1859年に発生したキャリントンフレアは,過去500年間に記録された最大の太陽フレアイベントといわれている.但し,既存の衛星設計では,1989年10月の太陽フレアイベントをワーストケースとして使用している.本稿では,安心・安全な宇宙利用のために,もし,キャリントンクラスのフレアが発生した場合,運用中の衛星にどのような被害を及ぼすかを推定する.
ひとみ(ASTRO-H)は,2016年2月17日に種子島宇宙センターからH-ⅡAで打ち上げられたX線天文衛星である.軟X線分光検出器(SXS)は,ひとみに搭載されている検出器の1つで,軟X線の波長を測定するものである.SXSの開発段階において,液体ヘリウム冷却用の2段スターリング冷凍機を駆動すると検出器ノイズが大幅に増加し,目標の分光性能を実現できないことが判明した.原因を切り分けた結果,ノイズの原因は冷凍機の微小振動によるものと推定された.そこで,SXS開発チームは,冷凍機用の振動アイソレータを開発し,冷凍機駆動による検出器ノイズを無くすことに成功した.そして,ひとみは打ち上げ後の初期校正運用中のSXSの観測結果において,高い科学的成果を挙げた.本稿では,開発した振動アイソレータの概要と,開発時の主要な課題について紹介する.
宇宙インフレータブル構造技術の第2回では,アンテナや反射鏡以外の応用事例とそれらに使える要素技術について紹介し,将来の研究開発に向けた技術的な課題を展望する.まず最初に,月や惑星の探査におけるローバーと,火星のような気体を有する環境で飛ばす航空機について述べる.特に低コスト化が強く求められるこれらのミッションにおいて,インフレータブル構造は極めて有効な選択肢になりうる.大きく軽い構造体は,地球や火星の大気での減速の手段としても有効であり,減速機についての研究開発も行われている.また,将来の宇宙空間や月・惑星における有人活動のための拠点としての居住施設への応用も考えられている.このような分野における民間企業の活発な活動も増えてきており,宇宙利用の新しい展開にも期待が持たれている.本稿では最後に,今後の技術課題を述べることで,将来この分野における研究開発が一層活発になることを期待したい.
将来の火星着陸探査ミッションに必要となる超音速パラシュートを開発するために我々はキー技術として空力性能,構造性能,放出機構に大別し検証を行ってきた.まず遷音速風洞,超音速風洞試験を実施しマッハ2程度まで損傷なく安定に開傘できることを確認した.またより大きな模型を用いて大型低速風洞試験を実施し,火星等価動圧環境で損傷なく開傘できることを確認した.一方で抵抗係数に関して動圧が増加するにつれて減少することが確認されており,今後,流体構造連成解析を用いて検証を行っていく計画である.放出機構に関しては自動車用インフレータを用いる放出機構を提案し,能代ロケット試験場での大気圧環境下鉛直放出試験を実施しその妥当性を検証した.2016年10月には総合試験として大樹航空宇宙実験場にてヘリコプターからの投下試験を実施し自由飛行環境下における空力性能データを取得することができた.