宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空技術部門構造・複合材技術研究ユニット(元航空本部複合材技術研究センター)では,これまでの複合材研究開発実績を基に脱オートクレーブ(OoA : Out of Autoclave)法を用いたスピードブレーキを例に,設計・試作を行い,航空機に装着して飛行実証を試みた.航空機構造部品に関する材料選定から,設計,製造,地上試験,飛行試験まで一連の研究として公開する機会は非常に少ない.また,実機を用いて技術適用の可能性を示すことは,今後の我が国の航空技術研究開発のアプローチや構造技術研究者へのモチベーションにも大きく影響すると考える.本解説では,航空機部品としてスピードブレーキを選定し,OoA工法を用いた複合材構造を設計,試作,強度確認試験,飛行実証を行った結果概要について紹介する.
近年,人の手で行われてきた大型建造物(高層ビル,橋,ダム,船など)の検査解析や広範囲に渡る航空計測などに無人小型飛行体(ドローン)を導入する機会が増加してきている.これは,大掛かりな手順やリスクを伴う作業の単純化と安全性の向上がドローンを導入することによって可能になったからである.一方で,ドローンには様々な制約が存在しているため(飛行可能時間,荷重制限,飛行可能な風速制限や気象条件など),これらを攻略する技術的な課題に直面している.ハードウェア分野においては小型モーター(エンジン),小型電源(エネルギー伝送),素材(複合材料)などの課題が,ソフトウェア分野においては主に人工知能技術(画像認識,自律飛行,アーキテクチャ開発など)の課題に直面している.本解説では,現在ドローンが抱える課題に言及しつつ,実用化されたドローンシステムを一層の活躍が見込まれる建造物などの検査解析・計測・探索分野に用いた場合の優位性について紹介する.
ヘリコプタの回転翼に適用されるアクティブ制御技術について概説する.ヘリコプタは回転する翼によって垂直離着陸や空中停止ができるようになっているが,前進飛行するときは回転面を傾けるため,翼にとっては前進側と後退側では流入速度が異なり,舵角を常に変えることで空力のバランスを保っている.先行する回転翼の翼端渦などの後流が後続する回転翼と干渉し,振動や騒音を引き起こす飛行条件もあり,軽減策として種々の回転翼に装着するアクティブ・デバイスが提案されている.アクティブ・フラップやタブ,回転翼自体のねじり変形を制御するアクティブ・ツイスト技術について,国内外における状況をまとめた.
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構は,増大する航空需要に対応するため次世代運航システムの研究開発プロジェクトDREAMSを実施し,航空機の離着陸フェーズを対象に5つの技術分野での技術開発を行った.その内の1つである高精度衛星航法技術では,電離圏異常時の航法信頼性を維持することを目的として,慣性航法装置(INS)で補強した機上衛星航法システムの研究開発を実施した.地上・飛行実験およびシミュレーション試験により得られた研究成果は,米国航空無線技術委員会(RTCA)のワーキング・グループ等で報告し,プロジェクト目標を達成した.