日本航空宇宙学会が日本航空学会から名称を変更してから2018年で50年となる.これを機に第50期理事会は宇宙長期ビジョンを学会から提言することを決定した.1年間の検討を経て「JSASS宇宙ビジョン2050」を完成させ,2019年に開催された第50期年会講演会で公表した.「JSASS宇宙ビジョン2050」は,外部の意見を取り入れて2050年およびそれ以降の宇宙活動を描いた「宇宙ビジョン2050」,それを実現するための科学技術の進展状況を描いた「宇宙科学技術ロードマップ」,今後検討すべき法政策課題や人文社会科学領域を示した「宇宙総合政策ロードマップ」で構成されている.
2008 年に設立されたベンチャー企業である株式会社アクセルスペースは,これまでに世界初の民間商用超小型衛星WNISAT-1を含む,合計3機の超小型衛星の開発を手掛け,さらに打ち上げ・運用の経験を蓄積してきた.2015年からは,自社事業として多数の超小型衛星により地球全土を毎日観測するプラットフォーム「AxelGlobe」の構築を進めている.AxelGlobeを構成する衛星はGRUS(グルース)と呼ばれる100kg級の超小型衛星である.AxelGlobeでは全GRUS衛星が同一の軌道面(高度600kmの太陽同期軌道)に均等に投入されることが特徴であり,ミッション遂行期間にわたって同様の配置を維持する必要がある.このためには軌道内のフェーズ調整(軌道内位置の変更)が必須の機能として要求される.したがって推進系の搭載が必要となるが,超小型衛星の場合は容積・電力等各種制約が大きく,開発は容易ではない.本稿ではAxelGlobe計画について紹介しつつ,ユーザの立場から見た小型推進系への期待および要望について整理する.
近年の航空機システム開発における誘導制御則の性能評価にあたってはモンテカルロシミュレーション(MCS)が利用されるようになってきており,JAXAのD-SENDプロジェクト第2フェーズ試験(D-SEND#2)においても誘導制御則の設計要求の1つとしてMCSによるミッション成功率が設定された.しかし,システムの誤差モデルを適切に設定しなければ誤った性能評価につながることもある.実際にD-SEND#2第1回落下試験の誘導制御則設計に供した空力誤差モデルは過小評価されていたため,事前のMCSでは要求されたミッション成功率を達成していたものの,想定以上の空力誤差と安定余裕の不足により落下試験の失敗につながった.空力誤差モデルが適切であったならば,制御性能と安定性を両立できる誘導制御則をMCSにより効率的に設計できた可能性がある.本稿ではこれを検証するために,MCS並列計算システムを利用してD-SEND#2第1回落下試験の誘導制御則再設計を行った例について解説する.
カーボンナノチューブ(CNT)は,その高い機械的特性や電気的特性のために,従来実現が困難と考えられてきた宇宙エレベーターのケーブル材料の用途として期待される.本報告では,前稿に引き続き,CNTの宇宙環境における耐宇宙環境性を調査することを前提に,高度約400kmでの曝露実験の事前検討として,この空間で大きな影響を及ぼすとされる原子状酸素(Atomic Oxygen : AO)の地上対照試験を実施した.CNT試料について,その分子構造に発生した変化をとらえることを目的とした分析を行った.分析手法として,放射光施設を用いたX線による高度分析の一つである,X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure : XAFS)を用いた.CNT試料の持つ分子構造に対し,既存の炭素系材料との違いを調べ,さらにAOの照射による影響に関する分析結果を紹介する.