天文衛星や地球観測衛星ではより大型で高精度な構造物が必要とされている.このような構造を構築するためには,軽量で弾性率が大きく熱膨張係数が小さい材料が必要である.熱膨張係数の小さい材料としては炭素や石英があり,各種の人工衛星の高精度構造にはこれらを利用した構造要素とその複合材料が活用されている.本稿では,電波天文衛星ASTRO-G(2011年中止)向け大型展開アンテナにおける各種高精度構造要素の構成素材に関する開発において発生した技術課題を発端として,筆者らが取り組んでいる将来のASTRO-Gのような大型アンテナをはじめとする高精度構造への適用を目指した材料および構造要素の開発に関する基礎的研究について紹介する.
本解説では,航空機周り実機高レイノルズ流れにおける数値流体力学の近年の取り組みを2つ紹介する.1つ目はフライトエンベロープ全領域の高精度な空力予測を可能とするLarge eddy simulation手法,2つ目は航空機空力設計のための完全自動化されたReynolds-averaged Navier-Stokes手法である.これらの研究は,次世代の航空機空力設計CFD技術の開発という大きな目標を目指した研究の一環として,近い将来,CFD技術が更に発展することで実現可能になると期待される.
トポロジー最適化は,ある形状設計課題において,力学的観点から最適な形状を創成する方法であり,構造最適化手法の中で,最も設計自由度の高い方法である.トポロジー最適化を用いれば,高い性能を持つ設計解が得られる可能性があるが,得られる構造は幾何学的に複雑な部分構造を含む場合が多く,一般的に製造が困難である.他方で,幾何学的に複雑な構造を造形可能とする積層造形技術が発展及び普及してきた.このような背景の中,近年,トポロジー最適化法も注目されるようになり,産業製品への展開も検討されつつある.本記事では,トポロジー最適化の方法論に関する歴史的な背景とその動向について概説する.また,トポロジー最適化を理解する上で,躓きやすい基本的な事項を中心に取り上げる.特に,最適化アルゴリズムの構築で要となる感度解析についてその導出過程を具体的に示す.
ゼロ熱膨張設計を行った炭素繊維強化複合材料(CFRP)製ハニカムサンドイッチパネルを主構造とした新しいアルミニウム反射鏡面を持つ軽量高精度鏡を部分的に製作し,「きぼう」簡易曝露実験装置(ExHAM)を用いて長期間宇宙空間に曝露させた後に地上に回収して詳細分析することで,地上試験では模擬できない,熱,紫外線,放射線,原子状酸素など複合的なストレス環境下での鏡面,材料,リフレクタ構造の耐性確認と長期間の経年劣化を定量的に得るためのCAGOME実験を開始したので紹介する.獲得された軽量高精度CFRP鏡の材料技術は高性能放射計(AMSR)等で計画される100GHz以上(テラヘルツ帯への拡張)のラジオメータに活用される.