国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA : Japan Aerospace Exploration Agency)宇宙科学研究所(ISAS : Institute of Space and Astronautical Science)の高速気流総合実験設備(風洞設備)はISAS/JAXAプロジェクトにおける高速飛翔体の開発研究に供されるとともに,全国の大学共同利用施設として学術研究にも広く利用され,国内における空気力学研究の拠点となっている.本稿では,ISAS/JAXAの風洞設備の概要と,ロケット開発,大気圏突入機開発,さらには将来の宇宙輸送システム研究や大学共同利用による空気力学,計測方法に関する研究など本設備にて得られたこれまでの成果,ならびに,今後の展望について述べる.
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では,低ソニックブーム設計概念を実証するためD-SENDプロジェクトを進めてきた.本プロジェクトの第2フェーズ飛行試験(D-SEND#2)は,低ブーム設計概念を適用して設計・開発した試験機を成層圏気球から落下,飛行させ,地上付近でソニックブームを計測する試験である.2013年の試験は試験機に飛行異常が発生して所望のソニックブーム計測が行えなかったが,2015年の試験では試験機を正常に飛行させて,低ソニックブーム波形を計測することに成功した.特集の第5回として,本稿ではD-SEND#2の誘導制御系設計・評価の概要を述べる.
鳥の翼はケラチンという柔らかさと丈夫さを兼ね備えた蛋白質でできている.鳥の翼の翼端には風切り羽があり飛行中に空気の力によって上方に反り返る.その空気力学的な効果を分析するための研究を行った.硬い材料と柔らかい材料で風切り羽の模型を作製し,風洞実験により性能を比較した結果,柔らかい羽は硬い羽に比べて反りによって大きな上反角を持ち,横滑りを防いで直進安定性を高める効果を持つことがわかった.一方,柔らかい羽は空気力との相互作用によりフラッタを発生しやすいという問題を持つが,鳥の風切り羽が持つリフレクションが捩れフラッタや曲げフラッタを抑制する効果を持つことを風洞実験により確認した.鳥はその翼を地上では短くたたみ,飛行中は伸展するため大きな変形を可能にする柔軟性と,多少の外乱の中でも飛行できる安定性を備えていなければならない.鳥の羽が持つ柔らかさはそれらの要求を同時に満たすことができる便利な特性と言える.
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構は,増大する航空需要に対応するため次世代運航システムの研究開発プロジェクトDREAMSを実施し,航空機の離着陸フェーズを対象に5つの技術分野での技術開発を行った.その内の1つである低騒音運航技術では,航空交通量が1.5倍になっても現状と同等の騒音暴露とすることを目的とした最適経路生成技術に関する研究と,気象条件が騒音伝搬に与える影響を考慮可能な騒音予測技術の研究を実施した.研究成果は国際民間航空機関(ICAO)環境保全委員会(CAEP)のワーキンググループに報告し,プロジェクト目標を達成した.