将来,増加が予想される航空交通量に対応するため“将来の航空交通システムに関する長期ビジョン”が策定された.その実現に向けて研究開発を促進するため,実運航データを基にした航空交通データ(CARATS Open Data)の提供が2015年2月に開始された.提供開始からまもなく5年が経過する現在までの間に,データ内容は段階的に拡充され,多くの研究開発が行われるようになった.また,行政にもその成果が寄与するようになってきた.本稿では,このCARATS Open Dataの仕様や特徴について説明し,データの元となる航空管制情報処理システムとそのデータの変換方法について述べる.また,提供開始から今日までのデータ内容の拡充および研究開発でのデータの活用状況と,施策への貢献などの実例,活用促進の取り組みについて説明する.最後に,今後予定されている航空交通システムや運用方法の改善について紹介する.
本稿では,観測ロケットベースの超小型衛星打上げ機による地球周回楕円軌道への軌道投入について,その飛行計画について概説する.本打上げ機による目標軌道は,遠地点高度約1,800 km,近地点高度約180 kmであり,近地点高度が低いために期待される軌道寿命は短い.飛行計画に対するミッション要求の一つとして,軌道寿命30日以上の軌道に衛星を投入することが挙げられる.機体誤差源や飛行環境の誤差が達成される軌道に対して大きく影響するため,これらの誤差が十分に小さくなるように管理しなければならない.ここでは観測ロケットをベースにして,どのように超小型衛星打上げ機としての要求を満足する軌道計画を立案したか,およびノミナル軌道に対する飛行分散や飛行安全に対する解析結果を示す.また飛行結果およびポストフライト解析を示し,将来的な能力向上の一案を紹介する.
新規複合材構造の開発においては,成形後に発生する部材形状のゆがみや残留応力等に起因する亀裂の発生が問題となる.従来は試作により成形型形状や温度プロファイルの変更を繰り返す試行錯誤を経て,所望の部材形状や特性を実現可能な製造プロセスを設定しており,開発の高コスト化を招く要因となっていた.そうしたなか試作を繰り返す従来手法に代わり,成形シミュレーションによって複合材内部の応力ひずみ状態を推定し,最適な成形プロセスを決定する手法が注目を集めている.新規複合材およびその成形プロセスの開発を,ひずみ発生メカニズムの観点から支援可能な光ファイバその場計測および高精度モデリングの技術基盤を構築したので,その取り組みについて概説する.
旅客機の騒音の国際基準は徐々に厳しくなってきており,近年,機体メーカーから脚単体に騒音要求が課せられることも珍しくは無くなってきている.航空機の脚メーカーである住友精密工業はFQUROHプロジェクトへ参画し,JAXA実験用航空機「飛翔」主脚騒音低減デバイスの設計・製作を担当した.デバイスの設計においてはCFD解析と風洞試験等の結果から騒音低減性能,運用に対する強度を有することを確認するとともに,熱流体解析によってブレーキ性能への影響が無いことを確認し,機体の整備性,安全性にも配慮した.2017年にこのデバイスを搭載し行った飛行試験では,タイヤホイール穴塞ぎ等の他の騒音対策も含め,主脚単体の評価で4.0~4.8 EPNdB(Effective Perceived Noise in decibels:実効感覚騒音)の低騒音化を実現することができた.