本研究では,水素社会の普及に対応する将来の航空機システムについて,主に推進系の比較検討を行った.水素は単位質量あたりの発熱量が高く,搭載燃料を軽量にできる利点があるが,密度が低くタンク容積が大きくなることが欠点となっている.また,燃料電池自動車等に用いられている固体高分子形燃料電池(PEFC)等による電力変換が可能なこと,極低温の液体水素は冷熱源として利用しやすく,電動機器を超電導としやすいことも特徴としてあげられる.これらを踏まえ,化石燃料を使用し燃焼により動力を得る現在の推進システムをベースに,推進の電動化を含む将来の推進系候補を17ケース選定し,推進系を構成する要素の効率,重量見積もりから航続距離の簡易的な比較を行った.この結果,飛行速度の低い小型機において,液体水素を利用するケースが将来技術レベルにおいて競争力を得やすい結果となった.
人工衛星などの実利用が進む地球周辺の宇宙環境は,太陽活動に起因する太陽風や高エネルギー粒子の変動によって大きく変化する.このような宇宙環境の変動によって,人工衛星等の宇宙機に不具合・障害が発生することがある.このため,安心・安全な衛星運用には,宇宙環境に起因する宇宙環境変動の現況とその推移予測を行う宇宙天気予報の利活用が必要である.衛星に深刻な障害をもたらす要因の一つとして,帯電・放電現象があり,これらはサブストームや放射線帯粒子増加等の宇宙環境変動によって引き起こされる.しかしながら,個々の衛星の構造・材質の特性が異なることや,現象の時空間変動が大きいことから,場所の異なる個別の衛星ごとに衛星帯電に起因する障害のリスクは異なる.そこで,高精度の宇宙環境変動予測モデルと衛星帯電モデルを結合することで個別の衛星ごとの帯電リスクを推定し,衛星運用者に対する宇宙天気予報の利活用を促進する研究開発を推進している.
SIMPLE(Space Inflatable Membranes Pioneering Long-term Experiments)は,国際宇宙ステーションの日本実験棟曝露部に取り付けられた混載型の実験装置ユニットであるポート共有実験装置(Multi-mission Consolidated Equipment, MCE)を構成する5つの実験装置の1つであり,それを使った実験プロジェクトの総称である.SIMPLEでは膜構造を少しでも実用化に結びつけるための実用的な実験と,そのための基礎技術を確立するための実験が行われた.実験装置は2012年7月にHTVの3号機で打ち上げられ,約2年の定常実験とその後の追加実験を行い,2015年9月にHTVの5号機に積まれて大気圏に再突入し,燃焼廃棄された.本報告と,これに続く次報告で,SIMPLEについての概略と,そこで行われた各種実験の概要とその成果について解説する.
Sikorsky式S-76D型ヘリコプターは2012年にFAAの型式承認を取得した最新鋭機であり,現在主流である統合型のアビオニクス・システムをはじめ,様々な最新技術が取り入れられている機体である.本稿では機体の性能及び機能を紹介するとともに,当該機の特色について述べる.