脱炭素社会の実現のために,二酸化炭素(CO2)の排出量を2050年までに実質ゼロとすることを目標として,各所で検討が行われている.航空機に関しても同様であり,そのための解決策の一つとして注目されているのが水素航空機である.水素航空機の実現のために,機体に関する技術の検証が行われ開発も一部で進められているが,機体性能や仕様に関する議論が先行している状況である.本稿においては水素航空機の実現にあたりその運用の観点から考慮すべき項目や現行の航空機との違いを幾つか抽出するとともに,機体開発や設計を行う際に考慮が必要となる運用面からの課題について考察する.
「JSASS宇宙ビジョン2050」の増補版を作成するため,「有人宇宙輸送」をテーマとしたワーキンググループ(有人宇宙輸送WG)を設置し検討を行った.メンバーとして,宇宙輸送系,推進技術,宇宙船の専門家・研究者・ベンチャー投資家・宇宙飛行士が参集し,WG において活発な議論がおこなわれた.サブオービタル飛行や長距離2地点間(P2P)など新たな商業有人宇宙輸送の試みが国内外で活発化しつつあることを踏まえ,それに加えて,従来から有人宇宙輸送に採用されてきたカプセル型宇宙機,軌道間輸送,低軌道拠点,月拠点,そしてバーチャルリアリティ(VR)やテレイグジスタンス(TE)技術の活用なども含めて議論をおこない,有人宇宙輸送のビジョンとロードマップをとりまとめた.
飛行効率向上のため,一部の空域では運航者がフライトごとに飛行経路を設定する運航が実施されており,将来的にはより広い範囲で実施される見通しである.運航者が経路を設定するにあたり,軌道計算に用いられる航空機性能モデルは運航者の意思決定を支えるために十分な精度を有することが求められる.一方,航空機の性能は,使用状況,整備等によって運用中に変化するため,型式が同じであっても機体ごとに異なる.本研究では,運航者が所有する飛行データを用いて,機体ごとの性能を反映した航空機性能モデルを構成する方法を提案する.
本稿では,将来想定される軌道ベース運用における予測飛行時間の不確かさを,飛行条件と気象条件に基づいて正確に予測するモデルの導出方法を解説する.たとえマッハ数,飛行高度,飛行方向が一定に制御されていても,飛行時間の予測に飛行速度や気象条件の変動に起因する不確かさが生じることは避けられない.そこでその不確かさの大きさをあらゆる状況を考慮して正確に予測するべく,対地速度,飛行距離,マッハ数あるいは指示対気速度,風と気温の予報値の関数として,誤差伝播の法則に基づいた理論モデルを導出する.そしてそのモデルの係数を実際の飛行データのクラスタリングおよび線形回帰分析により決定することにより,定量的にも正確なモデルを得る.このようにして得る予測飛行時間の不確かさモデルは,将来の軌道ベース運用の安全性と効率性を同時に向上させることができるものと考えられる.