複雑な様相を示す.コンピュータの高速化の助けもあって,Large Eddy Simulation(LES)に代表される最近の数値計算手法は,このような流れ場を十分に記述できるようになってきた.これら高信頼性の数値計算法を注意深く利用することで,CFDはこのレイノルズ数領域における流れ解析,翼設計の優れた道具となりつつある.今後は産業界も含めてより実用的な形状にその利用が進むと考えられる.
高精度平面視覚マーカArrayMarkは,マイクロレンズアレイを用いた特殊パターンによる高精度な姿勢推定が可能な平面型の視覚ターゲットマーカである.棒が突き出た従来の宇宙ミッションに用いられている3次元的視覚ターゲットマーカに代わる,省スペース・安価なマーカとしての活用が期待されている.我々は2015-2016年の約1年間,国際宇宙ステーションの「きぼう」船外実験プラットフォームにおいて本マーカの宇宙空間での長期曝露実験と技術実証実験を行い,その有用性と課題を明らかにした.本稿では,本宇宙実験の概要と結果を報告し,今後の展望について述べる.